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やしお [や行]

 シロヤシオの花を見る機会を得た。本種のほか、アカヤシロ、ムラサキヤシオなど、ヤシオツツジの「やしお」は漢字にすれば、「八入」あるいは「八塩/潮/汐」。辞書を紐解けばその意味は“幾度も染め汁に浸してよく染めること。また、その染めた物。”とある。はたしてその色はと読み進めれば、万葉集に“竹敷(たかしき)のうへかた山は紅の八入の色になりにけるかも”とあり、「紅の八しお」とは紅花の濃染の深みのある赤、いわゆる深紅(しんく)のことという。シロはもちろん、アカもムラサキもヤシオツツジの花は深紅でもなければ濃くもないなどと、浅はかな思いをめぐらせ続け、ふと気づく。紅葉だ。これは秋にも行かねばなるまい。

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シロヤシオ 2019.5.26 釈迦ヶ岳(奈良県)



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やく [や行]

 「やく」という文字を含む植物名は、ほとんどが屋久島産を意味する「屋久」なのだが、いくつか「薬」を意味するものがある。本当に薬効を持つものもあればそうでないものもあるが、まずは日本薬局方に記載される正式な薬となるものにシャクヤク(芍薬)がある。その根が生薬の芍薬となる。中国からの移入種で、在来の近縁種にヤマシャクヤクとベニシャクヤクがあるが薬にはならない。同じく中国産のテンダイウヤク(天台烏薬、クスノキ科)は根が生薬の烏薬となる。コウシュウウヤク(衡州烏薬、ツヅラフジ科)は別科の在来植物だが葉の形が似ているためかこの名で呼ばれる。当然のことながら烏薬にはならない。後は民間薬の類となるが、ズダヤクシュ(喘息薬種)は咳止めとして使われたという。イチヤクソウ(一薬草)は、これ一つで諸病に効くという意味らしく、いくつも効能がある。 トウヤクリンドウ(当薬竜胆)の当薬と竜胆(りゅうたん)は、ともに健胃薬となる生薬である。ちなみに当薬とはセンブリのこと。「やく」ではないが「メグスリノキ(目薬の木)」というものもある。クスノキは「薬の木」が名の由来といわれる。最後に薬ではないが薬に関連したものとして、クスダマツメクサ(薬玉詰草)の花の形は開店祝いの薬玉のように丸いが、そもそも薬玉は、様々な薬を束ねた魔よけであり、端午の節句に飾られた。ヤクシソウ(薬師草)の名の由来は、医薬の仏として信仰される薬師如来の光背にその葉を見立てたというが、薬効もあるもかもしれない。

<薬が名になった植物>
芍薬:シャクヤク、ヤマシャクヤク、ベニバナヤマシャクヤク。烏薬:テンダイウヤク、コウシュウウヤク。当薬:トウヤクリンドウ。薬種:ズダヤクシュ。一薬:イチゲイチヤクソウ、コイチヤクソウ、コバノイチヤクソウ、ベニバナコバノイチヤクソウ、カラフトイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ムヨウイチヤクソウ、イチヤクソウ、オオベニイチヤクソウ、ヒトツバイチヤクソウ、エゾイチヤクソウ、マルバイチヤクソウ、ベニバナマルバイチヤクソウ、ジンヨウイチヤクソウ。薬玉:クスダマツメクサ。目薬:メグスリノキ。薬師:ヤクシワダン、ヤクシホソバワダン、ヤクシアゼトウナ、ヤクシソウ、ハナヤクシソウ、イワヤクシソウ。その他の薬:クスノキ

ヤマシャクヤク20180505滋賀県多賀町霊仙山.jpg
ヤマシャクヤク 2018.5.5 霊仙山

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るり [ら行]

 瑠璃(るり)色は、蝶の好きな人ならルリタテハ、鳥好きならルリビタキ、絵画ならフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のターバンの色といえば分かってもらえるだろうか。フェルメールはこの色を出すために高価な宝石のラピスラズリを砕いて顔料として用いた。瑠璃とはラピスラズリのことであり、仏教の七宝のひとつ、瑠璃色は高貴な色とされる。植物にも瑠璃を名に持つものがいくつかあり、最大のグループはムラサキ科ルリソウの仲間で瑠璃色の花を咲かせる。濃い青色系の花色を有する植物は日本には少ないので瑠璃を当てたくなる気持ちはわかる。他にも青い花を持つものとして、ゴマノハグサ科(APGⅢではオオバコ科)のルリトラノオの仲間、シソ科のルリハッカ、サクラソウ科のルリハコベがある。花以外に瑠璃色の部分に由来するものとしてはアカネ科ルリミノキの仲間があり、光沢のあるその実はまさに宝石の瑠璃のようである。ヒナノシャクジョウ科のルリシャクジョウは葉緑素を持たない腐生植物で全身に瑠璃色を帯びていて神秘的である。最後はルリデライヌワラビだが、これはどこにも瑠璃色はなく、発見地の兵庫県佐用町の瑠璃寺にちなんだものである。
<瑠璃を名に持つ植物>
ルリデライヌワラビ、アカバナルリハコベ(帰化)、ルリハコベ、ケシンテンルリミノキ、タイワンルリミノキ、タシロルリミノキ、ケハダルリミノキ、ルリミノキ、サツマルリミノキ、オオバルリミノキ、マルバルリミノキ、サワルリソウ、オニルリソウ、タイワンルリソウ、ウスバルリソウ、シロバナウスバルリソウ、オオルリソウ、エゾルリムラサキ、ナンバンルリソウ、エゾルリソウ、ヤマルリソウ、シロバナヤマルリソウ、トゲヤマルリソウ、ルリソウ、シロバナルリソウ、エチゴルリソウ、ハイルリソウ、ケルリソウ、ルリハッカ、エゾルリトラノオ、ヤマルリトラノオ、ルリトラノオ、シロバナルリトラノオ、ルリシャクジョウ
ルリミノキ20181117槇尾山.jpg
ルリミノキ 2018.11.17 大阪府和泉市槇尾山

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ふさ [は行]

「ふさ」は房のこと。意味は説明するまでもなく、「ふさ」を名に持つ植物にはどこかにフサフサしたものがあるはずである。フサザクラの花は花弁がなく雄しべが房状に垂れ下がる。フサシダは葉の先が細かく分かれ房状の胞子嚢をつける。フサスギナは細かく分岐する茎を、フササジランは輪生する葉を、フサタヌキモはその葉を房に見立てたものである。フサモの仲間は、羽状の葉が輪生し房のようになる。フサフジウツギはブッドレア名で流通する園芸植物でその花序が房状である。なお、イソフサギのフサは「塞ぐ」、のフサであり房状のものはない。
<房がある植物>
フサスギナ、フサシダ、フササジラン、フサザクラ、ウラジロフサザクラ、オグラノフサモ、ホザキノフサモ、トゲホザキノフサモ、フサモ、オオフサモ、フサフジウツギ、フサタヌキモ

