SSブログ

はまでら [は行]

 外国産の植物なのに日本の地名が付く植物がある。お察しのとおり、外来植物に発見地の名前が付く場合で、ナルトサワギクの「鳴門」、シナガワハギの「品川」、ハマデラソウの「浜寺」がある。アリタソウの「有田」は駆虫薬(虫下し)となるこの草を栽培していた場所だという。徳島県鳴門町、東京都品川区、佐賀県有田町は現存するが、浜寺町は堺市に編入され現在は堺市西区の町丁にその名が残る。ハマデラソウは浜寺の海岸において牧野富太郎によって発見され命名される。浜寺とその近辺の海岸に広く分布していたようであるが、沿岸の開発により堺市からは消滅した。堺に由来する植物の消滅を惜しむ市民団体が、泉大津市で発見し繁殖に成功する。現在では浜寺公園の他、浜寺の名が付く小学校などで保護されている。ハマデラソウは外来植物なのに大切にされている不思議な植物である。

ハマデラソウ20220703浜寺公園.jpg
ハマデラソウ 2022.7.3 堺市浜寺公園
nice!(0)  コメント(0) 

べに [は行]

 紅色は赤の中でも鮮やかな色を指して使われるが、特定の1色というわけではなく、ある範囲の色を意味している。一般に色というのはそういう性格のものだと思うが、工業製品の規格となれば、それでは困るわけで、特定の色に限定されている。日本産業規格(JIS)では、紅色をマンセル表示で「3.5R 4/13」としており、パソコンの検索ボックスにこの色の16進のカラーコード「#B92946」を入力すると・・・、ほら鮮やかな赤が出て来たでしょう。この色はベニバナ染の濃染の色とされるが、ベニバナの花の色はオレンジ色である。「ベニバナ○○」という名前を持つ植物は18種を数えるが、この中で濃い赤と言えるのはベニバナイチゴぐらいで、多くはピンク色に近い色か一部に紅が入る程度である。花に限定せず「ベニ○○」というものに目を広げると・・・、いました。ベニシダの新葉は紅と呼ぶにふさわしい。
<紅をさす植物>
紅花:ベニバナヤマシャクヤク、ベニバナミヤマカタバミ、ベニバナヒメイワカガミ、ベニバナギンリョウソウ、ベニバナコバノイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ベニバナマルバイチヤクソウ、ベニバナコメツツジ、ベニバナノツクバネウツギ、ベニバナスイカズラ、ベニハナヒョウタンボク、ベニバナハコネウツギ、ベニバナニシキウツギ、ベニバナボロギク、ベニバナタンポポ、ベニバナヘビイチゴ、ベニバナクロイチゴ、ベニバナイチゴ.その他:サイゴクベニシダ、ベニシダ、ミドリベニシダ、ホコザキベニシダ、マルバベニシダ、オオベニシダ、ホホベニオオベニシダ、ムニンベニシダ、チチジマベニシダ、ギフベニシダ、キノクニベニシダ、ミヤマベニシダ、タイトウベニシダ、ムラサキベニシダ、オワセベニシダ、ウスベニツメクサ、ベニコウホネ、エゾベニヒツジグサ、ウスベニアカショウマ、ベニガク、ベニシベウメバチソウ、オオベニイチヤクソウ、ベニサラサドウダン、ベニドウダン、ベニガクエゴノキ、ベニシオガマ、オオベニウツギ、ナンカイウスベニニガナ、ベニニガナ、ウスベニニガナ、ウスベニチチコグサ、ベニアマモ、ベニチカラシバ、ベニイトスゲ、ベニマメヅタラン、ベニシュスラン

ベニシダ20220504古ヶ丸山4.jpg
ベニシダ 2022.5.4 古ヶ丸山(三重県大台町)
nice!(0)  コメント(0) 

ひよく [は行]

 ヒヨクソウの「ひよく」は。比翼の鳥の「比翼」。比翼の鳥は古代中国の伝説の生き物であり、1つの翼と1つの眼しか持たず、雌雄が寄り添ってはじめて空を飛べる。ヒヨクソウの対生する葉と葉腋から出る2本の花序を、雌雄2羽の比翼の鳥が合体し、2本の首をそろえて飛ぶ姿と見るらしい。比翼連理は仲の良い夫婦のたとえ。⇒「れんり」参照。

ヒヨクソウ20220610観音峰3.jpg
ヒヨクソウ 2022.6.10 観音峰(奈良県天川村)

比翼鳥(三才図会).JPG
三才図会の比翼鳥(大木康「明代の図像資料」より、http://kande0.ioc.u-tokyo.ac.jp/kande/oki/)
nice!(0)  コメント(0) 

ひげ [は行]

 鬚はあごひげ、髭は口ひげ、髯はほほひげ、英語ならそれぞれ、beard、mustache、whiskers。全部そろえば泥棒ひげ。犬猫は鼻ひげでナマズも含めて漢字なら髭か、でも英語ではナマズも含めてwhiskersである。植物のひげとなれば、簡単にはわからない。「ひげ」を名に持つ植物は環境省のリストには、変種、品種まで入れれば58種類、ひげを名のる理由はどこかにひげがあるためと思うが確かめるのは大ごとなので勘弁してもらうとして、特定の動物のひげを名のるのは、ホシクサ科イヌノヒゲの仲間が21種、カヤツリグサ科イヌノハナヒゲの仲間が同じく8種と犬が圧倒的に多く、他に複数種あるのは蛇と龍ぐらいである。「ひげ」と「鼻ひげ」の違いは1本のひげのように見えるか、まとまって生えるひげに見えるかの違いか。いずれにしてもひげに見えるのは茎や葉や芒などが多い。花にひげがあるのはヒゲマルバスミレとシラヒゲソウ、オオシラヒゲソウくらいだが、白髭とはよくぞ言ってくれました。一見に値する花である。

