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じがばち [さ行]

「ジガバチソウの名の由来は花の形がジガバチに似ているから。それじゃあジガバチの名の由来はというと、この蜂が獲物を土の中に埋めるときの翅音(はおと)が『じがじが』と聞こえるからという。なるほど、さて漢字表記は『似我蜂』。え、なぜ『似我』?」
 ジガバチは狩バチであり、幼虫の食料となる獲物(青虫)を捕らえ、毒で麻痺させ、卵を産み付けて土中の巣穴(幼虫室)に埋める。そして土中で孵化し、獲物を食べつくした幼虫は蛹となり、羽化して土中から現れる。このような寄生バチの生態が解明される前の大昔、埋めた青虫が蜂になるのは、埋める際に「似我似我(我に似よ、我に似よ)」と呪文を唱えるからとされた。
 儒教の経典の一つである「詩経」には、『ジガバチが青虫を呪文により蜂にするように、我が子を教え諭し、親に似させなさい』という意の記述があり、孔子の教えにより弟子たちが師である孔子に似ていくことと解釈され、君主による統治には民衆の教化が大切であることの例えともなっていく。さらに仏教では、理屈は分からずとも一心にお経を唱えることによって仏に近づけるという例えとなり、「似我の功徳」という格言を生むに至る。
 植物の名前のはずが、昆虫の名前の覚書となってしまった。

参考文献:井上治彦(2017)ジガバチの系譜、伊丹市昆虫館研究報告、第5号、pp.13-18.

ジガバチソウ20220609観音峰山2.jpg
ジガバチソウ 2022.6.9 奈良県天川村観音峰山

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じょうろう [さ行]

 上臈(じょうろう)の臈は、僧侶の出家後の年数のことであり、上臈となれば修行を重ねた偉いお坊様のことをさすが、転じて身分の高い人を意味するようになる。大奥では、一番高位の御台所(将軍正室)付き奥女中の役職名が上臈御年寄である。徳川将軍は、3代家光以降、公家より正室を迎えており、上臈御年寄となるのは京都より御台所に随行してきた公家の娘であった。上臈杜鵑(ジョウロウホトトギス)、上臈蘭(ジョウロウラン)、上臈菅(ジョウロウスゲ)は、身分が高い雅な女性のイメージと結びついたものであろうか。1000人を超える大奥の女性の中に臈御御年寄はたったの3人、植物の上臈も皆、絶滅に瀕する少数派である。ちなみに植物で一番位が高いものと言えばイチイ(一位)の樹である。正か従かは定かでないが、いずれにしても太政大臣クラスである。皇帝ダリアの方が偉い? 外国人なので・・・。

<身分の高い植物の環境省RDBカテゴリ>
ジョウロウホトトギス(トサジョウロウホトトギス):Ⅱ、キイジョウロウホトトギス:Ⅱ、サガミジョウロウホトトギス:ⅠB、スルガジョウロウホトトギス:ⅠB、ジョウロウスゲ:Ⅱ、ジョウロウラン:ⅠA

キイジョウロウホトトギス20211010古座川町2.jpg
キイジョウロウホトトギス 2021.10.10 和歌山県古座川町
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ざくろ [さ行]

 ミソハギ科の落葉樹のザクロの原産地については、南ヨーロッパや北アフリカ、あるいは西南アジアなどの説があるが、いずれにしても日本には中国を経由して渡来したものであろう。中国名は安石榴あるいは石榴であり、和名は中国名の呉音での発音「ジャク・ル」が転訛したとされ、本草和名(900年代初頭)に、すでに安石榴の和名を「佐久呂」とする記述がある。したがって和名のザクロは音韻を伝えたもので言葉の意味はないのだが、実は中国名の石榴は、原産地の一つとされる西南アジアのトルコ、イラク、イランにまたがるザクロス(英語:Zagros、ペルシャ語:رشته كوه زاگرس)山脈の音訳であるとされる。ザクロスが何を意味するかについては残念ながら不明である。ざくろの名を持つ植物としては、葉の様子がザクロに似ているというザクロソウ科のザクロソウとクルマバザクロソウ。ハマザクロ科(APGミソハギ科)のハマザクロ(別名マヤプシギ)もザクロに似た印象がある。あと一つアカネ科にハリザクロというものがあるらしいのだが情報不足でわからない。