フサザクラ20180331金剛山.JPG
フサザクラ 2018.3.31 金剛山黒栂谷(大阪府千早赤阪村)
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ざくろ [さ行]

 ミソハギ科の落葉樹のザクロの原産地については、南ヨーロッパや北アフリカ、あるいは西南アジアなどの説があるが、いずれにしても日本には中国を経由して渡来したものであろう。中国名は安石榴あるいは石榴であり、和名は中国名の呉音での発音「ジャク・ル」が転訛したとされ、本草和名(900年代初頭)に、すでに安石榴の和名を「佐久呂」とする記述がある。したがって和名のザクロは音韻を伝えたもので言葉の意味はないのだが、実は中国名の石榴は、原産地の一つとされる西南アジアのトルコ、イラク、イランにまたがるザクロス(英語:Zagros、ペルシャ語:رشته كوه زاگرس)山脈の音訳であるとされる。ザクロスが何を意味するかについては残念ながら不明である。ざくろの名を持つ植物としては、葉の様子がザクロに似ているというザクロソウ科のザクロソウとクルマバザクロソウ。ハマザクロ科(APGミソハギ科)のハマザクロ(別名マヤプシギ)もザクロに似た印象がある。あと一つアカネ科にハリザクロというものがあるらしいのだが情報不足でわからない。

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ザクロ 2016.6.10 大阪市鶴見緑地(植栽)

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ひいらぎ [は行]

 ずきずきと脈打つように痛むことを古語では「ひいらぐ(疼ぐ)」といった。現代の「うずく(疼く)」である。モクセイ科の常緑低木のヒイラギは「疼木」であり、なるほど、葉にある硬い棘を指に刺してしまったら、しばらくは疼くような痛みを感じることになりそうである。一文字の漢字「柊」は「疼木」を合わせ略したものとされる。
 「ひいらぎ」を名に持つ植物は、葉の形が本家ヒイラギに似ているか、鋸歯が鋭いものである。ヒイラギと近縁のものとしては、ヒイラギとギンモクセイの雑種とされるヒイラギモクセイがあるのみで、他は皆、科が異なる。クリスマスに飾られるセイヨウヒイラギはモチノキ科であり本家にはない赤い実をつける。

<ひいらぎを名に持つ植物>
ヒイラギデンダ(オシダ科)、ヒイラギソウ(シソ科)、ヒイラギ、ヒイラギモクセイ(モクセイ科)、ヒイラギヤブガラシ(ブドウ科)、ヒイラギズイナ(ユキノシタ科)、ヤマヒイラギツバキ(ツバキ科)、ヒイラギナンテン(メギ科)、セイヨウヒイラギ(モチノキ科)。

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ヒイラギナンテン 2016.12.24 大阪市長居公園(植栽)

れんげ [ら行]

 「れんげ」は「蓮華」、つまりハスの花のこと。如来様や菩薩様の仏像は、ハスの花をかたどった「蓮華座(れんげざ)」に乗っている。一方、中華料理で使うスプーンを「れんげ」と呼ぶが、正確には「ちりれんげ(散り蓮華)」という。つまり、花から離れた一枚の花びらのこと。れんげが名に付く植物には、蓮華座タイプと散り蓮華タイプがあるようだ。
 オオヤマレンゲ、レンゲショウマは花が、ベンケイソウ科のイワレンゲ、ツメレンゲの仲間は葉が蓮華座タイプ、同じベンケイソウ科でもヒメレンゲは葉が、レンゲツツジの仲間も葉が散り蓮華タイプだ。キレンゲショウマ、コダチキレンゲショウマはレンゲショウマに似ているところからという。レンゲショウマにも、ハスにもあまり似ていないがあえて言えば花が蓮華座タイプ。例外はレンゲイワヤナギ、高山帯の岩礫地に生育するこの植物の名の由来は白馬岳の別名の蓮華山である。謎はレンゲソウだ。この花、古くはゲンゲと呼ばれ、今でも標準和名はゲンゲなのだが、ハチミツの影響かレンゲのほうが馴染みがよい。元々の名のゲンゲは、平安貴族が履いた沓(くつ)のことで、一つ一つの花の形が似ている。レンゲの方はと言えば、花がハスに似ているからと解説されることが多いが、個々の花が散り蓮華なのか、花が集まった花序が蓮華座なのかよくわからない。ゲンゲの音韻がレンゲとにているのが原因のような気もする。

<れんげが名に付く植物>
レンゲイワヤナギ、オオヤマレンゲ、レンゲショウマ、チャボツメレンゲ、イワレンゲ、コモチレンゲ、ツメレンゲ、アオノイワレンゲ、ヒメレンゲ、キレンゲショウマ、コダチキレンゲショウマ、レンゲツツジ、キレンゲツツジ、ウラジロレンゲツツジ、レンゲソウ(ゲンゲ)

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レンゲツツジ 2014.5.30古牧温泉(植栽)


ひれ [は行]

 鰭といえば魚のもので、漢字も魚へんだ。植物に鰭状の部位があれば、解剖学的には翼(よく)と呼ばれる。しかし、ヨクが名前に付いた植物はなく、ヒレが付いたものなら若干存在する。ヒレアザミやヒレハリソウは、茎に翼を持っており、茎の強度を増す働きをしているそうである。ヒレフリカラマツはというと、どこにも翼はない。佐賀県の岩場に生育するこの花のヒレは「領巾」で、飛鳥、奈良時代の女性が装身具として、両肩に掛けて左右へ垂らした長い帯状の布である。愛しい男との別れの時、女はこの領巾を振る。
 今から1500年ほど前のこと、松浦(現:唐津市厳木町)の豪族の娘佐用姫(さよひめ)は、新羅に出征するためこの地を訪れた大伴狭手彦と恋仲となった。出征の別れの日、佐用姫は鏡山(別名:領巾振山ひれふりやま)の頂上から領巾を振り、船を見送っていたが、別れに耐えられなくなり船を呼子の加部島まで追って行き、七日七晩泣きはらした末に石になってしまったという。万葉集には、この伝説に因んで詠まれた山上憶良の和歌が収録されている。

 行く船を 振り留めかね 如何ばかり 恋しかりけむ 松浦佐用姫

<ひれつきの植物>
ヒレフリカラマツ、ヒレアザミ、マルバヒレアザミ、ヒレハリソウ

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ヒレハリソウ 2016.5.27 長野県安曇野市

けしょう [か行]