<ひげのある植物>
ヒゲネワチガイソウ、オオシラヒゲソウ、シラヒゲソウ、ヒゲケマルバスミレ、イワヒゲ、リュウノヒゲモ、ジャノヒゲ、カブダチジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ、クロイヌノヒゲモドキ、クロイヌノヒゲ、コイヌノヒゲ、イトイヌノヒゲ、ユキイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、ケイヌノヒゲ、ミカワイヌノヒゲ、アズミイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、ナスノクロイヌノヒゲ、ハライヌノヒゲ、エゾイヌノヒゲ、ヒロハイヌノヒゲ、コケヌマイヌノヒゲ、イヌノヒゲモドキ、ヤシュウイヌノヒゲ、シロイヌノヒゲ、マツムライヌノヒゲ、ガリメキイヌノヒゲ、ヒゲナガスズメノチャヒキ、ヒゲノガリヤス、オオヒゲガリヤス、ムラサキシマヒゲシバ、アフリカヒゲシバ、ヒゲシバ、オヒゲシバ、ヒゲガヤ、タツノヒゲ、ムラサキヒゲシバ、アカヒゲガヤ、オオヒゲナガカリヤスモドキ、ヒゲナガコメススキ、ヒゲシバ、ヒゲスゲ、ヒゲハリスゲ、トラノハナヒゲ、イヌノハナヒゲ、イトイヌノハナヒゲ、ネズミノハナヒゲ、ヒメイヌノハナヒゲ、オオイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ミカワコイヌノハナヒゲ、ミヤマイヌノハナヒゲ、ヒゲアブラガヤ、ヒゲナガトンボ

オオシラヒゲソウ20220917取立山2.jpg
オオシラヒゲソウ、2022.9.17、取立山(勝山市)
nice!(0)  コメント(0) 

はんかい [は行]

 ハンカイソウの樊噲は漢の高祖劉邦に仕えた武将。鴻門の地に置かれた項羽軍の陣中の宴において、剣舞に紛れて殺されそうな劉邦を救うため、宴に乱入し大杯の酒と生肉の塊をたいらげ、どさくさに紛れて劉邦が逃げ帰るという「鴻門之会」の逸話で知られる。高さ1mを超えるハンカイソウの勇壮な姿に重ねたという所だろう。もっともハンカイソウの属するメタカラコウ属の植物には、メタカラコウ、オタカラコウ、マルバダケブキなど1mを超えるものは他にもある。あえていうならハンカイソウの裂けた葉が丸い葉を持つ他の種に比べれば勇猛な感じがする。ハンカイソウに似ていて、葉が裂けないのがマルバダケブキだが、マルバダケブキの別名をマルバチョウリョウソウという。張良は劉邦の軍師で鴻門之会に同席している。ハンカイソウに似て葉っぱが割けないならばマルバハンカイソウとなるだろうになぜなのか。その答えらしきものが牧野図鑑にあった。葉の切れ込みが深いものをハンカイソウ、浅いものを変種ダケブキ(チョウリョウソウ)、さらに切れ込みがないものを変種マルバダケブキ(マルバチョウリョウソウ)と区別していたが、ダケブキ(チョウリョウソウ)はハンカイソウに統一され、マルバダケブキが別種として整理されたようである。分類の見直しの結果、名前の由来が分からなくなる例はほかにもあるが、張良の名が植物界から消えてしまうのは、「史記」のファンとしては少し寂しい。

ハンカイソウ20230609雲母橋登山口2.jpg
ハンカイソウ 2023.6.9 雲母橋登山口(四日市市)
nice!(0)  コメント(0) 

ひつじ [は行]

 新年の挨拶を最近はネットで済ます人が増えているようだが、昔は皆がにわか芸術家となって個性的なデザインの年賀状を送ったものである。受け取った方としても印刷屋の出来合いのものよりもはるかに楽しい。デザインモチーフは十二支が圧倒的に多く、毎年、十二支の生き物の名前が付いた植物の版画の年賀状を送ってくれる人がいる。うれしい限りである。さて、自分がデザインするとなると、鼠、牛、虎とモデルの選択に困らないが、兔となると7種しかない。さらに羊となるとヒツジグサの仲間3種しかない。逆に選択に悩む必要がなくていいかな、12年前と同じでも誰も気が付かないさ、と開き直るしかない。具体の種は下表に整理した(クリックで拡大)。ただし犬は多すぎて省略したので、「いぬ」の項を参照してほしい。
 なお、ヒツジグサの名の由来は羊の刻(午後2時)に花を開くから。葉の形が羊の足跡に似ているからではない。
羊の表.jpg
ヒツジグサ20220604大阪公立大学付属植物園s.jpg
ヒツジグサ 2022.6.4 まだ12時頃(午の刻) 大阪公立大学付属植物園(栽培)
nice!(0)  コメント(0) 

ふし [は行]