ザクロ20160610鶴見緑地2.jpg
ザクロ 2016.6.10 大阪市鶴見緑地(植栽)

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せつぶん [さ行]

 「日本は四季に恵まれて」などは、ずいぶんと大雑把な言い方で、春夏秋冬の四季は、それぞれ6分されて立春から始まり大寒で終わる二十四節気となり、節気はさらに初候、次候、末候に分けられて七十二候となる。候の名称は実に細やかに季節の移ろいをとらえたもので、立春の初候は「東風凍を解く(とうふうこおりをとく)」だ。これらの季節の区分はもちろん旧暦に基づくもので、旧暦にはさらに季節の節目となる節句や節分、彼岸、八十八夜、入梅、土用など、雑節と呼ばれるものがある。
 植物の生活は季節の移ろいそのものだから、七十二候や雑節には植物に因んだものがあり、逆に暦に因んだ植物名もある。なかでもセツブンソウやヒガンバナはピンポイントでその時期に花を咲かせる暦に正確な植物だ。なお、節分は立春、立夏、立秋、立冬の前日を指すがもちろん植物名は春のこと、彼岸も春と秋があるが植物名は秋のことである。
 二十四節気のひとつ夏至の末候は「半夏生ず(はんげしょうず)」である。半夏はカラスビシャクの別名で、カラスビシャクが生える頃という訳だが、ハンゲショウという植物は別にある。ハンゲショウは「半夏生ず」の頃に開花し、同時に葉の半分が白く色づく、半夏生であり半化粧でもある。

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セツブンソウ 2016.3.7 米原市大久保



せんだん [さ行]

 センダン科の落葉高木であるセンダンの漢字表記は、どの辞書をみても「栴檀」とある。そして諺の「栴檀は双葉より芳し」の栴檀はビャクダン科の常緑樹のビャクダン(白檀)であると解説がつく。実際にセンダンには香木にするほどの香りはなく、栴檀は日本でいう白檀の中国名であるそうだ。このような植物名の混同がなぜ生じたのであろうか。
 諺の起源は平家物語の巻第一殿下乗合に登場する同一の文にあり、世に広まり諺となっていくのは鎌倉時代以降のことである。一方センダンは古名を「アフチ」といい、それがセンダンと変わるのがいつかというと、江戸時代の「東雅」(新井白石、1717)に、アフチについて「俗にセンダンといふ是也」という記述がある。そしてこのセンダンについては千個の団子の「千団」とする説が有力である。センダンは秋に白い丸い実を着ける。冬になって葉を落とし実だけとなった姿は、老木となればまさに千個の団子がついているようである。「アフチ」が「千団」となり、「栴檀」と混同されるに至るには、滋賀県大津市にある三井寺の千団子祭りが関係していると言われる。三井寺は平安時代に創建された古刹であり、西国三十三所巡りの14番札所として、そして近江八景の三井晩鐘として有名なお寺である。千団子祭りは鬼子母神の千人の子供に千個の団子を備えて供養するもので600年の歴史を持つ。この祭りは千団講とも呼ばれ、さらに仏典との関係が深い栴檀の文字をあてて栴檀講と表記したことが混同の原因とされている。
 「せんだん」が名前に付く植物はセンダンのほかは、センダンと葉の形が似ていることから名がついたハマセンダン(ミカン科)とセンダングサ(キク科センダングサ属)があり、センダングサ属(Bidens)にはアメリカセンダングサなどの外来種がいくつかある。セリバノセンダングサ(キク科)はセンダングサの仲間ではなく、葉もセンダンに似ていないが、種の形がセンダングサ属とそっくりである。ちなみにセリバノセンダングサの学名はGlossocardia bidensであり、bidensは2本の歯という意味である。