 ファンデーションを塗り終わったら、アイラインを描いて、シャドウを入れて、チークを入れて、リップを塗って・・・と、最新のメークアップの複雑な工程は説明しきれないが、昔は化粧といえば、白粉(おしろい)をはたいて、紅(べに)をさすイメージ。植物で化粧といえばもっと単純で白粉つければ概ね完成だ。
 ケショウヨモギは葉の裏側が化粧を施したように白いことが、ケショウアザミは茎が白い毛で覆われていることが、ハンゲショウは葉の半分が白く色付くことが名前の由来である。ケショウヤナギは、幼木の枝や幹が白粉で覆われることに加え、小枝は繊細で紅色を帯びて美しい。アカバナ科のユウゲショウ(夕化粧、別名アカバナユウゲショウ)は、夕刻に花を開き艶っぽいということだろうが、実はこの花、日中に開いて夜にはしぼむ。命名者がたまたま夕方に見たのか、マツヨイグサの仲間なので夕方なのか、真意を問いただしたいところである。種の中の白い粉を白粉にして遊ぶというオシロイバナは別名をユウゲショウという。こちらは夕方から夜の花である。白粉からの連想で化粧の別名がついたとも考えられるが、赤い花と白い花が混じることが多いので、紅と白粉のセットでお化粧のような気がする、アカバナ科のユウゲショウも白い花が混じることがあり、そこから化粧の名がついたのではないだろうか。

<お化粧する植物>
ケショウヤナギ、ケショウヨモギ、ケショウアザミ、ハンゲショウ、ユウゲショウ(アカバナユウゲショウ)、オシロイバナ(別名ユウゲショウ)

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ハンゲショウ 2009.7.21 岐阜県恵那市坂折棚田

せつぶん [さ行]

 「日本は四季に恵まれて」などは、ずいぶんと大雑把な言い方で、春夏秋冬の四季は、それぞれ6分されて立春から始まり大寒で終わる二十四節気となり、節気はさらに初候、次候、末候に分けられて七十二候となる。候の名称は実に細やかに季節の移ろいをとらえたもので、立春の初候は「東風凍を解く(とうふうこおりをとく)」だ。これらの季節の区分はもちろん旧暦に基づくもので、旧暦にはさらに季節の節目となる節句や節分、彼岸、八十八夜、入梅、土用など、雑節と呼ばれるものがある。
 植物の生活は季節の移ろいそのものだから、七十二候や雑節には植物に因んだものがあり、逆に暦に因んだ植物名もある。なかでもセツブンソウやヒガンバナはピンポイントでその時期に花を咲かせる暦に正確な植物だ。なお、節分は立春、立夏、立秋、立冬の前日を指すがもちろん植物名は春のこと、彼岸も春と秋があるが植物名は秋のことである。
 二十四節気のひとつ夏至の末候は「半夏生ず(はんげしょうず)」である。半夏はカラスビシャクの別名で、カラスビシャクが生える頃という訳だが、ハンゲショウという植物は別にある。ハンゲショウは「半夏生ず」の頃に開花し、同時に葉の半分が白く色づく、半夏生であり半化粧でもある。

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セツブンソウ 2016.3.7 米原市大久保



ほてい [は行]

 ホテイアオイの「ほてい」は七福神の「布袋」、七福神の中で一際目立つ布袋様のお腹に、丸く膨らんで浮袋になっている葉柄を例えたものである。布袋を名に持つものは、どこかがお腹の様に脹らんでいるようで、ホテイチクは斜めになった節間の膨らみ、ホテイラン、ホテイアツモリソウ、ヒメホテイランは唇弁の形、ホテイシダは下側の幅が広い葉が名の由来である。植物で七福神を揃えようと思ったのだが、意外にも布袋様以外には弁天様のベンテンツゲだけで、恵比須、大黒天、毘沙門天、福禄寿、寿老人がない。これではさみしいので他の神様に代理になって貰うとしよう。現在の七福神のメンバーが確定するのは江戸時代のことだが、福緑寿と寿老人は本来同一の神様であり、寿老人の代わりに、吉祥天・お多福・福助・稲荷神・猩猩・虚空蔵菩薩・宇賀神・達磨・ひょっとこ・楊貴妃・鍾馗・不動明王・愛染明王・白髭明神などが七福神の一人に数えられたことがあったという。ならば、ダルマギク、オタフクギボウジ、ショウキラン、ショウジョウバカマ、キチジョウソウを加えて、七福神の完成だ。無理やりだけど、めでたしめでたし。

<植物で匕福神巡り>
布袋:ホテイチク、ホテイシダ、ホテイアオイ、ホテイラン、ホテイアツモリ、ヒメホテイラン.弁天:ベンテンツゲ.達磨:ダルマギク.お多福:オタフクギボウシ、ミドリオタフクギボウシ.鐘馗:ショウキズイセン、ショウキラン、エンレイショウキラン、キバナノショウキラン.猩猩:ショウジョウスゲ、ショウジョウバカマ、コショウジョウバカマ、ツクシショウジョウバカマ、オオシロショウジョウバカマ、シロバナショウジョウバカマ、ヤクシマショウジョウバカマ.吉祥天:キチジョウソウ

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ホテイアオイ 2007.5.29 岐阜県可児市(栽培)



どうだん [た行]

 ドウダンツツジの「どうだん」は、「とうだい(灯台)」が転訛したものである。この灯台は岬に建つ航路標識ではなく、皿に油を入れ、灯芯を付けて火を着けた灯(ともしび)を置いた台のことである。灯台にも様々な形があるが、ドウダンツツジの語源となったものは、結び灯台と呼ばれるもので、3本の木の中ほどを紐で結び、三脚のように開いて立て、上側にできる小さな逆三脚(Ψ)の部分に皿を乗せた。冬になって葉を落とし、あらわになったドウダンツツジの三又になった枝先が名の由来とされる。実際のドウダンツツジの枝先は3から5本に枝分かれし、長さも不揃いだが、中にはきれいに揃った三又もあり、なるほどと思う。ドウダンツツジ属には10種のドウダンがある。とうだい(灯台)が転訛せずそのまま名前となったものにトウダイグサがあり、花托の形が皿状であることが由来とされている。トウダイグサ属には6種のトウダイがある。灯台は照明器具としては原初的なもので、その後覆いが付けられて屋内用には行燈(あんどん)、屋外用には灯籠が生まれ、ロウソクが使われるようになると灯台は燭台(しょくだい)になり、携帯用に提灯(ちょうちん)が発明される。植物にもそれぞれ、アンドンマユミ、トウロウソウ(セイロンベンケイ)、タヌキノショクダイ、チョウチンマユミがある。また灯やロウソクの灯芯にはイグサ(藺草)のスポンジ状の髄が使われたためイグサはトウシンソウとも呼ばれる。

<灯りにちなんだ名前を持つ植物>
灯台(どうだん・とうだい):ドウダンツツジ、シロドウダン、ベニドウダン、サラサドウダン、ツクシドウダン、チチブドウダン、ヒロハドウダンツツシ、ベニサラサドウダン、ウラジロサラサドウダン、カイナンサラサドウダン、トウダイグサ、タカトウダイ、ナツトウダイ、イズナツトウダイ、ヒメナツトウダイ、ナンゴクナツトウダイ.行燈(あんどん):アンドンマユミ.灯籠(とうろう):トウロウソウ(セイロンベンケイ).燭台(しょくだい):タヌキノショクダイ.提灯(チョウチン):チョウチンマユミ.灯芯(とうしん): トウシンソウ(イグサ).

