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ゆきわり [や行]

 サクラソウ科のユキワリソウやユキワリコザクラ、キンポウゲ科のユキワリイチゲは、残雪の残る早春に花を開くが、雪を割って出てくるような状況は、これらについては見たことがない。別名「ユキワリ」というフクジュソウなら雪の中に咲く光景を見たことがある(「ふく」参照)。雪の多い地方にはユキワリソウ、ユキワリバナと呼ばれる野草がいくつかあり、日本植物方言集成(八坂書房2001)には、イチリンソウ、ハシリドコロ、シュンラン、ショウジョウバカマ、ミスミソウ類に、ユキワリソウあるいはユキワリバナという地方名があることが記載されている。北陸地方でユキワリソウといえばオオミスミソウを指すようであり、新潟県の草花となっている「雪割草」はユキワリソウと区別するため漢字表記となっている。園芸界で雪割草といえばミスミソウ類のことで園芸品種も多い。
<本名雪割と別名雪割>
本名:ユキワリイチゲ、ユキワリソウ、ユキワリコザクラ.別名:タカネコメススキ(ユキワリガヤ)、ユキノシタ(ユキワリソウ)、フクジュソウ(ユキワリ)、イチリンソウ(ユキワリソウ)、ハシリドコロ(ユキワリソウ)、シュンラン(ユキワリバナ)、ショウジョウバカマ(ユキワリソウ、ユキワリバナ)、ミスミソウ・オオミスミソウ・スハマソウ・ケスハマソウ(ユキワリソウ)

ユキワリイチゲ20220313河内長野市横谷.jpg
ユキワリイチゲ 2022.3.13 河内長野市横谷
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やしお [や行]

 シロヤシオの花を見る機会を得た。本種のほか、アカヤシロ、ムラサキヤシオなど、ヤシオツツジの「やしお」は漢字にすれば、「八入」あるいは「八塩/潮/汐」。辞書を紐解けばその意味は“幾度も染め汁に浸してよく染めること。また、その染めた物。”とある。はたしてその色はと読み進めれば、万葉集に“竹敷(たかしき)のうへかた山は紅の八入の色になりにけるかも”とあり、「紅の八しお」とは紅花の濃染の深みのある赤、いわゆる深紅(しんく)のことという。シロはもちろん、アカもムラサキもヤシオツツジの花は深紅でもなければ濃くもないなどと、浅はかな思いをめぐらせ続け、ふと気づく。紅葉だ。これは秋にも行かねばなるまい。

シロヤシオ20190526釈迦ヶ岳.JPG
シロヤシオ 2019.5.26 釈迦ヶ岳(奈良県)



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やく [や行]

 「やく」という文字を含む植物名は、ほとんどが屋久島産を意味する「屋久」なのだが、いくつか「薬」を意味するものがある。本当に薬効を持つものもあればそうでないものもあるが、まずは日本薬局方に記載される正式な薬となるものにシャクヤク(芍薬)がある。その根が生薬の芍薬となる。中国からの移入種で、在来の近縁種にヤマシャクヤクとベニシャクヤクがあるが薬にはならない。同じく中国産のテンダイウヤク(天台烏薬、クスノキ科)は根が生薬の烏薬となる。コウシュウウヤク(衡州烏薬、ツヅラフジ科)は別科の在来植物だが葉の形が似ているためかこの名で呼ばれる。当然のことながら烏薬にはならない。後は民間薬の類となるが、ズダヤクシュ(喘息薬種)は咳止めとして使われたという。イチヤクソウ(一薬草)は、これ一つで諸病に効くという意味らしく、いくつも効能がある。 トウヤクリンドウ(当薬竜胆)の当薬と竜胆(りゅうたん)は、ともに健胃薬となる生薬である。ちなみに当薬とはセンブリのこと。「やく」ではないが「メグスリノキ(目薬の木)」というものもある。クスノキは「薬の木」が名の由来といわれる。最後に薬ではないが薬に関連したものとして、クスダマツメクサ(薬玉詰草)の花の形は開店祝いの薬玉のように丸いが、そもそも薬玉は、様々な薬を束ねた魔よけであり、端午の節句に飾られた。ヤクシソウ(薬師草)の名の由来は、医薬の仏として信仰される薬師如来の光背にその葉を見立てたというが、薬効もあるもかもしれない。

<薬が名になった植物>
芍薬:シャクヤク、ヤマシャクヤク、ベニバナヤマシャクヤク。烏薬:テンダイウヤク、コウシュウウヤク。当薬:トウヤクリンドウ。薬種:ズダヤクシュ。一薬:イチゲイチヤクソウ、コイチヤクソウ、コバノイチヤクソウ、ベニバナコバノイチヤクソウ、カラフトイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ムヨウイチヤクソウ、イチヤクソウ、オオベニイチヤクソウ、ヒトツバイチヤクソウ、エゾイチヤクソウ、マルバイチヤクソウ、ベニバナマルバイチヤクソウ、ジンヨウイチヤクソウ。薬玉:クスダマツメクサ。目薬:メグスリノキ。薬師:ヤクシワダン、ヤクシホソバワダン、ヤクシアゼトウナ、ヤクシソウ、ハナヤクシソウ、イワヤクシソウ。その他の薬:クスノキ