補)平家物語の「栴檀は双葉より芳し」の由来は、仏典の観仏三昧教の「栴檀、伊蘭草(トウゴマ)中に生じ、まだ双葉にならぬうちは発香せず、ただ伊蘭の臭気のみあるも、栴檀の根芽漸々生長し、わずかに木にならんと欲し香気まさに盛んなり」からきたものである。原典の意味は少し違うようだ。・・・・満久崇麿著「仏典の植物」八坂書房1977より

<せんだんを名に持つ植物>
センダン、ハマセンダン、センダングサ(同属の外来種:コバノセンダングサ、アメリカセンダングサ、ホソバノセンダングサ、アワユキセンダングサ、シロバナセンダングサ、コセンダングサ)、セリバノセンダングサ

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センダン 2012.1.26 堺市

さる [さ行]

 猿(さる)は動物の中では各段に頭が良く、その仕草も人問的で、昔話やことわざに登上する頻度が高い。その割に植物名に「さる」が使われている例は少ないのだが、使われる理由がおもしろい。サルトリイバラは「猿獲り茨」であり、山に入って薮こぎをするとトゲだらけのツルが全身にまとわりついて、かなり手痛い思いをする。猿でもてこずりそうである。サルカケミカン(猿掛け蜜柑)も同じ様な意味合い。サルナシ(猿梨)はキウイフルーツの仲間で実はとてもおいしい。カラスやヘビなど他の動物名が付くものとは大違いである。ちなみにキウイフルーツの和名はオニサルナシ(鬼猿梨)。正確にはインドシナ原産のオニサルナシを原種として品種改良したものである。サルメンエビネ(猿面海老根)の赤褐色の花は猿の顔のようである。サルスベリ(猿滑り)はツルツルの幹肌から。ウスバサルノオ(薄葉猿尾、別名:ホザキサルノオ)は猿のしっぽのようなツルから。なおこの植物は熱帯アジア原産で沖縄にも生育するとされるが、自生種なのか帰化種なのかよくわかっていない。サルマメ(猿豆)は、マメの仲間ではなくサルトリイバラを小型にしたような植物、小さいという意味でマメサルトリイバラだろうか。
 ずばり猿ではないが、ヒメサルダヒコ(姫猿田彦)は古事記に登場する猿田彦命から。猿田彦命は天孫降臨の際に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を道案内した地上の神で、鼻が大きく天狗の原型ともいわれる。ヒメサルダヒコはコシロネ(別名:サルダヒコ)の茎が枝分かれするものに付けられた名前だが、現在はコシロネに統一されている。どこかに猿田彦命の大きな鼻のような部位があるのかと思うが発見できない。サルクラハンノキは八甲田山の猿倉で採取され新種登録されたものだが、現在はミヤマハンノキの葉の奇形とされている。最後にオクヤマサルコとテリハサルコ、オクヤマサルコはオクキツネヤナギの別名、テリハサルコはキツネヤナギの変種だが、サルコは猿子(子どもの着る綿入れ袖無羽織)だろうか、よくわからない。
(補)イタヤカエデの変種のエンコウカエデの猿猴は猿も猴もサルの意、深く切れ込んだ葉の形を猿の手に見立てたもの。キンリュウカの変種のエンコウソウも猿猴草で、茎が水平に広がる様子をテナガサルに例えたというが真偽は不明。

<猿にちなんだ名が付く植物>
サルナシ、サビサルナシ、シマサルナシ、サルカケミカン、ウスバサルノオ、サルスベリ、ヤクシマサルスベリ、シマサルスベリ、 サルマメ、サルトリイバラ。オオバサルトリイバラ、オキナワサルトリイバラ、トキワサルトリイバラ、ハマサルトリイバラ、サルメンエビネ、オクヤマサルコ、テリハサルコ、サルクラハンノキ、ヒメサルダヒコ

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サルトリイバラ 2010.4.11 各務原市自然遺産の森

せいばん [さ行]

