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 [あ行]

「とらのお」の項で虎の尾を持つ植物が41種を数えることを紹介しているが、ここでは他の動物の尾を整理しておきたい。虎に次いで多いのは雉で12種、以下、鼠5、鯖3ときて、猿と猫と兔が各1である。雉の尾を持つのはキジノオシダとツルキジノオシダの仲間である。その葉の形は確かに雉の尾羽の模様の部分を切り出した形に似ている。イネ科のネズミノオは、細長い花穂にびっしりと着く花(小穂)がまったく横に広がらず棒状なので、確かに鼠の尾に例えるのが妥当と思える。サバノオはその花からは全く想像できない魚の尾ヒレのような実を着ける。マグロでもカツオでもよさそうだが、なぜ鯖なのかは不明。猿については沖縄にウスバサルノオ(別名ホザキサルノオ)というツル性の常緑樹が自生している。あるいはしていたらしい。沖縄県レッドリストではDD(情報不足)となっている。この樹木は東南アジアに広く分布し、和名はツルの形から来たものと想像する。猫にはミズネコノオがあり、これは同属のミズトラノオに比べ小さいことから付けられたもののようだ。イネ科のウサギノオは地中海産の園芸植物で、その花穂はフワフワとしてかわいい。なお、イヨカズラを別名スズメノオゴケといい、同属にミウラスズメノオゴケ(別名ムラサキスズメノオゴケ)があるが、これは「雀の尾苔」ではなく「雀の麻小笥」である。麻小笥(おごけ)とは、麻糸をいれるための円筒形の入れ物だが、現代でいう桶/麻笥(おけ)のことで、その実を雀が使う小さな桶に見立てたようである。

<虎以外の尻尾がある植物>
雉の尾:タカサゴキジノオ、オオキジノオ、キジノオシダ、リュウキュウキジノオ、ハガクレキジノオ、ヒメキジノオ、ヤクシマキジノオ、フタツキジノオ、アイキジノオ、コスギダニキジノオ、オキナワキジノオ、ツルキジノオ.鼠の尾:フタシベネズミノオ、ネズミノオ、リュウキュウネズミノオ、ムラサキネズミノオ、ヒメネズミノオ.鯖の尾:サバノオ、サイコクサバノオ、トウゴクサバノオ.猿の尾:ウスバサルノオ.猫の尾:ミズネコノオ.兔の尾:ウサギノオ.

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サイゴクサバノオ 花2021.4.10 実2021.5.3 金剛山
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いちい [あ行]

 聖徳太子が両手に抱き胸にかざしているヘラ状のものを笏(しゃく)という。公家が礼装の際に用いる道具であり木や象牙で作られるが、歴代天皇が即位の際に用いる笏は古来イチイ(一位)という樹木からつくられ、令和の今日に至るまで岐阜県の飛騨一宮水無神社から献上されている。水無神社の奥宮がある位山(くらいやま)にはイチイの原生林があり、このイチイから作られる笏が良質であることから、その昔、天皇がこの樹に正一位の官位を与えたという言い伝えがあり、それが樹の名前となり、さらに山の名前となったという。それがいつのことかというと、水無神社に残る記録からは二条天皇の即位(平治元年、1159)まで遡ることができるが、階位を与えた天皇は仁徳とも天智ともいわれ定かではない。樹木に官位を与えることなどあるわけがないと否定するより、スケールの大きい言い伝えとして楽しむべきことかと思う。
 一位という名を持つ植物にもうひとつイチイガシがある。イチイと同様に笏の材料となったようだが、共通点は材が赤いということ。吉田(2001)は、イチイはイチヒ(甚緋)が転訛したもので、材が甚だしく赤いことを由来としている。イチイの代用品だからイチイガシなのか、材が赤いからなのか、どちらでもよしとしよう。

*吉田金彦、「語源辞典植物編」、東京堂出版、2001

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イチイガシ 2022.4.24 奈良公園
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おうれん [あ行]

 おうれん(黄連)は、中国最古の薬物書である神農本草経にも記載される由緒正しき生薬であり、黄連解毒湯といえば黄檗(おうばく)などの他の生薬と調合された血の道の薬である。基原植物はシナオウレンCoptis chinensisであるが、日本では自生するオウレン属8種のうちオウレン(キクバオウレン)C. japonicaと変種のセリバオウレンC. japonica ver. majorが基原植物として利用されている。神農本草経の成立は後漢の頃とされ、著者・編者は不明である。本書には薬となる365種の植物・動物・鉱物が記載され、黄連のみならず現在でも生薬として使用されているものが数多く含まれている。また、薬は上薬・中薬・下薬に分類されており、上薬は無毒で長期間服用でき健康を作る不老長寿の薬、中薬は病気を予防し体を強くする薬だが毒にもなるもの、下薬は病気を治すためのもので毒があるものとしている。現在の薬事法における副作用リスクに応じた薬品の第3類、2類、1類の分類に似通った考えが、2000年ほど前の中国に既にあったことは驚きである。
参考文献:森由雄、神農本草経解説、源草社、2011.