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ヤマシャクヤク 2018.5.5 霊仙山

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よしの [や行]

 奈良県吉野町の吉野山は誰もが知る桜の名所。そのご威光にあやかろうとしたのか、江戸の末期、江戸染井村の植木屋は新種の桜を「吉野桜」と称して売り出した。後のソメイヨシノである。栽培品種ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラの交配種であることが、国立遺伝学研究所での交配実験により明らかにされており、ソメイヨシノと吉野山の桜には直接的な関係はない。「吉野」が名につく桜、イズヨシノ、アマギヨシノ、フナバラヨシノは交配実験から産出された栽培品種である。他にも「吉野」を名に持つ桜の栽培品種はあるが、いずれも吉野山との関係はない。野生種として「吉野」が名につく桜はなく、他の植物ではヨシノアザミとヨシノヤナギの2種がある。そして、この2種も吉野山とは無関係であり、その由来は発見者の吉野善介にちなんだものである。吉野善介は、岡山県上房郡本町(現:高梁市) の出身で、家業の薬種商の合間に植物を採集し、大正から昭和初期にかけ植物分類学に貢献した。「備中植物誌」(1929年)の著者である。(補)吉野杉は奈良県吉野地方に産する杉。植物名ではなく、材木のブランド。

<「よしの」が名につく植物>
ヨシノアザミ、ヨシノヤナギ

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ヨシノアザミ 2015.11.5 大阪府河内長野市



やはず [や行]

 弓矢の矢の後端には、弦をはめ込む凹型の切込みの筈(はず)がある。弓の両端にも弦を結ぶ筈があるので、矢のものは矢筈(やはず)といって区別する。環境省の植物リストには「やはず」を名に持つ植物が15種類記載されている。葉の先端が矢筈のように凹型なのが基本のようで、ヤハズマンネングサ、ヤハズハンノキ、ヤハズアジサイ、ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ)、ヤハズカワツルモには、大なり小なり窪みがある。逆に葉の基部が凹んでいるのが、ヤハズカズラ、ヤハズトウヒレン、ヤハズヒゴタイで、その名の由来とされているが、基部からは葉柄が出ているので見た感じは鏃(やじり)に近い。なお「やじり」が名に付く植物はない。ヤハズソウはどこにも窪みはないのだが、葉の先をつまんで引っ張ると葉脈に沿ってきれいに凹型にちぎれる。ただし、矢筈というよりも矢羽根(やばね)のようである。「やばね」が名に付く植物も今ではないのだが、ヤハズハハコはもともとヤバネハハコと呼ばれていたらしい。ヤハズハハコの茎には翼がありこれを矢羽根に見立てたようだ。なお、ヤハズハハコにはどこにも凹型はない。
 最後にオオヤハズナシだが、この植物については存在自体が疑わしい。薬種商にして市井の植物研究家、後に「備中植物誌」を著す吉野善介によって岡山県上房郡楢井で採取され、京大の小泉源一博士が1925年に新種として植物学雑誌に記載した。小泉博士は他にも多くのナシの新種を登録したが、細かく分類しすぎたようで、現在ではその多くは同一種の変異とみなされている。小泉博士とすれば「こんな筈ではなかった。」というところか。

<やはずを名に持つ植物>
ヤハズマンネングサ、ヤハズハンノキ、ヤハズアジサイ、オオヤハズナシ、マルバヤハズソウ、ヤハズソウ、ヤハズエンドウ、ツルナシヤハズエンドウ、オオヤハズエンドウ(帰化)、ヤハズカズラ(園芸植物)、タカネヤハズハハコ、ヤハズハハコ、ヤハズトウヒレン、ヤハズヒゴタイ、ヤハズカワツルモ

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ヤハズアジサイ 2013.7.13岩湧山

やま [や行]