 セイバンナスビとセイバンモロコシ、どちらも帰化植物なので、セイバンの方から来たという意味合いと思うが、このセイバンの指す場所は両者で異なる。ナスビの方は「生蕃」で、台湾の原住民のうち漢族化していないものを指す。なお、漢族化したものは熟蕃という。「蕃」には未開人の意味があり、漢民族が異民族に対して用いた蔑称のひとつである。ちなみに日本が台湾を領有した時代には、生蕃という称呼を高砂族と改めている。セイバンナスビの原産地は、かつては熱帯アジアとされたようだが、現在では熱帯アメリカあるいはブラジルとされている。日本へは台湾を経由して入ってきたと考えてもおかしくはない。一方、モロコシの方は「西蕃」で、これはチベット人を指して漢民族が用いた蔑称である。セイバンモロコシはヨーロッパ地中海沿岸地方を原産地とするが、シルクロードでやってきたとすれば、チベット経由と言えないわけでもない。

<せいばんが付く植物>
セイバンナスビ、セイバンモロコシ、ノギナシセイバンモロコシ

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セイバンモロコシ 2015.9.22 堺市


 [さ行]

 ここで扱う「じ」は文字の「字」。「字」が単独で植物名に用いられていることはなく「○○字」となる。植物のどこかの部位が「○○字」の形に似ている。まずは十文字、ジュウモンジシダは葉の形が十文字。ユキノシタの仲間の花は5枚の白い花びらのうち下側の2枚が大きいが、この2枚が細長いのがジンジソウ(人字草)、他の3枚も少し長くなったのがダイモンジソウ(大文字草)。ヒンジモは3枚の葉が、ヒンジガヤツリは3個の花穂の重なり具合が品の字に見える。デンジソウは、四葉のクローバーのような葉を田の字に見立てたもの。「ちょうじ」は「丁字」と「丁子」の両方の漢字があてられるが、そもそも「ちょうじ」は、フトモモ科のチョウジノキの蕾を乾燥させたスパイスであり、英名はクローブ。その形が釘に似ており、フランス語で釘を意味する Clou が語源となっている。漢名は丁子あるいは丁香と呼ばれ、丁もまた釘という意味を持っている。「ちょうじ」が名前に付く植物は、花あるいは実が釘の形に似ている。ということは「丁」の字の形にも似ていることになるが、日本語では丁字型を意味する場合は、「ていじ」と発音するのが普通のようなので、本来はスパイスの丁子に似ているからなのであろう。

<文字に似ている植物>
十文字:ジュウモンジシダ、タイワンジュウモンジシダ、ヒトツバジュウモンジシダ.人字:ジンジソウ、ツルジンジソウ.大文字:ダイモンジソウ、ウチワダイモンジソウ、ナメラダイモンジソウ、エチゼンダイモンジソウ、イズノシマダイモンジソウ.品字:ヒンジモ、ヒンジガヤツリ.田字:デンジソウ、ナンゴクデンジソウ.丁字?:チョウジギク、チョウジタデ、ウスゲチョウジタデ、チョウジザクラ、オクチョウジザクラ、チョウジマメザクラ、チョウジソウ、チョウジコメツツジ、オオチョウジガマズミ、チョウジガマズミ、セキヤノアキチョウジ、アキチョウジ、ヒロハアキチョウジ.

デンジソウ20120602浜寺公園(植栽).JPG
デンジソウ 2012.6.2 堺市浜寺公園(植栽)


せんのう [さ行]