 江戸中頃の百科事典といえる「和漢三才図会」(寺島良安、1712)の「塩(鹽)麩子」という見出し語に、「ふし」と仮名がふられ、俗に奴留天(ぬるて)と云う、とある。現在のヌルデである。ヌルデという樹木に、ヌルデシロアブラムシが寄生し、ヌルデミミフシという虫こぶ(虫えい)を作る。これを「五倍子」といい、「ふし」と読む。ヌルデは「ふし」あるいは「ふしのき」と呼ばれた。五倍子には多量のタンニンが含まれており、染料やお歯黒の原料として利用された。「ふし」の代用品として使用されたのがキブシ(木附子)や、ヤシャブシ(矢車附子/夜叉五倍子)の果実である。「ふし」には五倍子、附子、膚子など多数の漢字が充てられているが、附子は「ぶし」と読めばトリカブトの毒を意味する(「ぶし」の項参照)。なお「ふし」という音を含む植物名の多くは「節」を意味しており、五倍子を意味するのは、ヌルデとキブシとヤシャブシの仲間のみである。

参考文献
・薄葉重、虫こぶハンドブック、文一総合出版、2003.
・山崎青樹、草木染染料植物図鑑1、美術出版社、2012.

<ふし(五倍子)を名に持つ植物>
ヌルデの仲間:フシノキ(ヌルデ)、タイワンフシノキ.キブシの仲間:キブシ、マルバキブシ、ナンバンキブシ、ケキブシ、ヒメキブシ.ヤシャブシの仲間:ヤシャブシ、ミヤマヤシャブシ、アイノコヤシャブシ、タルミヤシャブシ、ヒメヤシャブシ、オオバヤシャブシ.

キブシ20220403雪彦山S.jpg
キブシ 2022.4.3 雪彦山
nice!(0)  コメント(0) 

ばいも [は行]

 コバイモという種群がある。カタカナの表記からは「コバ芋」やら「コバイ藻」を想像してしまうが、実は小さい貝母の「小貝母」である。貝母は、鎮咳・去痰などの薬効を持つ生薬であり、ユリ科バイモ属のアミガサユリFritillaria verticillata var. thunbergii(中国名:浙貝母)の球根(麟茎)である。白色の鱗片2枚が貝のように合わさり、間に子供の球根ができるのでこの名がある。日本に自生はなく、日本にあるのは同属のコバイモ8種である。バイモ属の学名のFritillariaはサイコロのツボの意で花の形から来ている。前川文夫はこの花を傾いた籠と見て、万葉集に現れ、定説ではカタクリの古称とされている堅香子(かたかご)をコバイモだとし、コバイモの麟茎が2つに割れた形から着いた別称がカタクリ(片栗)と唱えた。つまり堅香子=片栗であるが、片栗は小貝母の古称であり、現在のカタクリは、食用とされた小貝母の減少により代用品となって名を継いだとしている。とても説得力のある説である(クリの項参照)。

参考文献
・原島広至、生薬単、NTS、2007.
・前川文夫、植物の名前の話、八坂書房1994.

<ばいもを名に持つ植物>
ホソバナコバイモ、イズモコバイモ、ミノコバイモ、カイコバイモ、コシノコバイモ、アワコバイモ、トサコバイモ、トクシマコバイモ

トクシマコバイモ20220409大河原高原S.jpg
トクシマコバイモ 2022.4.9 大河原高原

nice!(0)  コメント(0) 

ふく [は行]

 幸福の福に長寿の寿で福寿草(フクジュソウ)とは何とも縁起のいい名前だ。江戸の時代から正月の床飾り鉢植えとして販売されたこの花の使い道に相応しい名前を店主は付けたのだろう。元日草とも呼ばれたが縁起のいい名前の方が江戸っ子には人気があったに違いない。一説には「福告ぐ草」が転じたともいうが、苦しいダジャレのようだ。さて、この「福」の字義を名に持つ植物だが、ありそうでない。オタフクギボウシは「お多福」で葉が丸くてお多福面型。ダイフクチクは節間が大福餅のように膨れる竹。あとは地名由来で、福島県産のフクシマナライシダ、フクシマシャジン、福井県産のフクイカサスゲ、長崎県天草市天草町福連木のフクレギシダとフクレギクジャク、三重県菰野町の福王山に由来するというフクオウソウがある。沖縄の福木(フクギ)と福満木(フクマンギ)は当て字だろう。「福」は佳字なので地名や植物名の当て字とされたようである。
<福がある植物>
フクジュソウ(エダウチフクジュソウ)、ミチノクフクジュソウ、キタミフクジュソウ、シコクフクジュソウ

フクジュソウ20200307藤原岳.JPG
フクジュソウ 2020.3.7 藤原岳(三重県いなべ市)
nice!(0)  コメント(0) 

ふさ [は行]

「ふさ」は房のこと。意味は説明するまでもなく、「ふさ」を名に持つ植物にはどこかにフサフサしたものがあるはずである。フサザクラの花は花弁がなく雄しべが房状に垂れ下がる。フサシダは葉の先が細かく分かれ房状の胞子嚢をつける。フサスギナは細かく分岐する茎を、フササジランは輪生する葉を、フサタヌキモはその葉を房に見立てたものである。フサモの仲間は、羽状の葉が輪生し房のようになる。フサフジウツギはブッドレア名で流通する園芸植物でその花序が房状である。なお、イソフサギのフサは「塞ぐ」、のフサであり房状のものはない。
<房がある植物>
フサスギナ、フサシダ、フササジラン、フサザクラ、ウラジロフサザクラ、オグラノフサモ、ホザキノフサモ、トゲホザキノフサモ、フサモ、オオフサモ、フサフジウツギ、フサタヌキモ