<オウレンを名に持つ植物>
オウレン(キクバオウレン)、セリバオウレン、コセリバオウレン(ホソバオウレン)、ウスギオウレン、バイカオウレン(ゴカヨウオウレン)、オオゴカヨウオウレン、ミツバノバイカオウレン(コシジオウレン)

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セリバオウレン 2022.3.5 河内長野市横谷

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うり [あ行]

 ウリ(瓜)といえば、マクワウリで、他にもハヤトウリ、キュウリ、ニガウリなど、ウリ科野菜の食用の実には瓜が付く。人が食べるには、ちょっとというウリ科の実ものに、カラスウリ、スズメウリがあり、誰も食べられそうにないトゲトゲの実はアレチウリである。ウリ科ではないが似た実をつけるのがウリクサで、ここまでは曲がりなりにもウリの(ような)実を着ける。さて問題はここからで、ウリノキは葉の形がウリに似ている。ウリカエデとウリハダカエデはともに樹皮にウリのような縞模様があるが、ウリに似た形の葉を着けるのはウリハダカエデの方なのでまぎらわしい。ウリカワは瓜皮の意で、その葉の様子はまるで瓜の皮を剥いて田んぼに捨てたように見える。最後はキュウリグサ、見た目どこにもキュウリを思わせるものはないのだが、葉を揉んで匂を嗅いでみるとその名の由来が分かる。
<食えない瓜たち>
ウリ科:カラスウリ、ケカラスウリ、キカラスウリ、ムニンカラスウリ、モミジカラスウリ、オオカラスウリ、リュウキュウカラスウリ、スズメウリ、クロミノスズメウリ、サンゴジュスズメウリ、ホコガタスズメウリ、サツマスズメウリ、オオスズメウリ、オキナワスズメウリ、アレチウリ(外来)、ミヤマニガウリ(外来).アゼナ科(旧ゴマノハグサ科):ウリクサ、シマウリクサ、シソバウリクサ、ケウリクサ、ツルウリクサ.ウリノキ科:ウリノキ、モミジウリノキ、ビロウドウリノキ、シマウリノキ.カエデ科:ウリカエデ、シマウリカエデ.オモダカ科:ウリカワ.ムラサキ科:キュウリグサ.

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ウリカワ 2009.8.23 大垣市
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あぜ [あ行]

「あぜ」といえば田んぼの畦(畔)と相場は決まっている。アゼオトギリ、アゼガヤ、アゼスゲ、アゼガヤツリ、アゼテンツキ、アゼトウガラシ、アゼトウナ、アゼナ、アゼナルコ、アゼムシロ(ミゾカクシの別名)など、26種ほどリストアップされた。いずれも水田地帯の雑草でアゼムシロなどはその名の通りカーペット状に畦を埋め尽くす。と思ったら1種だけ田んぼにはいないものが紛れ込んでいた。アゼトウナである。アゼトウナは海岸の切り立った岩の割れ目に根をはる草である。この「あぜ」はいったい何なのか。ネットで検索してみると海岸の崩れた崖を意味する古語の「あず」あるいは「あざ」が転じたものという。ところが古語辞典には出てこない。いろいろ探して万葉集をあたってみたら「あず」で2首(14巻3539、3541番)、「あざ」で1首(12巻3046番)発見できた。
まずは14巻3539番。「あずの上に駒を繋ぎて危ほかど 人妻子ろを息に我がする」
その大意は万葉集ナビ(https://manyoshu-japan.com/)によれば、“崖の上に馬をつなぎとめるのが危なっかしいように、人妻のあの子を心にかけるのは危なっかしい(でも心にかけずにはいられない)”
次は3541番。「あずへから駒の行ごのす危はとも 人妻子ろをまゆかせらふも」
その大意は“崖の辺りを馬が行くのは危なっかしい。そのように人妻のあの子に近づくのは危なっかしいが、それでも一度は逢ってみたいものだ。”
「あず」と不倫はどちらも危険というわけだ。「あず」には「崩崖」という漢字をあてるようである。
最後に3046番。「さざなみの波越すあざに降る小雨 間も置きて我が思はなくに」
万葉集ナビではこの歌の「あざ」を田の畔としているが、万葉歳時記 一日一葉(http://blog.livedoor.jp/rh1-manyo/)では“さざなみの寄せる波打ち際に降る小雨が間を置いて降ったり止んだりするような、そんないい加減な気持ちであなたを思ってはいませんよ。”と訳している。他には「あざ」を琵琶湖にある地名と解釈する例もあるようだ。いずれにしても崖ではないようだ。
ここではアゼトウナを「崩崖唐菜」としたい。