 ナデシコ科センノウ(lychnis)属のフシグロセンノウ、エゾセンノウ、マツモトセンノウ(マツモト)、オグラセンノウ、エンビセンノウの「せんのう」の大本は、中国原産のセンノウ(lychnis senno Siebold et Zucc.)である。シーボルトにより日本からオランダに持ち帰られ、sennoという学名で『Flora Japonica』に収録されたこの花の日本への渡来時期は定かではないが、室町時代から文献にこの花が登場するようになる。「せんのう」は「仙翁」で、その名の由来は、『下学集』(1444年)に「仙翁花。嵯峨仙翁寺、始めて此の花を出だす、故に仙翁花と云う」との記述がある。仙翁寺は、『拾遺都名所図会』(1787年)に紹介される名所のひとつで、「愛宕一鳥居のまへ、仙翁町の北山下にあり、上古此地に仙人住しなり後世寺となす。仙翁洞は此山腹にあり、草花の仙翁華(せんをうけ)は此地よりはじめて生ずるといふ」とある。仙翁寺は廃寺となり現存しないが、京都は嵯峨鳥居本に仙翁町という地名が残る。

注)『下学集』:室町時代に成立した百科事典のようなもの。
『拾遺都名所図会』:名所図会は江戸期に出版された観光ガイドのようなもので、これは京都版の続編。


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フシグロセンノウ 2014.9.11 大和葛城山

さらさ [さ行]

 次のクイズに答えてほしい。「Q.更紗(さらさ)、ビロード(びろうど)、羅紗(らしゃ)、別珍(べっちん)、いずれも布地の名称であるが、この中で植物名に用いられていないのはどれか?」。
 更紗は、インド起源の木綿地の文様染めであり、サラサドウダンとその仲間4種類にその名が付けられている。確かにサラサドウダンの花には細かな模様があり美しい。ビロードは、滑らかな手触りのパイル織物で、ポルトガル語由来の外来語。英語ではベルベット。柔らかい毛に覆われた植物にはビロードの名が付けられており、ビロードテンツキなど23種類ほどあげられる。羅紗は毛織物のことで、毛がもじゃもじゃ生えている植物に付けられているようだ。ラシャキビのほか、帰化植物のラシャナスにその名がある。というわけでクイズの正解は別珍、別珍は綿ビロードのことなので、わざわざ綿と断わる必要もなく、ビロードで事足りたということだろう。布地に関わる用語としては、他にフランネルというのもあり、園芸植物のフランネルフラワーという白い毛で覆われた鉢花が人気を集めている。

<更紗を名に持つ植物>
サラサドウダン、ベニサラサドウダン、ウラジロサラサドウダン、カイナンサラサドウダン

サラサドウダン140530古牧温泉(植栽).jpg
サラサドウダン 2014.5.30 青森県古牧温泉(植栽)

しゃしゃ [さ行]

 ツツジ科スノキ属の常緑低木のシャシャンボの「しゃしゃ」。国語辞典で引いても「しゃしゃりでる」ぐらいしか、「しゃしゃ」の文字は出てこない。『牧野植物図鑑』を見ると、シャシャンボは「ささんぼ(小小ん坊)」の意味で、実が小さく丸いからとある。なるほど「ささ」であれば、ささぐり(小栗)、さざなみ(小波)、ささめゆき(細雪)など、小さいという意味での用例はたくさんある。しかし、植物名に、小さいという意味で「ささ」が用いられている例は見当たらない。植物標準和名に出てくる「ささ」はすべて「笹」を意味しているようだ。
 さて、小さな丸い実をつける木はシャシャンボに限らない。シャシャンボはブルーベリーの仲間で実が食べられるから、特に実にちなんだ名前がついたのだろうか。江戸後期の百科事典のような資料、『物品識名』(岡林 清達・水谷 豊文、1809)を見ると「シャシャンボ、別名ワクラ」で見出しはあるが説明は全くない。同じく植物図鑑のような資料、『草木図説木部』(飯沼慾斎、1865未出版)には、「ワクラ」の見出しで解説があり、その中に“葉シヤシヤキニ似テ小”との記述がある。この「シヤシヤキ」はツバキ科ヒサカキ属の常緑低木のヒサカキであり、ヒサカキは、シャシャンボに葉の形状のみならず、白い鐘状の花を付け、小さな黒い実がたくさんなるという点でも似ている。
 岐阜県植物方言辞典(金古弘之、2010)によれば、岐阜県西濃地方にシャシャンボをワクラ、岐阜市にヒサカキをシャシャキという方言があることが記録されており、飯沼慾斎は岐阜県大垣市の出身なので符合する。さらに、日本植物方言集成(八坂書房編、2001)によると「シャシャキ」は、静岡、愛知、兵庫赤穂・加古、山口厚狭、岡山、徳島美馬、香川、愛媛、高知土佐、福岡粕屋でヒサカキの方言となっている。また、シャシャンボにはササボ(三重)の方言がある。さらにシャシャンボ、ヒサカキ、アセビ(ツツジ科アセビ属)の方言として、シャシャビ、シャシャブ、シャシャボといったシャシャ**系の方言が多数ある。
 これらの3種は花・葉・実の形状が似かよっている。小さな実が食べられるササブがシャシャンボとなり、類似しているヒサカキやアセビにもシャシャが使われることになったのではないだろうか。