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ベニドウダン 2014..5.23 京都府南山城村童仙房

せんだん [さ行]

 センダン科の落葉高木であるセンダンの漢字表記は、どの辞書をみても「栴檀」とある。そして諺の「栴檀は双葉より芳し」の栴檀はビャクダン科の常緑樹のビャクダン(白檀)であると解説がつく。実際にセンダンには香木にするほどの香りはなく、栴檀は日本でいう白檀の中国名であるそうだ。このような植物名の混同がなぜ生じたのであろうか。
 諺の起源は平家物語の巻第一殿下乗合に登場する同一の文にあり、世に広まり諺となっていくのは鎌倉時代以降のことである。一方センダンは古名を「アフチ」といい、それがセンダンと変わるのがいつかというと、江戸時代の「東雅」(新井白石、1717)に、アフチについて「俗にセンダンといふ是也」という記述がある。そしてこのセンダンについては千個の団子の「千団」とする説が有力である。センダンは秋に白い丸い実を着ける。冬になって葉を落とし実だけとなった姿は、老木となればまさに千個の団子がついているようである。「アフチ」が「千団」となり、「栴檀」と混同されるに至るには、滋賀県大津市にある三井寺の千団子祭りが関係していると言われる。三井寺は平安時代に創建された古刹であり、西国三十三所巡りの14番札所として、そして近江八景の三井晩鐘として有名なお寺である。千団子祭りは鬼子母神の千人の子供に千個の団子を備えて供養するもので600年の歴史を持つ。この祭りは千団講とも呼ばれ、さらに仏典との関係が深い栴檀の文字をあてて栴檀講と表記したことが混同の原因とされている。
 「せんだん」が名前に付く植物はセンダンのほかは、センダンと葉の形が似ていることから名がついたハマセンダン(ミカン科)とセンダングサ(キク科センダングサ属)があり、センダングサ属(Bidens)にはアメリカセンダングサなどの外来種がいくつかある。セリバノセンダングサ(キク科)はセンダングサの仲間ではなく、葉もセンダンに似ていないが、種の形がセンダングサ属とそっくりである。ちなみにセリバノセンダングサの学名はGlossocardia bidensであり、bidensは2本の歯という意味である。

補)平家物語の「栴檀は双葉より芳し」の由来は、仏典の観仏三昧教の「栴檀、伊蘭草(トウゴマ)中に生じ、まだ双葉にならぬうちは発香せず、ただ伊蘭の臭気のみあるも、栴檀の根芽漸々生長し、わずかに木にならんと欲し香気まさに盛んなり」からきたものである。原典の意味は少し違うようだ。・・・・満久崇麿著「仏典の植物」八坂書房1977より

<せんだんを名に持つ植物>
センダン、ハマセンダン、センダングサ(同属の外来種:コバノセンダングサ、アメリカセンダングサ、ホソバノセンダングサ、アワユキセンダングサ、シロバナセンダングサ、コセンダングサ)、セリバノセンダングサ

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センダン 2012.1.26 堺市

なるこ [な行]

 鳴子(なるこ)は、音を出して田んぼから鳥を追い払うための仕掛けで、神社に奉納する絵馬のような形の板の表面に、ひもで短い竹筒(あるいは棒状の板)を数本ぶら下げ、板と竹筒がぶつかると音が出るという仕組みのものである。お米が実る収穫期には、田んぼの周囲に張り巡らした縄に、いくつも鳴子をぶら下げ、日がな一日、縄の端を引いて雀を追い払う。かつての日本ではどこにでもあった光景なのであろう、鳴子は秋の季語であり、鳴子と稲田と雀がデザインされた模様は伝統的なもので帯や手ぬぐい、茶道具など様々なものに見ることができる。しかし、本物の鳴子は今や田んぼにはなく、わずかに観光施設の忍者屋敷でくせ者の侵入防止の仕掛けとして見られるぐらいである。
 植物では、ナルコユリ、ナルコスゲなどに鳴子の名が見られる。どちらも長い柄にぶら下がる花(花穂)をナルコの竹筒に見立てたものである。残念ながらゆらしても音はでない。
 「ちかづきの鳴子鳴らして通りけり(蕪村)」

<“なるこ”が付く植物>
ナルコユリ、ヒュウガナルコユリ、ホソバコナルコユリ、ミヤマナルコユリ、ヒメナルコユリ、オオナルコユリ、ナルコビエ、ナルコスゲ、アゼナルコ、イトナルコスゲ、アズマナルコ、タカネナルコ、ツクシナルコ、オニナルコスゲ

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ナルコユリ 2013.6.1 岩湧山

さる [さ行]

 猿(さる)は動物の中では各段に頭が良く、その仕草も人問的で、昔話やことわざに登上する頻度が高い。その割に植物名に「さる」が使われている例は少ないのだが、使われる理由がおもしろい。サルトリイバラは「猿獲り茨」であり、山に入って薮こぎをするとトゲだらけのツルが全身にまとわりついて、かなり手痛い思いをする。猿でもてこずりそうである。サルカケミカン(猿掛け蜜柑)も同じ様な意味合い。サルナシ(猿梨)はキウイフルーツの仲間で実はとてもおいしい。カラスやヘビなど他の動物名が付くものとは大違いである。ちなみにキウイフルーツの和名はオニサルナシ(鬼猿梨)。正確にはインドシナ原産のオニサルナシを原種として品種改良したものである。サルメンエビネ(猿面海老根)の赤褐色の花は猿の顔のようである。サルスベリ(猿滑り)はツルツルの幹肌から。ウスバサルノオ(薄葉猿尾、別名:ホザキサルノオ)は猿のしっぽのようなツルから。なおこの植物は熱帯アジア原産で沖縄にも生育するとされるが、自生種なのか帰化種なのかよくわかっていない。サルマメ(猿豆)は、マメの仲間ではなくサルトリイバラを小型にしたような植物、小さいという意味でマメサルトリイバラだろうか。
 ずばり猿ではないが、ヒメサルダヒコ(姫猿田彦)は古事記に登場する猿田彦命から。猿田彦命は天孫降臨の際に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を道案内した地上の神で、鼻が大きく天狗の原型ともいわれる。ヒメサルダヒコはコシロネ(別名:サルダヒコ)の茎が枝分かれするものに付けられた名前だが、現在はコシロネに統一されている。どこかに猿田彦命の大きな鼻のような部位があるのかと思うが発見できない。サルクラハンノキは八甲田山の猿倉で採取され新種登録されたものだが、現在はミヤマハンノキの葉の奇形とされている。最後にオクヤマサルコとテリハサルコ、オクヤマサルコはオクキツネヤナギの別名、テリハサルコはキツネヤナギの変種だが、サルコは猿子(子どもの着る綿入れ袖無羽織)だろうか、よくわからない。
(補)イタヤカエデの変種のエンコウカエデの猿猴は猿も猴もサルの意、深く切れ込んだ葉の形を猿の手に見立てたもの。キンリュウカの変種のエンコウソウも猿猴草で、茎が水平に広がる様子をテナガサルに例えたというが真偽は不明。