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アゼトウナ 2021.11.23 和歌山県和歌の浦(若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る 6巻919番 山部赤人)
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おがたま [あ行]

 オガタマノキの「オガタマ」は、神道の「招霊」(おぎたま)が転化したものだという。神社に神様が常駐しているわけではないので、お祓いや祈祷は神霊を招き降ろす招霊(おぎたま)の儀が必要となる。そのために、神前に米や酒、玉串をお供えする。玉串にはサカキあるいはヒサカキの小枝を用いるのが一般的だがオガタマノキを用いるところもあるという。玉串は、天岩戸の神話で、岩戸に隠れた天照大神の気を引くため、木の枝に玉や鏡を飾り付けたのが由来と語られ、天鈿女命がこれを手にして岩戸の前で舞ったという。この木、古事記ではササとされているが、宮崎県高千穂町の天岩戸神社に伝わる神話では招霊の木となっている。神楽舞で手に持つ鈴はオガタマノキに実がなる様子を真似たものという。さらに、一円硬貨にデザインされた若木はオガタマノキだという説が巷に流れているが、これは都市伝説の類であろうか。

<オガタマを名前に含む植物>
オガタマノキ、ホソバオガタマノキ、ヒロハオガタマノキ、タイワンオガタマ、オオバナオガタマノキ、カラタネオガタマ(外来種)

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オガタマノキ 2012. 3. 18 堺市草部

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えび [あ行]

 世界一海老(えび)好きといわれる日本人。当然植物名にも「えび」が付くわけである。まずはエビネ、その根の形が海老に似ている。次はエビモ、海老の棲むところに生えるともいうが、波打った葉の形が海老に似ている。そしてエビヅル。しかし、葉の裏の赤褐色の毛が海老の色に似ているからというのは間違いで、この「えび」は海老に由来するものではなく、逆に海老の由来となったものである。漢字をあてるなら「葡萄」で、「ぶどう」と書いて「えび」と読ませる。「え」は古語で赤を意味し、「び」は実のことである。
 ヤマブドウはその昔エビカヅラと呼ばれていた。またアオツヅラフジの別名はカミエビである。これらのエビは赤い実のことで、その色から海にいる赤いおいしい生き物がエビと呼ばれるようになった。だからエビ色(葡萄色)といえばワインレッドのことで海老色ではないのだが、混同されている。
 話しを戻して、海老の付く植物の続き。エビアマモは花序が海老のように三日月型に反っているからといい、エビガラシダは乾燥して巻き込んだ羽片の様子が海老の殻に似ていることからという。最後はエビガライチゴ、茎や葉柄、萼(がく)に赤紫色の毛が密生する。しかし海老は連想しがたい。その様相は毛ガニである。

※「えび」の付く植物
海老根の仲間:アマミエビネ、キリシマエビネ、タマザキエビネ、エビネ、タカネエビネ、ハノジエビネ、カツウダケエビネ、アサヒエビネ、オオキリシマエビネ、キバナキリシマエビネ、スズフリエビネ、オナガエビネ、ユウヅルエビネ、サクラジマエビネ、リュウキュウエビネ、ナツエビネ、オクシリエビネ、キソエビネ、キエビネ、トクノシマエビネ、サルメンエビネ/海老藻の仲間:エビモ、ササエビモ、ヒロハノエビモ、ナガバエビモ/葡萄蔓の仲間:ケナシエビヅル、シチトウエビヅル、エビヅル、キクバエビヅル/その他:エビアマモ、エビガラシダ、エビガライチゴ

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エビガライチゴ 2013.7.13 大阪府岩湧山

うつぼ [あ行]

  靫(うつぼ)は、矢を入れて持ち歩くための筒状の入れ物。シソ科ウツボグサの仲間とハマウツボ科ハマウツボの仲間に名がある。どちらの仲間もその花穂が太い円筒状で、靫の形に似ている。靫は空穂とも書く。穂は稲穂の穂、空は中がからのことなので、もともと植物の穂に似ているからつけた道具の名前が、植物に帰って来たことになる。魚のウツボも靫に似ているのが名前の由来の一説となっている。となると植物のウツボグサと、魚のウツボが似ていて当然なわけで、ウツボグサの名の由来は魚のウツボに似ているからと思い込んでいる人もいるに違いない。[シソ科:タテヤマウツボグサ、ウツボグサ、ミヤマウツボグサ。ハマウツボ科:シマウツボ、ハマウツボ、シロバナハマウツボ、オカウツボ、ヤセウツボ(帰化)、キヨスミウツボ。]