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ヒサカキ(シャシャキ) 2009.4.3 琵琶湖竹生島

しし [さ行]

  古い日本語の「しし」は「肉」を意味し、食用とする獣肉が、いのしし(猪のしし)、かのしし(鹿のしし)であり、転じて、野生動物そのものを差すようになる。一方、ライオンの存在が中国を経て、聖獣となって日本へ伝わり、獅子(唐獅子)となる。
  「しし」が名前に着く植物には、シシランの仲間、シシガシラの仲間、シシウドの仲間がある。シシランは、岩肌から垂れ下がり叢生する細い葉を、ライオンの鬣に見立てたもので「獅子蘭」の意。シシガシラも同様に斜面に垂れ下がる輪生葉を鬣に見立て「獅子頭」。
  シシウドはイノシシが食べるに相応しいごついウドの意味で「猪独活」。実際、猪がこの根を掘り返して食べるという。もちろん、鹿が食べないわけがないので、「鹿独活」でもいいのかもしれないが、鹿をカノシシという習慣はすでにないので賛同はえられないだろう。
  なお、ヤブコウジ科の低木にシシアクチがあるが、そのシシの意味は不明である。

<名前に「しし」が着く植物>
猪:オオシシウド、シシウド、ミヤマシシウド、ケナシミヤマシシウド、エゾノシシウド。
獅子:ヒメシシラン、ムニンシシラン、シシラン、オオバシシラン、ナカミシシラン、イトシシラン、アマモシシラン、ミヤマシシガシラ、アオジクミヤマシシガシラ、シシガシラ、ヒメシシガシラ。
不明:シシアクチ。

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シシガシラ 2008.5.1. 愛知県瀬戸市海上の森

そなれ [さ行]

  国語辞典を引けば、「そなれ」とは、「潮風のために、木の枝や幹が地面にはうように生えていること。」とある。漢字では「磯馴れ」と書き、そのような形態の樹木を「磯馴れ木」という。いわゆる風衝樹形というものだ。ところが環境庁リストにある「ソナレ○○」という植物は、すべて草本である。植物和名用語としては磯に適応したと解釈した方がよさそうだ。木本に別名だが、ずばり「そなれ」と呼ばれるものがある。それはハイビャクシンである。ハイビャクシンは確かに地面をはうように生育するが、これは潮風による風衝樹形ではなく、内陸に移植しても立ち上がることはない。
<「そなれ」が付く植物>
ソナレアマチャヅル、ソナレセンブリ、ソナレムグラ、シマソナレムグラ、オオソナレムグラ、ソナレノギク、ソナレシバ。

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ハイビャクシン(別名ソナレ) 2006.9.1 滋賀県草津市水生植物公園(植栽)


さいこ [さ行]