フサザクラ20180331金剛山.JPG
フサザクラ 2018.3.31 金剛山黒栂谷(大阪府千早赤阪村)
nice!(0)  コメント(0) 

ひいらぎ [は行]

 ずきずきと脈打つように痛むことを古語では「ひいらぐ(疼ぐ)」といった。現代の「うずく(疼く)」である。モクセイ科の常緑低木のヒイラギは「疼木」であり、なるほど、葉にある硬い棘を指に刺してしまったら、しばらくは疼くような痛みを感じることになりそうである。一文字の漢字「柊」は「疼木」を合わせ略したものとされる。
 「ひいらぎ」を名に持つ植物は、葉の形が本家ヒイラギに似ているか、鋸歯が鋭いものである。ヒイラギと近縁のものとしては、ヒイラギとギンモクセイの雑種とされるヒイラギモクセイがあるのみで、他は皆、科が異なる。クリスマスに飾られるセイヨウヒイラギはモチノキ科であり本家にはない赤い実をつける。

<ひいらぎを名に持つ植物>
ヒイラギデンダ(オシダ科)、ヒイラギソウ(シソ科)、ヒイラギ、ヒイラギモクセイ(モクセイ科)、ヒイラギヤブガラシ(ブドウ科)、ヒイラギズイナ(ユキノシタ科)、ヤマヒイラギツバキ(ツバキ科)、ヒイラギナンテン(メギ科)、セイヨウヒイラギ(モチノキ科)。

ヒイラギナンテン20161224大阪市長居公園.jpg
ヒイラギナンテン 2016.12.24 大阪市長居公園(植栽)

ひれ [は行]

 鰭といえば魚のもので、漢字も魚へんだ。植物に鰭状の部位があれば、解剖学的には翼(よく)と呼ばれる。しかし、ヨクが名前に付いた植物はなく、ヒレが付いたものなら若干存在する。ヒレアザミやヒレハリソウは、茎に翼を持っており、茎の強度を増す働きをしているそうである。ヒレフリカラマツはというと、どこにも翼はない。佐賀県の岩場に生育するこの花のヒレは「領巾」で、飛鳥、奈良時代の女性が装身具として、両肩に掛けて左右へ垂らした長い帯状の布である。愛しい男との別れの時、女はこの領巾を振る。
 今から1500年ほど前のこと、松浦(現:唐津市厳木町)の豪族の娘佐用姫(さよひめ)は、新羅に出征するためこの地を訪れた大伴狭手彦と恋仲となった。出征の別れの日、佐用姫は鏡山(別名:領巾振山ひれふりやま)の頂上から領巾を振り、船を見送っていたが、別れに耐えられなくなり船を呼子の加部島まで追って行き、七日七晩泣きはらした末に石になってしまったという。万葉集には、この伝説に因んで詠まれた山上憶良の和歌が収録されている。

 行く船を 振り留めかね 如何ばかり 恋しかりけむ 松浦佐用姫

<ひれつきの植物>
ヒレフリカラマツ、ヒレアザミ、マルバヒレアザミ、ヒレハリソウ

ヒレハリソウ20160527安曇野.JPG
ヒレハリソウ 2016.5.27 長野県安曇野市

ほてい [は行]

 ホテイアオイの「ほてい」は七福神の「布袋」、七福神の中で一際目立つ布袋様のお腹に、丸く膨らんで浮袋になっている葉柄を例えたものである。布袋を名に持つものは、どこかがお腹の様に脹らんでいるようで、ホテイチクは斜めになった節間の膨らみ、ホテイラン、ホテイアツモリソウ、ヒメホテイランは唇弁の形、ホテイシダは下側の幅が広い葉が名の由来である。植物で七福神を揃えようと思ったのだが、意外にも布袋様以外には弁天様のベンテンツゲだけで、恵比須、大黒天、毘沙門天、福禄寿、寿老人がない。これではさみしいので他の神様に代理になって貰うとしよう。現在の七福神のメンバーが確定するのは江戸時代のことだが、福緑寿と寿老人は本来同一の神様であり、寿老人の代わりに、吉祥天・お多福・福助・稲荷神・猩猩・虚空蔵菩薩・宇賀神・達磨・ひょっとこ・楊貴妃・鍾馗・不動明王・愛染明王・白髭明神などが七福神の一人に数えられたことがあったという。ならば、ダルマギク、オタフクギボウジ、ショウキラン、ショウジョウバカマ、キチジョウソウを加えて、七福神の完成だ。無理やりだけど、めでたしめでたし。

<植物で匕福神巡り>
布袋:ホテイチク、ホテイシダ、ホテイアオイ、ホテイラン、ホテイアツモリ、ヒメホテイラン.弁天:ベンテンツゲ.達磨:ダルマギク.お多福:オタフクギボウシ、ミドリオタフクギボウシ.鐘馗:ショウキズイセン、ショウキラン、エンレイショウキラン、キバナノショウキラン.猩猩:ショウジョウスゲ、ショウジョウバカマ、コショウジョウバカマ、ツクシショウジョウバカマ、オオシロショウジョウバカマ、シロバナショウジョウバカマ、ヤクシマショウジョウバカマ.吉祥天:キチジョウソウ

ホテイアオイ070529岐阜県可児市.JPG
ホテイアオイ 2007.5.29 岐阜県可児市(栽培)



ふゆ [は行]