<猿にちなんだ名が付く植物>
サルナシ、サビサルナシ、シマサルナシ、サルカケミカン、ウスバサルノオ、サルスベリ、ヤクシマサルスベリ、シマサルスベリ、 サルマメ、サルトリイバラ。オオバサルトリイバラ、オキナワサルトリイバラ、トキワサルトリイバラ、ハマサルトリイバラ、サルメンエビネ、オクヤマサルコ、テリハサルコ、サルクラハンノキ、ヒメサルダヒコ

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サルトリイバラ 2010.4.11 各務原市自然遺産の森

ふゆ [は行]

 花が売り物の公園にありがちなうたい文句、「四季折々に花々が咲き誇り」とは言葉のあやで、日本では冬に咲く花は極わずかである。それを反映してか冬と名がつく植物もフユノハナワラビの仲間、フユイチゴの仲間、そしてフユザンショウの9種のみである。フユノハナワラビはシダ植物なので花は咲かないが、冬に花のような胞子葉を展開する。キイチゴ属の数ある種の中で、常緑なのはフユイチゴの名を持つものとホウロクイチゴだけで、しかもフユイチゴは秋に花を開き冬に実を着ける。サンショウ属11種の内、常緑なのはフユザンショウとイワザンショウのみである。というわけで冬と名の付く植物はそれぞれに変わり者である。
 それでは、他の季節はどうだろう。まずは種数であるが、春は16種、夏は25種、秋は45種と、思いのほか多くはない。個々の名前を見てみると、変わり者がいっぱいいる。リンドウなのに春に花咲くハルリンドウ、ツバキなのに夏に花咲くナツツバキ、ノゲシなのに秋に花咲くアキノゲシといった変わり者のオンパレードである。春夏秋冬の季節名+基本植物名の組み合わせは、季節外れの変わり者のために用意された命名法となっている

<冬の植物>
フユノハナワラビ、エゾフユノハナワラビ/フユイチゴ、アマミフユイチゴ、コバノアマミフユイチゴ、ミヤマフユイチゴ、コバノフユイチゴ、オオフユイチゴ/フユザンショウ

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フユノハナワラビ 2015.10.27 富田林市

よしの [や行]

 奈良県吉野町の吉野山は誰もが知る桜の名所。そのご威光にあやかろうとしたのか、江戸の末期、江戸染井村の植木屋は新種の桜を「吉野桜」と称して売り出した。後のソメイヨシノである。栽培品種ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラの交配種であることが、国立遺伝学研究所での交配実験により明らかにされており、ソメイヨシノと吉野山の桜には直接的な関係はない。「吉野」が名につく桜、イズヨシノ、アマギヨシノ、フナバラヨシノは交配実験から産出された栽培品種である。他にも「吉野」を名に持つ桜の栽培品種はあるが、いずれも吉野山との関係はない。野生種として「吉野」が名につく桜はなく、他の植物ではヨシノアザミとヨシノヤナギの2種がある。そして、この2種も吉野山とは無関係であり、その由来は発見者の吉野善介にちなんだものである。吉野善介は、岡山県上房郡本町(現:高梁市) の出身で、家業の薬種商の合間に植物を採集し、大正から昭和初期にかけ植物分類学に貢献した。「備中植物誌」(1929年)の著者である。(補)吉野杉は奈良県吉野地方に産する杉。植物名ではなく、材木のブランド。

<「よしの」が名につく植物>
ヨシノアザミ、ヨシノヤナギ

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ヨシノアザミ 2015.11.5 大阪府河内長野市



せいばん [さ行]

 セイバンナスビとセイバンモロコシ、どちらも帰化植物なので、セイバンの方から来たという意味合いと思うが、このセイバンの指す場所は両者で異なる。ナスビの方は「生蕃」で、台湾の原住民のうち漢族化していないものを指す。なお、漢族化したものは熟蕃という。「蕃」には未開人の意味があり、漢民族が異民族に対して用いた蔑称のひとつである。ちなみに日本が台湾を領有した時代には、生蕃という称呼を高砂族と改めている。セイバンナスビの原産地は、かつては熱帯アジアとされたようだが、現在では熱帯アメリカあるいはブラジルとされている。日本へは台湾を経由して入ってきたと考えてもおかしくはない。一方、モロコシの方は「西蕃」で、これはチベット人を指して漢民族が用いた蔑称である。セイバンモロコシはヨーロッパ地中海沿岸地方を原産地とするが、シルクロードでやってきたとすれば、チベット経由と言えないわけでもない。

<せいばんが付く植物>
セイバンナスビ、セイバンモロコシ、ノギナシセイバンモロコシ

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セイバンモロコシ 2015.9.22 堺市


なんばん [な行]

 「蛮(ばん)」あるいは「南蛮(なんばん)」は、本来は、漢民族が南に住む未開民族に対して用いた蔑称である。中華思想を取り入れた古代日本では、同様に「蛮」を南方の地域の別称として用い、日本書紀では、神功皇后記に百済の南海、今でいう済州島を指して「南蛮」が、持統天皇記に、種子島を指して「蛮」が用いられているのが確認できるが、広く、鹿児島県西方の甑列島(五色島)、南方の吐噶喇列島(薩摩七島)から沖縄(琉球)に連なる南西諸島を指したようである。しかし、16世紀になると、日本を訪れるようになったポルトガル人やスペイン人を南蛮人と呼び、南蛮貿易が行われるようになる。貿易により得られた文物は南蛮渡来とされ、異国風で物珍しい文物の代名詞となった。
 南蛮を名前に持つ植物は13種を数えるが、南西諸島を分布域とすることにより命名されたと考えられるものに、ナンバンホラゴケ、ナンバンアワブキ、ナンバンキブシ、ナンバンツユクサ、ナンバンキンギンソウの5種と、外来種ではあるが南西諸島に定着したナンバンコマツナギ、ナンバンアカアズキ、ナンバンルリソウの3種が挙げられる。外国から来たという意味で命名されたものとしては、中国からの渡来であるがナンバンカラムシがある。ナンバンギセルは日本に広く分布するがその形態がパイプに似ているから。そして最後はナンバンハコベ、この植物、北海道から九州まで分布するが、花の形が変わっているので、外国から来たものと勘違いされたらしい。