  およそ日本語らしからぬ響きがある「さいこ」は、ヒッチコック監督の映画「サイコ(Psycho)」と言いたいところだが、生薬の「柴胡」である。
  日本産の柴胡は、セリ科ミシマサイコ属のミシマサイコBupleurum scorzoneraefolium var. stenophyllumの根を乾燥したものである。江戸時代に伊豆の三島が良質な柴胡の大集荷地となったことから三島柴胡の名がついたという。中国産の唐柴胡は、マンシュウミシマサイコB. chinenseによるものが北柴胡、ホソバミシマサイコB. scorzoneraefolium によるものが南柴胡と呼ばれる。
  日本では、セリ科ミシマサイコ属にはミシマサイコ他11種のサイコという植物があるが、ミシマサイコが柴胡として最良という。ガガイモ科にはスズサイコがあるが、姿がミシマサイコに似ているためで薬効はない。バラ科のカワラサイコはミシマサイコに根が似ているためという。カワラサイコの乾燥根は下痢に効くようだが、柴胡としての薬効はない。しかし、柴胡の代用品あるいは偽物として出回ったのではないかと思う。

<サイコが付く植物>
セリ科ミシマサイコ属:オオホタルサイコ、ホタルサイコ、エゾホタルサイコ、オオハクサンサイコ、コガネサイコ、ハクサンサイコ、エゾサイコ、ミシマサイコ、キュウシュウサイコ、イキノサイコ、レブンサイコ、
ガガイモ科:スズサイコ
バラ科:カワラサイコ、ヒロハノカワラサイコ
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カワラサイコ 2008.6.9. 岐阜県各務原市



しょうま [さ行]

ショウマは升麻と書き、植物の根を乾燥させた生薬の名前である。この生薬となる植物がショウマで、何種類かある。Cimicifuga simplex(サラシナショウマ)からとれる升麻を黒升麻、同属のC. dahuricaのものは北升麻、C. heracleifoliaのものは関升麻と呼ぶそうである。
日本にはサラシナショウマが自生しているが、升麻にはならないショウマもたくさんあり、環境庁のリストには29種の記載がある。ショウマの大本はサラシナショウマで、似たものがショウマの名を付けて呼ばれるようになったと思われる。
サラシナショウマと同じキンポウゲ科には、ルイヨウショウマ、アカミノルイヨウショウマ、レンゲショウマ、オオバショウマ、キケンショウマ、イヌショウマの7種。
ユキノシタ科にはトリアシショウマのほか、ヤクシマショウマ、コヤクシマショウマ、アワモリショウマ、モミジバショウマ、シコクトリアシショウマ、ヒトツバショウマ、アカショウマ、ウスベニアカショウマ、バンダイショウマ、フジアカショウマ、ハチジョウショウマ、テリハアカショウマ、ツクシアカショウマ、ミカワショウマ、キレンゲショウマ、コダチキレンゲショウマの17種。
バラ科に、ヤマブキショウマほか、ミヤマヤマブキショウマ、シマヤマブキショウマ、アポイヤマブキショウマの4種。
そして、メギ科にトガクシショウマ1種。
基本的には花の形状がサラシナショウマに似ているが、レンゲショウマ、トガクシショウマの花はまったく異なり、葉の形状が似ているからということらしい。

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写真:サラシナショウマ 2010.8.21 滋賀県米原市伊吹山頂草原

しで [さ行]

「しで」とは、神社でお目にかかる白い紙、玉串やしめ縄から垂れ下がるギザギザの紙のことで、「四手」あるいは「紙垂」の漢字をあてる。
環境庁の植物リストには、・・・シデというものが6種(ネコシデ、クマシデ、オオクマシデ、アカシデ、イヌシデ、イワシデ)、シデ・・・というものが3種(シデコブシ、シデシャジン、シデガヤツリ)記載されている。また、ザイフリボクの別名をシデザクラという。
・・・シデの名を持つ植物は、いずれもカバノキ科の樹木で、垂れ下がる花の形を四手に見立てたといわれるが、あまり似てはいない。なお、「しで」は、もともと「しず(垂ず)」で、「垂らす」の意である。
一方、シデコブシ、シデシャジン、シデザクラ(ザイフリボク)の花は、花びらの感じが四手によく似ている。色や大きさからすればシデコブシが一番か。
注:環境庁植物リスト1988、日本産維管束植物8,120種が記載されている。

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写真:シデコブシ 2008.4.5. 愛知県瀬戸市海上の森

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