 花が売り物の公園にありがちなうたい文句、「四季折々に花々が咲き誇り」とは言葉のあやで、日本では冬に咲く花は極わずかである。それを反映してか冬と名がつく植物もフユノハナワラビの仲間、フユイチゴの仲間、そしてフユザンショウの9種のみである。フユノハナワラビはシダ植物なので花は咲かないが、冬に花のような胞子葉を展開する。キイチゴ属の数ある種の中で、常緑なのはフユイチゴの名を持つものとホウロクイチゴだけで、しかもフユイチゴは秋に花を開き冬に実を着ける。サンショウ属11種の内、常緑なのはフユザンショウとイワザンショウのみである。というわけで冬と名の付く植物はそれぞれに変わり者である。
 それでは、他の季節はどうだろう。まずは種数であるが、春は16種、夏は25種、秋は45種と、思いのほか多くはない。個々の名前を見てみると、変わり者がいっぱいいる。リンドウなのに春に花咲くハルリンドウ、ツバキなのに夏に花咲くナツツバキ、ノゲシなのに秋に花咲くアキノゲシといった変わり者のオンパレードである。春夏秋冬の季節名+基本植物名の組み合わせは、季節外れの変わり者のために用意された命名法となっている

<冬の植物>
フユノハナワラビ、エゾフユノハナワラビ/フユイチゴ、アマミフユイチゴ、コバノアマミフユイチゴ、ミヤマフユイチゴ、コバノフユイチゴ、オオフユイチゴ/フユザンショウ

フユノハナワラビ20151027富田林.jpg
フユノハナワラビ 2015.10.27 富田林市

はぐま [は行]

 「はぐま」は、チベットからヒマラヤの高地に生息する牛の仲間である「ヤク」のしっぽの毛のことである。ヤクは古くから家畜化され、乳や毛が利用されてきた。日本では仏具の払子(ほっす)の他、槍や兜の飾りとしてヤクの尾毛が好んで用いられた。戊辰戦争の際の官軍の被り物(毛付き陣笠)は、徳川家が江戸城に残していった品で作られたものであり、土佐藩は赤く染めた「しゃぐま(赤熊)」、薩摩藩は黒く染めた「こぐま(黒熊)」、そして長州藩が白色の「はぐま(白熊)」を着用した。植物のハグマはキク科に14種あり、その花の形を毛槍に見立てたものと思われる。毛槍は大名行列の先頭で奴さんが担いでいる先端に毛玉の飾りが着いた槍で、毛玉は鳥の羽やヤクの尾毛で作られた。植物のハグマの花は、毛槍を回転させ、飾りが放射状に開いた状態をイメージさせる。本来は白いヤクの毛で作られた毛槍を「はぐま」と呼んだのだろうが、現在、各地の祭りなどに登場する「はぐま」は、毛色の黒いものもあり、漢字も「羽熊」をあてるところがあり、少々ややこしい。

<はぐまを名のる植物>
モミジハグマ、オクモミジハグマ、キッコウハグマ、リュウキュウハグマ、エンシュウハグマ、ホソバハグマ、ツルハグマ、カコマハグマ、センダイハグマ、クルマバハグマ、カシワバハグマ、ツクシカシワバハグマ、イワキハグマ、オヤマハグマ

カシワバハグマ20140911和泉葛城山.jpg
カシワバハグマ 2014.9.11 和泉葛城山


ひおうぎ [は行]

 ヒオウギアヤメはアヤメとよく似た紫色の花を着ける。秋篠宮紀子さまのお印がヒオウギアヤメとなった時、紫色の花なのに、なんで「緋扇」なのかと疑問に思った。恥ずかしながら、ヒオウギ、ヒメヒオウギスイセンの花が赤いので、「ひおうぎ」の「ひ」は緋色の「緋」と勝手に思い込んでいたのである。正しくは「檜扇」である。檜扇とは、宮中で用いられた木製の扇のことで、檜の薄い板で作られた。紙製の扇、扇子はこれから派生したものだという。ヒオウギの名の由来は、その葉の形にあったわけである。檜扇を名に抱く花には、アヤメ科のヒオウギとヒオウギアヤメの仲間、園芸植物のヒオウギスイセンがある。檜扇以外の扇には、シソ科のオウギカズラ1種があるが、この花はどこにも扇らしいところがない。なおマメ科のタイツリオウギなどの「おうぎ」は生薬の「黄耆」であり扇ではない。

<檜扇を抱く植物>
ヒオウギ、ヒオウギアヤメ、ナスヒオウギアヤメ、キリガミネヒオウギアヤメ、ヒオウギスイセン(園芸)、ヒメヒオウギスイセン(園芸)

ヒオウギ100806河川環境楽園.JPG
ヒオウギ 2010.8.6 各務原市河川環境楽園(植栽)

ぼくち(ほくち) [は行]

 山好きの方々は、オヤマボクチを「お山僕ん家」と呼ぶそうだが、もちろん「ぼくち」は「僕ん家」ではなく、火口(ほくち)の意である。火口は、火打石で火をおこすときに、火花を受けて最初の火種をつくる燃焼材である。火口には、引火性が高く、火もちがよい素材として、サルノコシカケ類のキノコの粉末や、麻などの繊維、ガマの穂など、地域や時代に応じて様々な素材が使用された。オヤマボクチの仲間の葉の裏には綿毛があり火口として使われたという。ホクチアザミも同様である。帰化植物にホクチガヤがあるが、これは別名をルビーガヤといい、赤い穗を付ける。火口として利用したのではなく、火種のように見えるから付いた名である。