<なんばんが付く植物>
ナンバンホラゴケ、ナンバンアワブキ、ナンバンカラムシ、ナンバンキブシ、ナンバンツユクサ、ナンバンハコベ、ナンバンギセル、オオナンバンギセル、シロバナオオナンバンギセル、ナンバンコマツナギ、ナンバンアカアズキ、ナンバンルリソウ、ナンバンキンギンソウ

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ナンバンギセル 2014.9.15 奈良県曽爾高原

つの [た行]

 角といえば、鹿の角、牛の角。カブトムシやカタツムリにもそう呼ばれるものはあるが、元々は獣のもの。架空の生き物に付けられることもあって、日本では鬼の頭には牛の角が、西洋では悪魔のあたまに山羊の角が生えている。植物にあるかといえば、棘はあっても角はないが、角にみたてられる部位があって、わずかではあるが、角を名前に持つものがある。なお、角があるから「オニ・・・」とか「ウシ・・・」という植物はない。
 まずはツノハシバミ(角榛)、その実には一本の角がある。次にイワタバコ科のツノギリソウ(角桐草)、この植物の学名はHemiboea bicornutaで、bicornuta は2つの角があるという意味だが、どこにも角が見当たらない。2つ着けることが多い白い筒型の花を指しているのかと思う。日本在来種はこれだけである。
 帰化種はやや増加傾向で、環境省リスト(1988)にはツノキビ、日本帰化植物写真図鑑(全国農村教育協会2001)にはツノアイアシ、ツノミチョウセンアサガオ、ツノミナズナの記載があるが、同第2巻(2010)にはツノゴマ、ツノナシビシ、ツノミオランダフウロなどが加わっている。角無し菱以外はどこかに角があるはずだ。

<角みたいなものがある?植物>
在来:ツノハシバミ、コツノハシバミ、オオバツノハシバミ、ツノギリソウ.外来:ツノキビ、ツノアイアシ、ツノミチョウセンアサガオ、ツノミナズナ、ツノゴマ、キバナツノゴマ、ツノナシビシ、ツノミオランダフウロ.

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ツノハシバミ 2014.9.11 大和葛城山

 [さ行]

 ここで扱う「じ」は文字の「字」。「字」が単独で植物名に用いられていることはなく「○○字」となる。植物のどこかの部位が「○○字」の形に似ている。まずは十文字、ジュウモンジシダは葉の形が十文字。ユキノシタの仲間の花は5枚の白い花びらのうち下側の2枚が大きいが、この2枚が細長いのがジンジソウ(人字草)、他の3枚も少し長くなったのがダイモンジソウ(大文字草)。ヒンジモは3枚の葉が、ヒンジガヤツリは3個の花穂の重なり具合が品の字に見える。デンジソウは、四葉のクローバーのような葉を田の字に見立てたもの。「ちょうじ」は「丁字」と「丁子」の両方の漢字があてられるが、そもそも「ちょうじ」は、フトモモ科のチョウジノキの蕾を乾燥させたスパイスであり、英名はクローブ。その形が釘に似ており、フランス語で釘を意味する Clou が語源となっている。漢名は丁子あるいは丁香と呼ばれ、丁もまた釘という意味を持っている。「ちょうじ」が名前に付く植物は、花あるいは実が釘の形に似ている。ということは「丁」の字の形にも似ていることになるが、日本語では丁字型を意味する場合は、「ていじ」と発音するのが普通のようなので、本来はスパイスの丁子に似ているからなのであろう。

<文字に似ている植物>
十文字:ジュウモンジシダ、タイワンジュウモンジシダ、ヒトツバジュウモンジシダ.人字:ジンジソウ、ツルジンジソウ.大文字:ダイモンジソウ、ウチワダイモンジソウ、ナメラダイモンジソウ、エチゼンダイモンジソウ、イズノシマダイモンジソウ.品字:ヒンジモ、ヒンジガヤツリ.田字:デンジソウ、ナンゴクデンジソウ.丁字?:チョウジギク、チョウジタデ、ウスゲチョウジタデ、チョウジザクラ、オクチョウジザクラ、チョウジマメザクラ、チョウジソウ、チョウジコメツツジ、オオチョウジガマズミ、チョウジガマズミ、セキヤノアキチョウジ、アキチョウジ、ヒロハアキチョウジ.

デンジソウ20120602浜寺公園(植栽).JPG
デンジソウ 2012.6.2 堺市浜寺公園(植栽)


はぐま [は行]

 「はぐま」は、チベットからヒマラヤの高地に生息する牛の仲間である「ヤク」のしっぽの毛のことである。ヤクは古くから家畜化され、乳や毛が利用されてきた。日本では仏具の払子(ほっす)の他、槍や兜の飾りとしてヤクの尾毛が好んで用いられた。戊辰戦争の際の官軍の被り物(毛付き陣笠)は、徳川家が江戸城に残していった品で作られたものであり、土佐藩は赤く染めた「しゃぐま(赤熊)」、薩摩藩は黒く染めた「こぐま(黒熊)」、そして長州藩が白色の「はぐま(白熊)」を着用した。植物のハグマはキク科に14種あり、その花の形を毛槍に見立てたものと思われる。毛槍は大名行列の先頭で奴さんが担いでいる先端に毛玉の飾りが着いた槍で、毛玉は鳥の羽やヤクの尾毛で作られた。植物のハグマの花は、毛槍を回転させ、飾りが放射状に開いた状態をイメージさせる。本来は白いヤクの毛で作られた毛槍を「はぐま」と呼んだのだろうが、現在、各地の祭りなどに登場する「はぐま」は、毛色の黒いものもあり、漢字も「羽熊」をあてるところがあり、少々ややこしい。

<はぐまを名のる植物>
モミジハグマ、オクモミジハグマ、キッコウハグマ、リュウキュウハグマ、エンシュウハグマ、ホソバハグマ、ツルハグマ、カコマハグマ、センダイハグマ、クルマバハグマ、カシワバハグマ、ツクシカシワバハグマ、イワキハグマ、オヤマハグマ

カシワバハグマ20140911和泉葛城山.jpg
カシワバハグマ 2014.9.11 和泉葛城山


もみじ [ま行]