  桃太郎の昔話では、おばあさんは川に洗濯に、おじいさんは山に柴刈にでかける、この山は地形的な山を意味しているわけではなく、畑(ノラ)や集落(ムラ)に隣接する雑木林(ヤマ)、今に言う里山である。植物の名前に付くヤマも概ね里山にあるという意味で、地形的な山を意味したい時には、ミヤマ(深山)、オクヤマ(奥山)という言い方をする場合が多いように思う。
  とはいえ「山」の付く植物はとても数が多い。単に「ヤマ」という音を含む植物は500を超え、そこから深山、奥山など意味の異なるもの、地名、山岳名などを除いても100弱の植物が残る。残されたものを眺めてみると、その中には「山にある」という意味だけではなく、栽培種に対し「野生の」という意味が感じられるものがある。栽培種にその名を奪われ、本来の名に山を付けて区別されたようだ。
  ヤマナシはこれを原種として現在の梨がつくられたとされる。ヤマガキは栽培されるカキノキ(柿)の変種に分類され、カキノキは奈良・平安時代に伝来したとされる。ヤマグワは養蚕のため中国から持ち込まれたマグワ(トウグワ)に対し、ヤマウルシは漆塗のために樹液を採取するウルシ(中国原産)に対し、付けられた名のようだ。ヤマモモ、ヤマブドウも同じような歴史があると思われる。
  ヤマザクラは日本に11種ある野生の桜のひとつだ。ソメイヨシノが普及する明治期まで、桜といえばこのヤマザクラのこと、しかし、この桜、江戸時代から山桜と呼ばれている。品種改良され里に植えられる里桜に対し、山に自生する桜の代表ということらしい。

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ヤマザクラ 2009.4.9 奈良県吉野山

やぶ [や行]

  もし、半袖シャツで藪の中に入ったら、込み入った枝やツルで腕が傷だらけになり、おまけに薮蚊に刺され悲惨なことになる。ヘビが出てきたり、棒が出てきたり。藪医者にかかったらこんな不幸なことはない。マイナーなイメージの付きまとう藪だが、ヤブが付く植物は80種を数える。多くは藪に生えるという意味に解釈できるが、いくつか腑に落ちないものがある。
  まずはヤブツバキ。ヤブツバキは日本の照葉樹林を代表する中高木である。花も綺麗であり、ヤブツバキから多くの園芸品種が作り出され、庭に植えられているものは、ほとんどが園芸品種のツバキといっていい。それらの園芸品種に対して、野生のものというのが「やぶ」の意味であり、里桜に対する山桜の「やま」と同じ解釈ができる。同様にヤブニッケイは、中国から渡来し香料にっきの材料として栽培されたニッケイに対し、日本の森に自生したものと解釈できるが(なお、後にニッケイは沖縄などに自生が発見される。)、加えて有用性の高い栽培種に対して、劣っているという意味合いも感じ取られる。ヤブムラサキとなれば、庭木として愛用されるムラサキシキブやコムラサキシキブに比較して、毛深く、実の色が映えず、野暮ったい、というような、藪という言葉の持つマイナーなイメージと結びつき、ヤブが付く植物全体がなんとなくさえないような気がしてくる。ただし、ヤブガラシは、藪を覆いつくして枯らすという意のつる植物であり、他の植物のヤブとは一線を画す。
  なお、藪医者のヤブは本来「野巫」であり、田舎に住んで、占いやまじない、悪霊祓いなどを職業とする者のことであるそうだ。

<ヤブが付く植物>
イズヤブソテツ、メヤブソテツ、オニヤブソテツ、ヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツ、ホソバヤブソテツ、ヒロハヤブソテツ、ツクシヤブソテツ、クマヤブソテツ、ハマヤブマオ、カタバヤブマオ、シマナガバヤブマオ、ササグリヤブマオ、ケナガヤブマオ、ニオウヤブマオ、トガリバヤブマオ、ヤブマオ、ツクシヤブマオ、コヤブマオ、ゲンカイヤブマオ、メヤブマオ、タンナヤブマオ、ナガバヤブマオ、ヤブマオモドキ、マルバヤブニッケイ、ヒロハヤブニッケイ、ヤブニッケイ、マルバヤブニッケイ、シバヤブニッケイ、ヤブツバキ、ナガバヤブツバキ、シロヤブツバキ、コバナヤブツバキ、シロヤブケマン、ヤブサンザシ、ヤブヘビイチゴ、ヤブザクラ、リュウキュウヤブイチゴ、ヤブマメ、トキワヤブハギ、ケヤブハギ、ヤブハギ、ヤブツルアズキ、オオヤブツルアズキ、ヤブガラシ、ヒイラギヤブガラシ、アカミノヤブガラシ、オナガヤブニンジン、ヤブニンジン、ヤブジラミ、オヤブジラミ、ヤブコウジ、ホソバヤブコウジ、ヤブムグラ、ヤブムラサキ、オキナワヤブムラサキ、ヤブヒョウタンボク、ケナシヤブデマリ、コヤブデマリ、ヤブデマリ、ヤブウツギ、シロバナヤブウツギ、ツクシヤブウツギ、ヤブヨモギ、ヤブタバコ、コヤブタバコ、ミヤマヤブタバコ、ヤブタビラコ、オニヤブタビラコ、ヤブカンゾウ、ヒメヤブラン、ヤブラン、シロバナヤブラン、コヤブラン、ヤブミョウガ、コヤブミョウガ、ヤブザサ、ヤブスゲ、ヤブミョウガラン

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ヤブツバキ 2011.4.10 岐阜県各務原市自然遺産の森

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