<ぼくちを名に持つ植物>
キク科:ハバヤマボクチ、キクバヤマボクチ、ヤマボクチ、オヤマボクチ、オニヤマボクチ(以上ヤマボクチ属)、ホクチアザミ(トウヒレン属).イネ科:ホクチガヤ(帰化、別名ルビーガヤ)

ハバヤマボクチ20130914岩湧山.jpg
ハバヤマボクチ 2013.9.14 岩湧山


ぶし [は行]

 キンポウゲ科トリカブト属のサンヨウブシ、カワチブシ、ハクバブシ、カラフトブシなどの「ぶし」はトリカブト類の別名であり「附子」と書く。元々はトリカブト類の塊根のことで、茎の出ている母根を「烏頭(うず)」、母根についた新しい塊根を「附子」と書いて「ぶし」あるいは「ぶす」と読んだ。これらの塊根からは猛毒が得られ、毒自体も「附子」と呼ばれた。アイヌが矢毒として用いたことが知られている。「烏頭」もトリカブト類の別称なのだが、トリカブト類には標準和名にこの名を持つものはなく、なぜかヒメウズにその名が残っている。ヒメウズは無毒とは言い切れないが、少なくとも猛毒ではない。不細工な女性を指す蔑称に「ぶす」があるが、一説に、附子にやられると顔面神経が麻痺して無表情になるからという。あくまでも一説。

カワチブシ20130814大台ケ原.jpg
カワチブシ 2013.8.14 奈良県大台ケ原

ふらさば [は行]

  昨今、ネット上での言葉の短縮がすさまじい。「あけおめ」は「あけましておめでとう」のことで、「ことよろ」は「今年もよろしく」である。それでは「ふらさば」は何でしょう?。
  言葉の短縮は今に始まったことではなく、日本人は昔から短縮が得意である。「ふらさば」の答えは「フランシェとサバチェ」であり、昭和の初め(1937)に奥山春季という植物学者が、フラサバソウのために作った短縮語である。フランシェとはフランスの植物学者フランシェ氏(Adrien Rene Franchet)であり、サバチェとは同じくサバチェ氏(Paul Amedee Ludovic Savatier)のことである。二人が記した「日本植物誌(Enum. PL. Japonicum、1875)」には、フラサバソウが明治初年(1868)に長崎で採取されたとの記録があり、ヨーロッパ原産のフラサバソウが、すでに日本に帰化していた証拠といえる。その後、フラサバソウの記録は途絶えるが、田代善太郎が1911年に長崎で採取した標本の中に、奥山がフラサバソウを見つけ出して、二人のフランス人の名前からフラサバソウと命名した。
  奥山氏の知識の深さには感心するが、命名センスはいかがなものであろうか。一般人にはその名の由来は想像もつかない。なおフラサバソウにはツタバイヌノフグリという別名がある。こちらの名は体を表している。

フラサバソウ070405岐阜県可.jpg
フラサバソウ 2007.4.5 岐阜県可児市

びわ [は行]

  バラ科のビワは、日本に自生していた可能性もあるが、栽培される種は奈良時代に中国から渡来した。現在、山野に見られるものは渡来ものが野生化したものだろう。漢字では「枇杷」と書き、漢名がそのまま使われている。その名の由来は楽器の「琵琶」に葉の形が似ているからと、北宋時代の本草書「本草衍義」に記載がある*。楽器の琵琶も奈良時代に渡来したという。ちなみに湖の琵琶湖もその形が楽器の琵琶に似ているからという。だが琵琶湖を一望できる山などありはしない。測量地図が描かれた江戸時代の命名らしい。
  さて、枇杷は、実が食用に、葉は生薬となる有用植物である。実の形も葉の形も特徴的であり、似ている故にビワの名をいただいた植物がある。葉が似ているものとしては、クスノキ科のハマビワ、アワブキ科のヤマビワ、イワタバコ科のミズビワソウ、ヤマビワソウがある。実が似ているとされるのはクワ科のイヌビワとその近縁種が多数あるが、これらはイチジクの仲間でその実はむしろイチジクに似ている。

<「びわ」の名をいただいた植物>
バラ科:ビワ/クワ科:イヌビワ(ホソバムクイヌビワ、アカメイヌビワ、トキワイヌビワ、ホソバイヌビワ、ケイヌビワ、ムクイヌビワ、オオバイヌビワ、ギランイヌビワ、ハマイヌビワ)/クスノキ科:ハマビワ/アワブキ科:ヤマビワ/イワタバコ科:ミズビワソウ、ヤマビワソウ(キレバヤマビワソウ、タマザキヤマビワソウ)

*「植物和名の語源」、深津正、八坂書房.

イヌビワ111029堺市.JPG
イヌビワ 2011.10.29 堺市

ぼろ [は行]

 帰化植物のノボロギク、ダンドボロギクの「ぼろ」は漢字で書くと「襤褸」。襤褸は、もともと着古して穴が開いて、ツギを当てているような着物のことであるが、使い古しの端切れは「ぼろきれ」、自動車なら「おんぼろ」、さらに「ぼろぼろ」となると使いようがない。帰化植物とはいえ何とも情けない名前をいただいたものだが、ボロギクはサワギクの別名で、花が終わって冠毛を着けた様子が、着古した綿入れの着物からとび出した綿のようだということらしい。イネ科のミノボロは蓑襤褸で花穂を破れた蓑に見立てたもので、カヤツリグサ科のミノボロスゲはミノボロに似ているからという。さらに九州に自生するボロボロノキ科のボロボロノキという落葉樹がある。枝がもろくてすぐに折れるので、どうにも使いようがない木である。