モミジといえばイロハモミジが一番ポピュラーなものだが、このイロハモミジの「もみじ」は動詞「もみづ(紅葉づ/黄葉づ)」に由来し、葉が秋に色着くことを意味している。イロハモミジの別名のタカオカエデの「かえで」は「かえるで(蛙手)」が訛ったものであり、葉の形から付けられた名前である。イロハモミジはカエデ科カエデ属に属しており、分類上 は「かえで」が用いられている。環境省のリストでは、カエデ属には57種の記載があるが、モミジはわずか 7種しかなく、カエデは 31種となっている。ところがカエデ属以外を見てみると、モミジは18種、カエデはカエデドコロ1種のみと大逆転となる。しかしながらこの18種、これといって紅葉が美しいわけではなく、カエデのような掌状の葉を持っているのでモミジの名が付いたのである。「もみじ」も「かえで」も本来の字義が失われ、単に同一の植物グループ名を表わす用語となってしまうのだろうか。

<もみじの付く植物>
カエデ属:モミジハウチワ、イロハモミジ、オオモミジ、ヒロハモミジ、フカギレオオモミジ、ヤマモミジ、ナンブコハモミジ.その他:モミジカラマツ、オクモミジカラマツ、モミジバショウマ、モミジチャルメルソウ、モミジセンダイソウ、マルバノモミジイチゴ、ナガバモミジイチゴ、モミジイチゴ、ミヤマモミジイチゴ、モミジカラスウリ、モミジウリノキ、モミジチドメ、モミジハグマ、オクモミジハグマ、モミジガサ、モミジコウモリ、テバコモミジガサ、オオモミジガサ.

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イロハモミジ 2008.2.22 犬山市

ひおうぎ [は行]

 ヒオウギアヤメはアヤメとよく似た紫色の花を着ける。秋篠宮紀子さまのお印がヒオウギアヤメとなった時、紫色の花なのに、なんで「緋扇」なのかと疑問に思った。恥ずかしながら、ヒオウギ、ヒメヒオウギスイセンの花が赤いので、「ひおうぎ」の「ひ」は緋色の「緋」と勝手に思い込んでいたのである。正しくは「檜扇」である。檜扇とは、宮中で用いられた木製の扇のことで、檜の薄い板で作られた。紙製の扇、扇子はこれから派生したものだという。ヒオウギの名の由来は、その葉の形にあったわけである。檜扇を名に抱く花には、アヤメ科のヒオウギとヒオウギアヤメの仲間、園芸植物のヒオウギスイセンがある。檜扇以外の扇には、シソ科のオウギカズラ1種があるが、この花はどこにも扇らしいところがない。なおマメ科のタイツリオウギなどの「おうぎ」は生薬の「黄耆」であり扇ではない。

<檜扇を抱く植物>
ヒオウギ、ヒオウギアヤメ、ナスヒオウギアヤメ、キリガミネヒオウギアヤメ、ヒオウギスイセン(園芸)、ヒメヒオウギスイセン(園芸)

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ヒオウギ 2010.8.6 各務原市河川環境楽園(植栽)

くず [か行]

 マメ科の多年生ツル植物のクズは、漢字では「葛」と書く。この字は「かずら」とも読んでツル植物の総称として使われる。クズは、元々は「国栖」であり、国栖は奈良県吉野町にある山間の集落の名称である。したがって、クズは、本来「国栖葛(くずかずら)」というべきものだが、古くから国栖ではクズの根より澱粉の生産が行われ、その質の良さから、澱粉がくず粉と呼ばれ、その原料植物がクズと呼ばれるようになったという。くずと呼ばれる植物には、クズの他、クズと同属のタイワンクズ、属は異なるが形態が似ているビロ-ドヒメクズ、カショウクズマメがある。

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クズ 2011.9.10 堺市

もどき [ま行]

 似て非なるもの、それは「擬き(もどき)」。環境庁のリストには、「~モドキ」という植物が73種挙げられている。うち梅擬きが19種と最大である。さらにその内訳は、モチノキ科のウメモドキの仲間が5種、ニシキギ科ツルウメモドキの仲間が7種、クロウメモドキ科のクロウメモドキの仲間が7種となっており、姿は似ていても、バラ科のウメとは皆疎遠であるし、お互いにも疎遠である。偽物扱いされている「ニセ~」という植物は5種あり、同じく紛い物扱いされている「~マガイ」は2種、そして、騙されてはいけない「~ダマシ」が1種ある。
<似て非なる者たち>
擬き:フウリンウメモドキ、オクノフウリンウメモドキ、ミヤマウメモドキ、ウメモドキ、イヌウメモドキ、オオバツルウメモドキ、ツルウメモドキ、キミツルウメモドキ、オニツルウメモドキ、ナガバツルウメモドキ、テリハツルウメモドキ、オオツルウメモドキ、クニガミクロウメモドキ、エゾクロウメモドキ、クロウメモドキ、コバノクロウメモドキ、ヒメクロウメモドキ、リュウキュウクロウメモドキ、キビノクロウメモドキ、オオヒゲナガカリヤスモドキ、カリヤスモドキ、シナノカリヤスモドキ、グミモドキ、リュウビンタイモドキ、ヒメホラゴケモドキ、クロガネシダモドキ、ヌカイタチシダモドキ、タニヘゴモドキ、イワヘゴモドキ、ナガサキシダモドキ、マルバヌカイタチシダモドキ、カタイノデモドキ、オオイノデモドキ、イノデモドキ、ウスバシダモドキ、トサノミゾシダモドキ、ミゾシダモドキ、オオヒメワラビモドキ、モンゴリナラモドキ、ヤブマオモドキ、キミズモドキ、オオツメクサモドキ、コブシモドキ、クロボウモドキ、シナクスモドキ、センウズモドキ、ヒハツモドキ、ナンキンナナカマドモドキ、ツゲモドキ、チャンチンモドキ、アカギモドキ、ミヤマハンモドキ、ヒルギモドキ、ノダケモドキ、セリモドキ、アクシバモドキ、サクラソウモドキ、スズメノトウガラシモドキ、ヒシモドキ、ブタクサモドキ、クワモドキ、チチコグサモドキ、ヤブレガサモドキ、クロイヌノヒゲモドキ、イヌノヒゲモドキ、トウツルモドキ、アゼガヤモドキ、ニクキビモドキ、ヤマアワモドキ、ウンヌケモドキ、セトガヤモドキ、サガミランモドキ、ヒトツボクロモドキ
:ニセアミホラゴケ、ニセヨゴレイタチシダ、ニセシケチシダ、ニセシロヤマシダ、ニセコバンソウ
紛い:ヌカイタチシダマガイ、アツギノヌカイタチシダマガイ
騙し:ヒルギダマシ

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ツルウメモドキ 2009.5.11 犬山市(木曽川)

れんり [ら行]

