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どうだん [た行]

 ドウダンツツジの「どうだん」は、「とうだい(灯台)」が転訛したものである。この灯台は岬に建つ航路標識ではなく、皿に油を入れ、灯芯を付けて火を着けた灯(ともしび)を置いた台のことである。灯台にも様々な形があるが、ドウダンツツジの語源となったものは、結び灯台と呼ばれるもので、3本の木の中ほどを紐で結び、三脚のように開いて立て、上側にできる小さな逆三脚(Ψ)の部分に皿を乗せた。冬になって葉を落とし、あらわになったドウダンツツジの三又になった枝先が名の由来とされる。実際のドウダンツツジの枝先は3から5本に枝分かれし、長さも不揃いだが、中にはきれいに揃った三又もあり、なるほどと思う。ドウダンツツジ属には10種のドウダンがある。とうだい(灯台)が転訛せずそのまま名前となったものにトウダイグサがあり、花托の形が皿状であることが由来とされている。トウダイグサ属には6種のトウダイがある。灯台は照明器具としては原初的なもので、その後覆いが付けられて屋内用には行燈(あんどん)、屋外用には灯籠が生まれ、ロウソクが使われるようになると灯台は燭台(しょくだい)になり、携帯用に提灯(ちょうちん)が発明される。植物にもそれぞれ、アンドンマユミ、トウロウソウ(セイロンベンケイ)、タヌキノショクダイ、チョウチンマユミがある。また灯やロウソクの灯芯にはイグサ(藺草)のスポンジ状の髄が使われたためイグサはトウシンソウとも呼ばれる。

<灯りにちなんだ名前を持つ植物>
灯台(どうだん・とうだい):ドウダンツツジ、シロドウダン、ベニドウダン、サラサドウダン、ツクシドウダン、チチブドウダン、ヒロハドウダンツツシ、ベニサラサドウダン、ウラジロサラサドウダン、カイナンサラサドウダン、トウダイグサ、タカトウダイ、ナツトウダイ、イズナツトウダイ、ヒメナツトウダイ、ナンゴクナツトウダイ.行燈(あんどん):アンドンマユミ.灯籠(とうろう):トウロウソウ(セイロンベンケイ).燭台(しょくだい):タヌキノショクダイ.提灯(チョウチン):チョウチンマユミ.灯芯(とうしん): トウシンソウ(イグサ).

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ベニドウダン 2014..5.23 京都府南山城村童仙房

せんだん [さ行]

 センダン科の落葉高木であるセンダンの漢字表記は、どの辞書をみても「栴檀」とある。そして諺の「栴檀は双葉より芳し」の栴檀はビャクダン科の常緑樹のビャクダン(白檀)であると解説がつく。実際にセンダンには香木にするほどの香りはなく、栴檀は日本でいう白檀の中国名であるそうだ。このような植物名の混同がなぜ生じたのであろうか。
 諺の起源は平家物語の巻第一殿下乗合に登場する同一の文にあり、世に広まり諺となっていくのは鎌倉時代以降のことである。一方センダンは古名を「アフチ」といい、それがセンダンと変わるのがいつかというと、江戸時代の「東雅」(新井白石、1717)に、アフチについて「俗にセンダンといふ是也」という記述がある。そしてこのセンダンについては千個の団子の「千団」とする説が有力である。センダンは秋に白い丸い実を着ける。冬になって葉を落とし実だけとなった姿は、老木となればまさに千個の団子がついているようである。「アフチ」が「千団」となり、「栴檀」と混同されるに至るには、滋賀県大津市にある三井寺の千団子祭りが関係していると言われる。三井寺は平安時代に創建された古刹であり、西国三十三所巡りの14番札所として、そして近江八景の三井晩鐘として有名なお寺である。千団子祭りは鬼子母神の千人の子供に千個の団子を備えて供養するもので600年の歴史を持つ。この祭りは千団講とも呼ばれ、さらに仏典との関係が深い栴檀の文字をあてて栴檀講と表記したことが混同の原因とされている。
 「せんだん」が名前に付く植物はセンダンのほかは、センダンと葉の形が似ていることから名がついたハマセンダン(ミカン科)とセンダングサ(キク科センダングサ属)があり、センダングサ属(Bidens)にはアメリカセンダングサなどの外来種がいくつかある。セリバノセンダングサ(キク科)はセンダングサの仲間ではなく、葉もセンダンに似ていないが、種の形がセンダングサ属とそっくりである。ちなみにセリバノセンダングサの学名はGlossocardia bidensであり、bidensは2本の歯という意味である。

補)平家物語の「栴檀は双葉より芳し」の由来は、仏典の観仏三昧教の「栴檀、伊蘭草(トウゴマ)中に生じ、まだ双葉にならぬうちは発香せず、ただ伊蘭の臭気のみあるも、栴檀の根芽漸々生長し、わずかに木にならんと欲し香気まさに盛んなり」からきたものである。原典の意味は少し違うようだ。・・・・満久崇麿著「仏典の植物」八坂書房1977より

<せんだんを名に持つ植物>
センダン、ハマセンダン、センダングサ(同属の外来種:コバノセンダングサ、アメリカセンダングサ、ホソバノセンダングサ、アワユキセンダングサ、シロバナセンダングサ、コセンダングサ)、セリバノセンダングサ

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センダン 2012.1.26 堺市

なるこ [な行]

 鳴子(なるこ)は、音を出して田んぼから鳥を追い払うための仕掛けで、神社に奉納する絵馬のような形の板の表面に、ひもで短い竹筒(あるいは棒状の板)を数本ぶら下げ、板と竹筒がぶつかると音が出るという仕組みのものである。お米が実る収穫期には、田んぼの周囲に張り巡らした縄に、いくつも鳴子をぶら下げ、日がな一日、縄の端を引いて雀を追い払う。かつての日本ではどこにでもあった光景なのであろう、鳴子は秋の季語であり、鳴子と稲田と雀がデザインされた模様は伝統的なもので帯や手ぬぐい、茶道具など様々なものに見ることができる。しかし、本物の鳴子は今や田んぼにはなく、わずかに観光施設の忍者屋敷でくせ者の侵入防止の仕掛けとして見られるぐらいである。
 植物では、ナルコユリ、ナルコスゲなどに鳴子の名が見られる。どちらも長い柄にぶら下がる花(花穂)をナルコの竹筒に見立てたものである。残念ながらゆらしても音はでない。
 「ちかづきの鳴子鳴らして通りけり(蕪村)」

<“なるこ”が付く植物>
ナルコユリ、ヒュウガナルコユリ、ホソバコナルコユリ、ミヤマナルコユリ、ヒメナルコユリ、オオナルコユリ、ナルコビエ、ナルコスゲ、アゼナルコ、イトナルコスゲ、アズマナルコ、タカネナルコ、ツクシナルコ、オニナルコスゲ

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ナルコユリ 2013.6.1 岩湧山

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