<ぼろい植物>
ボロギク(サワギクの別名)、ノボロギク(帰化)、ダンドボロギク(帰化)、ミノボロ、ミノボロスゲ、ツクシミノボロスゲ、キビノミノボロスゲ、ボロボロノキ

ノボロギク20120328堺市.JPG
ノボロギク 2012.3.28 堺市

へび [は行]

 蛇を毛嫌いする人が多い。咬まれると命にかかわる毒蛇もいるので、生物として正しい反応だと思うが、蛇と名のつくもの、すべてに毒があると思うのは過剰反応である。ヘビイチゴ属のヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴの赤い実は、食べておいしいわけではないが毒があるわけでもない。蛇が食べるイチゴという意味と言われる。食用のイチゴはオランダイチゴ属で、シロバナヘビイチゴ(モリイチゴ)など同属の野生のイチゴの実はおいしいのだが、なぜかヘビが付く。キジムシロ属にもオヘビイチゴなどヘビが付くものがあるが、これらはそもそもイチゴのような赤い実を着けない。ヘビイチゴに花が似ているということだろう。
 ヘビイチゴ以外にヘビがつくものとしては、メシダ属のヘビノネゴザの仲間がある。「蛇の寝御座」の意味であり、輪生する葉が、ヘビがとぐろを巻くのに程よい形状という。もちろん、実際にとぐろを巻くわけがないが、このシダの茂るようなところにはヘビがたくさんいそうではある。同属のヘビホソバイヌワラビとヘビヤマイヌワラビは、それぞれヘビノネゴザとホソバイヌワラビ、ヤマイヌワラビの雑種なのでヘビを付けられたらしい。
 他にはメギ科の落葉低木のヘビノボラズの仲間がある。「蛇登らず」の意味であり、枝の鋭いトゲを見るとその由来がわかる。
 植物名には「蛇」を表すのに「ヘビ」の他に、ジャノヒゲのように「ジャ」を用いたものもある。また「ウワバミ」がウワバミソウに使われている。なお蛇のことを古語でクチナワといい、枕草子には、ヘビイチゴが「くちなはいちご」の名前で、「名おそろしきもの」として登場する。

<ヘビが名前につく植物>
バラ科ヘビイチゴ属:ヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴ オランダイチゴ属:シロバナノヘビイチゴ(モリイチゴ)、ベニバナヘビイチゴ、ヤクシマヘビイチゴ、エゾヘビイチゴ キジムシロ属:ヒメヘビイチゴ、オヘビイチゴ
メシダ科メシダ属:ヘビホソバイヌワラビ、キリシマヘビノネゴザ、ヘビヤマイヌワラビ、ミヤマヘビノネゴザ、ウスバヘビノネゴザ、ヘビノネゴザ、ヒロハヘビノネゴザ、
メギ科:ヒロハノヘビノボラズ、アカジクヘビノボラズ、マルバヘビノボラズ、ヘビノボラズ

ヘビイチゴ990503つくば市.JPG
ヘビイチゴ 1999.5.3 茨城県つくば市

ほととぎす [は行]

  「ホトトギス」と聞いて思い浮かぶのが、花の人、鳥の人、はたまた正岡子規の文芸誌の人と、様々であろうが、大元は鳥のホトトギスである。漢字表記は、不如帰や杜鵑など多数あり、正岡子規の「子規」もホトトギスの漢名のひとつである。植物のホトトギスは花に斑点があり、鳥のホトトギスのお腹の斑点に見立てたものといわれる。
  鳥の名前ホトトギスの由来は、鳴き声から来たもので、「てっぺんかけたか」とか「特許許可局」という聞きなしがよく知られているが、その気になって聞けば、ちゃんとホトトギスと聞こえるから納得できる。ところが、花の斑点とお腹の斑点は似ていない。お腹の模様は、虎斑(とらふ)といわれる模様で、花の模様は強いて言えば水玉模様である。
  虎斑、鹿の子(かのこ)、水玉など、斑点模様にも色々あるが、斑点のある植物がどう呼ばれているかというと、「フイリ(斑入り)・・・」と呼ばれる例が多く、園芸植物を加えれば、その数は膨大である。・・・[フイリネコヤナギ、フイリイヌコリヤナギ、フイリイナモリソウ、フイリダンチク、フイリヒメフタバラン、フイリミヤマフタバラン] 。
  トラフ、マダラという植物はなく、カノコにはカノコユリがある。カノコソウ、ツルカノコソウもあるが、これらには斑点はなく、蕾の時期の花穂を鹿の子模様と見立てたものである。ミズタマにはミズタマソウ、ヒロハミズタマソウがあるが、斑点はなく実の形からきたものである。

[ホトトギス、シロホトトギス、ヤマホトトギス、サツマホトトギス、チャボホトトギス、ヤマジノホトトギス、シロバナホトトギス、キバナノホトトギス、タマガワホトトギス、ハゴロモホトトギス、タカクマホトトギス、セトウチホトトギス、ジョウロウホトトギス、チュウゴクホトトギス、キイジョウロウホトトギス、サガミジョウロウホトトギス、スルガジョウロウホトトギス、キバナノツキヌキホトトギス]

ヤマジノホトトギス090924坂折.jpg
ヤマジノホトトギス 2009.9.24 岐阜県恵那市

ひな [は行]