 京都の貴船神社に、杉と楓が合着した『連理の杉』なる御神木がある。「連理」の字義は、(別々の樹木の)木目が合わさるという意味だが、転じて仲睦まじい夫婦のたとえとして使われている。縁結びのパワースポットとして知られる貴船神社に相応しい御神木というわけである。同じく夫婦仲が良いという意味で使われる言葉に「比翼」がある。一つの眼と一つの翼しか持たない伝説上の鳥である「比翼の鳥」は、雄と雌が力を合わせなければ飛ぶことができないことから生まれた意味である。この二つの言葉は合わせて「比翼連理」という四文字熟語として使われることも多いが、その由来は、白居易の長恨歌の次の一節で、玄宗皇帝が最愛の楊貴妃に語る科白である。
   在天 願作 比翼鳥 (天にあっては願わくは比翼の鳥となり)
   在地 願為 連理枝 (地にあっては願わくは連理の枝とならん)
 さて、連理を名に持つ植物にレンリソウ(連理草)がある。図鑑には「対生する葉を仲の良い夫婦にたとえ」というような解説が見られるが、対となる葉の大きさが違うなら、夫婦茶碗のようにたとえようがある。しかし、同じ大きさの葉が対になっているこの草には不自然である。むしろ対生する細長い葉は鳥の翼のように見え、比翼の鳥にたとえる方が自然に思える。元々は、比翼連理草であったものが言いやすい連理草になったか、あるいは、おっちょこちょいの学者が比翼と連理を取り違えたのか、想像が膨らんでしまう。ただし、ヒヨクソウ(比翼草)の名は、別の草に使われており、対生する葉の葉腋から2本の花序を出すこの草は、雌雄2羽の比翼の鳥が合体し、2本の首をそろえて飛ぶ姿に見える。

<連理の付く植物> レンリソウ、エゾノレンリソウ、キバナノレンリソウ

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レンリソウ 2014.5.17 京都府木津川市

ぼくち(ほくち) [は行]

 山好きの方々は、オヤマボクチを「お山僕ん家」と呼ぶそうだが、もちろん「ぼくち」は「僕ん家」ではなく、火口(ほくち)の意である。火口は、火打石で火をおこすときに、火花を受けて最初の火種をつくる燃焼材である。火口には、引火性が高く、火もちがよい素材として、サルノコシカケ類のキノコの粉末や、麻などの繊維、ガマの穂など、地域や時代に応じて様々な素材が使用された。オヤマボクチの仲間の葉の裏には綿毛があり火口として使われたという。ホクチアザミも同様である。帰化植物にホクチガヤがあるが、これは別名をルビーガヤといい、赤い穗を付ける。火口として利用したのではなく、火種のように見えるから付いた名である。

<ぼくちを名に持つ植物>
キク科:ハバヤマボクチ、キクバヤマボクチ、ヤマボクチ、オヤマボクチ、オニヤマボクチ(以上ヤマボクチ属)、ホクチアザミ(トウヒレン属).イネ科:ホクチガヤ(帰化、別名ルビーガヤ)

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ハバヤマボクチ 2013.9.14 岩湧山


ていしょう [た行]

 テイショウソウの「ていしょう」は「禎祥」。禎は「めでたいしるし」、祥も「めでたいこと、きざし」の意味を持っており、禎祥は吉兆を意味する。目にすることがない熟語だが、司馬遷が記した中国の歴史書である『史記』に用例を見ることができる。史記は130巻に及ぶ大作だが、まずは巻50楚元王世家にある記述、
太史公曰、國之將興、必有禎祥 【太史公いわく、国のまさに興らんとするや、必ず禎祥あり】
 古代中国では、国を興し王となるものは、天から選ばれた者なので、必ずその前兆が現れると考えられた。この前兆はどのように現れるのか。それは占いに現れるのである。そして古代日本でも古代中国でも亀の甲羅を火にあぶり、ひびの入り方を読む亀卜が行われた。史記には亀卜について記述した巻もあり、その巻128 亀策列傳にも、次のように禎祥が登場する。
自三代之興各據禎祥・・・・断以蓍亀不易之道也 【(夏・殷・周)三代より、それぞれの興りは、禎祥がよりどころとなった。・・・・蓍亀(占い)を以て判断するのは変わることのない道である。】
 テイショウソウの葉は亀のお腹の側の甲羅(腹甲)に形が似ている。この葉には濃淡模様があるが、この模様が亀卜の亀裂、しかも吉兆を表しているということか。

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テイショウソウ 2014.9.27 岩湧山

やはず [や行]

 弓矢の矢の後端には、弦をはめ込む凹型の切込みの筈(はず)がある。弓の両端にも弦を結ぶ筈があるので、矢のものは矢筈(やはず)といって区別する。環境省の植物リストには「やはず」を名に持つ植物が15種類記載されている。葉の先端が矢筈のように凹型なのが基本のようで、ヤハズマンネングサ、ヤハズハンノキ、ヤハズアジサイ、ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ)、ヤハズカワツルモには、大なり小なり窪みがある。逆に葉の基部が凹んでいるのが、ヤハズカズラ、ヤハズトウヒレン、ヤハズヒゴタイで、その名の由来とされているが、基部からは葉柄が出ているので見た感じは鏃(やじり)に近い。なお「やじり」が名に付く植物はない。ヤハズソウはどこにも窪みはないのだが、葉の先をつまんで引っ張ると葉脈に沿ってきれいに凹型にちぎれる。ただし、矢筈というよりも矢羽根(やばね)のようである。「やばね」が名に付く植物も今ではないのだが、ヤハズハハコはもともとヤバネハハコと呼ばれていたらしい。ヤハズハハコの茎には翼がありこれを矢羽根に見立てたようだ。なお、ヤハズハハコにはどこにも凹型はない。
 最後にオオヤハズナシだが、この植物については存在自体が疑わしい。薬種商にして市井の植物研究家、後に「備中植物誌」を著す吉野善介によって岡山県上房郡楢井で採取され、京大の小泉源一博士が1925年に新種として植物学雑誌に記載した。小泉博士は他にも多くのナシの新種を登録したが、細かく分類しすぎたようで、現在ではその多くは同一種の変異とみなされている。小泉博士とすれば「こんな筈ではなかった。」というところか。

<やはずを名に持つ植物>
ヤハズマンネングサ、ヤハズハンノキ、ヤハズアジサイ、オオヤハズナシ、マルバヤハズソウ、ヤハズソウ、ヤハズエンドウ、ツルナシヤハズエンドウ、オオヤハズエンドウ(帰化)、ヤハズカズラ(園芸植物)、タカネヤハズハハコ、ヤハズハハコ、ヤハズトウヒレン、ヤハズヒゴタイ、ヤハズカワツルモ

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ヤハズアジサイ 2013.7.13岩湧山

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