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もくせい [ま行]

  橙色の花と強い香りで秋を知らせるキンモクセイは漢字で「金木犀」と書く。花の白いギンモクセイは「銀木犀」、黄色のウスギモクセイは「薄黄木犀」である。木犀は中国から伝わった名称であり、単に木犀といえばギンモクセイを指す。
  犀は熱帯の草原に生息する草食獣の「サイ」であり、ギンモクセイの樹皮がサイの皮膚に似ているので木犀と名が付いたといわれる。また、中国ではギンモクセイを桂花あるいは銀桂ともいい、キンモクセイを丹桂、ウスギモクセイを金桂という。日本人と中国人では、色のとらえ方が多少異なるようだ。
  キンモクセイ、ギンモクセイは日本に自生がなく、雄株だけが栽培されているので、実を見ることがない。ウスギモクセイは中国由来と考えられるが、九州に自生があるとも言われている。
  日本自生のモクセイには、シマモクセイ、リュウキュウモクセイ、ヤナギバモクセイ、オオモクセイがあり、中国産のモクセイが日本に伝わった後に付けられた名前であろう。また、ヒイラギモクセイはギンモクセイとヒイラギの雑種と考えられている。
  なお、日本では「桂」はカツラ科の落葉高木のカツラを指す。これは、非常に古い時代に起きた混同であるという。
  ところで、中国には、月には巨大な桂の木が生えているという伝説があり、それを切り倒そうとする人の姿が月面に見えるそうである。この桂の大木は本来モクセイなのだろうが、日本人には樹高30mにも達するカツラの方がしっくりくる。

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キンモクセイ 2011.10.1 大阪府堺市(植栽)


なんきん [な行]

  南京(なんきん)は中国の都市名である。長江下流域の中心都市として、いくつもの王国の首都となり、明代には北京に対して南京と名前が付けられる。長江に作られた南京港は、東アジアの貿易拠点となり、江戸時代に長崎に入港するオランダ船や中国船によって日本に持ち込まれた品々は、産出国がどこであれ、南蛮渡来か南京渡来ということになったのであろう。南京豆、南京玉、南京錠、南京袋、南京虫など様々な渡来物に南京が冠せられた。
  当時、日本では中国のことを、唐(とう、から、もろこし)と呼んでおり、唐を冠する物も当然ある。しかし、南京の方がエキゾチックな感じを実感できたのだろう。現代の国語学者は、物の名に付けられる南京の意味を、単に中国渡来のものという意味だけではなく、中国渡来の珍奇なもの、または小さく可愛らしいものと解釈している。
  南京が名に付く野生植物にナンキンナナカマドがある。日本自生の種であり、葉の小さなナナカマドの意味である。一方、街路樹などに使われるナンキンハゼは中国原産であり、貝原益軒の大和本草(1708)に「近年異邦より来る」との記載がある。木蠟採取を目的に持ち込まれたと思われるが、暖かい地方で紅葉が楽しめる数少ない樹木として、日本人に受け入れられたようである。

<南京を冠する植物>
ナンキンナナカマド、ナンキンナナカマドモドキ、ナンキンハゼ(外来)。

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ナンキンハゼ 2011.11.3 大阪府堺市(植栽)

しし [さ行]

  古い日本語の「しし」は「肉」を意味し、食用とする獣肉が、いのしし(猪のしし)、かのしし(鹿のしし)であり、転じて、野生動物そのものを差すようになる。一方、ライオンの存在が中国を経て、聖獣となって日本へ伝わり、獅子(唐獅子)となる。
  「しし」が名前に着く植物には、シシランの仲間、シシガシラの仲間、シシウドの仲間がある。シシランは、岩肌から垂れ下がり叢生する細い葉を、ライオンの鬣に見立てたもので「獅子蘭」の意。シシガシラも同様に斜面に垂れ下がる輪生葉を鬣に見立て「獅子頭」。
  シシウドはイノシシが食べるに相応しいごついウドの意味で「猪独活」。実際、猪がこの根を掘り返して食べるという。もちろん、鹿が食べないわけがないので、「鹿独活」でもいいのかもしれないが、鹿をカノシシという習慣はすでにないので賛同はえられないだろう。
  なお、ヤブコウジ科の低木にシシアクチがあるが、そのシシの意味は不明である。

<名前に「しし」が着く植物>
猪:オオシシウド、シシウド、ミヤマシシウド、ケナシミヤマシシウド、エゾノシシウド。
獅子:ヒメシシラン、ムニンシシラン、シシラン、オオバシシラン、ナカミシシラン、イトシシラン、アマモシシラン、ミヤマシシガシラ、アオジクミヤマシシガシラ、シシガシラ、ヒメシシガシラ。
不明:シシアクチ。

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シシガシラ 2008.5.1. 愛知県瀬戸市海上の森

こうじゅ [か行]

  「こうじゅ」は生薬の「香薷」のこと。発汗・解熱、利尿などの作用がある。基原植物はシソ科の海州香薷(Elsholtzia splendens )で、全草を乾燥したものが生薬「香薷」である。日本ではナギナタコウジュ(Elsholtzia ciliate )やフトボナギナタコウジュ(Elsholtzia nipponica )が用いられる。海州香薷は中国名であり、この植物の日本での自生はないとされていたが、1992年に長野県で発見されニシキコウジュという和名が付けられた。
  シソ科には、これらナギナタコウジュ属(Elsholtzia )のほかにもコウジュが付く植物があり、ヤエヤマスズコウジュ、イヌコウジュ、スズコウジュ、ミゾコウジュがあげられる。これらをコウジュに似ているからと片づけるのは簡単だが、似ているかどうかは微妙だ。

<コウジュを名に持つ日本の植物>、
ナギナタコウジュ属:ナギナタコウジュ、フトボナギナタコウジュ、ニシキコウジュ(ニシキナギナタコウジュ)、カキドオシ属:ヤエヤマスズコウジュ、イヌコウジュ属:イヌコウジュ、スズコウジュ属:スズコウジュ、アキギリ属:ミゾコウジュ
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ミゾコウジュ 2006.6.3 岐阜県可児市可児川

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