  「ひな」は雛人形の「雛」、他の植物名の上に接頭語のように付けて、小さい、可愛いという意味を表す。ヒナギキョウ、ヒナスミレ、ヒナザクラなど40種ほどある。同じような用語としては、「ひめ(姫)」があり、ヒメハギ、ヒメウツギ、ヒメシャラなど300種を数える。個人的なイメージだが、お姫さまが遊ぶお雛さまのほうがより小さく感じる。
  単に小さいと意味したいなら、もちろん「こ(小)」があるが、「こ」が付く植物は200種ほどである。語呂の良し悪しもあるとは思うが、ストレートに小とはせず、姫や雛に比喩するのが和の感覚なのだと思う。そしてこの和の感覚、さらに鳥、虫へと広がり、小さな鳥といえば「すずめ(雀)」で、スズメノテッポウ、スズメノカタビラなど約30種。小さな虫といえば「のみ(蚤)」で、ノミノツヅリ、ネバリノミノツヅリ、ノミノフスマの3種。そして極めつけは「みじんこ(微塵粉)」、ミジンコウキクサ1種がある。

ヒナギキョウ110724平等院.jpg
ヒナギキョウ 2011.7.24 京都府宇治市平等院


ぼろじの [は行]

  「ぼろじの」という言葉が使われる植物は、ボロジノニシキソウただ1種であり、この植物は、日本では沖縄県の大東諸島だけに生育する。「ぼろじの」は、その昔、ロシア人が付けたこの島の名前であるボロジノ諸島からきたものである。ボロジノ諸島の英語表記はBorodino Islandsとなるが、もともとはロシア語である。19世紀前半にこの島を発見したロシア海軍の佐官であったポナフィディンの指揮する艦船ボロジノ号にちなんで命名された。さらに、なぜボロジノ号かといえば、1812年のナポレオンが指揮するフランス軍とこれを迎え撃つロシア軍との激戦地、モスクワ西方のボロジノ(Бородино)に因んで艦船に名前が付けられたものである。
  なお、ボロジノニシキソウと「襤褸(ぼろ)を纏(まと)えど心は錦」とは、何の関係もない。

ボロジノニシキソウ990702南大東島.JPG
ボロジノニシキソウ 1999. 7.2 沖縄県南大東島

補)命名者は南西諸島の植物学や民俗学に功績を残した田代安定である。田代は1889(明治22)年植物学雑誌第29号に掲載された「海南諸島(新検出)植物雑説」において『ぼろぢのにしきさう』を報告し、命名の理由を最初の発見者がロシア人なのでロシアの地名を付けたと記述している。ロシア海軍の練習船の乗組員が採取した標本がサンクトペテルブルグの帝立植物園内の博物館にあり、田代は自分の標本と同種であることを確認している。
追)近年にいたり、ロシア文化・文学の研究者である木村崇は、ボロジノ諸島発見後の史実の考証過程において、田代安定が見たであろうボロジノニシキソウの標本の存在を確認し、その写真を自著の論文「境界なき空間 : 時代的事象としてのボロジノ」(境界研究, 2, 1-29、2011)に掲載している。

ぼうふう [は行]

  防風(ぼうふう)は中国に自生するセリ科の多年草Saposhnikovia divaricata(和名:ボウフウ)の根を乾燥させた生薬である。発汗・解熱作用があり、漢字表記の「防風」は風邪薬として用いられたからという。日本には、○○ボウフウという植物はセリ科に12種あり、ボウフウに姿形がおおむね似ているが、ボウフウの代用にはならない。その中でハマボウフウは例外で、姿形は似ていなくて薬効がある。その薬用成分はボウフウとは異なるが、発汗・解熱作用があり、ボウフウの代用として用いられたようだ。現在では「ハマボウフウ」という名称で日本薬局方に記載されるれっきとした生薬である。
  ボウフウが茎を立てて花・葉を着けるのに対し、ハマボウフウは地面に這いつくばるように花・葉を着ける。ハマボウフウは砂浜の植物であり、波うち際に近い砂丘上に生育する姿は、まるで海風から砂浜を守っているようにも見える。言い得て妙である

<防風の名を持つ植物>
エゾボウフウ、イシヅチボウフウ、トサボウフウ、ハマボウフウ、ボタンボウフウ、ハクサンボウフウ、エゾノハクサンボウフウ、カワラボウフウ、ツクシボウフウ、イブキボウフウ、ハマノイブキボウフウ

ハマボウフウ20100606蒲池海.jpg
ハマボウフウ 2010.6.6 愛知県常滑市蒲池海岸

ほると [は行]

「ほると」とはポルトガルのことで、ホルトノキ科にホルトノキと小笠原特産のシマホルトノキ、ヒルガオ科にホルトカズラがある。
ホルトノキの名の由来は、江戸時代の奇才、平賀源内が著した「紀州物産志」と「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」にある。当時、オリーブ油をポルトガルの油といい、源内はポルトガルの油のとれる樹木、ポルトガルの木を発見したと両書に記述した。そしてポルトガルの木がホルトの木となった。つまり源内はホルトノキをオリーブの木と思い込んだわけである。なお、源内はオリーブと断定するにあたり、オランダ医官のボルステマンに鑑定を依頼しており、両者にとって情けない逸話となっている。
また、ヨーロッパ原産の栽培植物にホルトソウ(Euphorbia lathyrus)があり、日本に帰化しているが、ホルトソウはその実から偽オリーブ油を採ったという。
ホルトノキ20110622堺市.JPG
写真 ホルトノキ 2011.6.22 堺市

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。