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ヤセウツボ 2013.5.2 神奈川県厚木市相模川

あお [あ行]

  アオモジ、アオギリ、そしてアオキ。これらの樹木の枝や幹の肌はいずれも緑色である。しかし、これらの名前には青が付く。未熟の若い緑色のリンゴが青りんごであるように、実際は緑色なのに青信号と呼ばれるように「青」なのである。なぜなのか、それは古代日本語には色を表す言葉が4つしかなかったからである。白、黒、赤、青の4色で、これらが基本色である。基本色4色は、白い、黒い、赤い、青い、というように「い」をつければ形容詞になる。他の色は、茶色い、黄色いなど、「色」をつけないと形容詞にはならない。白は明るい色、黒は暗い色、赤は鮮やかな色、そして青は、ぼんやりした色である。なんとも大雑把であるが、もともと植物の葉は緑色なので「青」というには、幹が緑など、それなりに訳があるようである。ところで、植物にはこの4色のいずれかが名前につくものがとても多い、青、赤、黒がそれぞれ100種程度、白は230種程度ある。白が圧倒的に多いが、うち約130種は「シロバナ・・・・」という植物である。花の色は種によって様々だが、どんな種でも色素欠乏の突然変異で白い花を付けるものが生じるという。白花とつけたくなるのはわかる気がする。さて、数ある植物の中で最も原始的な名前がこれら基本色に「木」を付けたもの、青木(アオキ)、白木(シラキ)、赤木(アカギ)、黒木(クロキ)ではないかと思う。4色いずれも存在する。

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アオキ(雄株) 2011.4.10 岐阜県各務原市

おに [あ行]

  鬼(おに)が付く日本の植物を拾い上げてみたら70種を数え、さらに帰化植物を10数種類加えることができた。このように多数の植物に名が付くからには、日本人にとって鬼は古くからなじみの深い存在だったのであろう。桃太郎の鬼退治の昔話から子供向けに残虐なシーンが消え、節分の豆まきの鬼はお面をかぶったお父さんとなってしまった現代では、鬼にペーソスすら感じてしまうが、鬼はもともと邪悪で恐ろしいもの、そして強いものの代名詞でもあった。
  植物の世界でも、その姿形が、荒々しいものが鬼とされているものが大多数である。たとえば、イネ科のウシノケグサには、同属にやや大型のオオウシノケグサがあるが、さらに大きくごつい感じがするのがオニウシノケグサである。また、オニノゲシの名の由来はノゲシよりもトゲが荒々しく痛いからである。実は、オニウシノケグサもオニノゲシも帰化植物であり、オニが付く帰化植物が増えつつあるようだ。在来の植物では、全身トゲに覆われたオニバスなぞが、鬼の名に相応しい。鬼の皮膚はこんなだろうかと思ってしまう。
  同じ鬼でも意味が異なるものに、ジンチョウゲ科の低木オニシバリがある、これは「鬼縛り」の意味であり、その丈夫な樹皮は鬼を縛ることも可能というわけだ。また、オニユリはその花を赤鬼の顔と見立ててついたものである。

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オニバス 2011.8.20 岐阜県海津市(植栽)


いぶき [あ行]

  山の名前を冠する植物は数多いが、どの山が一番かと言えば、それは伊吹山である。標高は1377m、滋賀県米原市の岐阜県との県境部に位置するその山は、北方系の植物、南方系の植物、日本海の要素、太平洋の要素の接点となり、山頂部の草原は草本植物の宝庫となっている。伊吹の名を冠する植物が多いのは種類の豊富さに加えて、伊吹山が古くから薬草採取の地として本草学者によって調査され、最初の発見地となってきたからである。
  イブキと名のつく植物は、環境庁のリストには27種が記載されており、うち伊吹山固有種とされるものは、コイブキアザミ、イブキコゴメグサ、イブキタンポポ、イブキレイジンソウの4種である。また、イブキカモジグサはヨーロッパ原産であるが日本には伊吹山にしか分布がなく、織田信長が宣教師に命じて薬草園を作らせた際に持ち込まれたものとされている。
  伊吹山に分布がない植物もある。イブキゼリは、江戸時代の本草学者の絵図に登場するが、その後明治の植物学者によってイブキゼリに対してつけられた学名が、別種の標本をタイプとしたものであったため、伊吹山には産しないこととなった。
  また針葉樹のイブキも伊吹山にはない。イブキとつくとすべてが伊吹山由来と語られるが、この針葉樹イブキの名は、伊吹山とは無関係の由来が前川文夫東大名誉教授により唱えられている。それを簡単にいうと、イブキはもともとはイブキカシワで、このイブキは「湯気」、カシワは「炊ぐ葉」で、弥生時代に蒸し器として使われた底に穴の開いた土器の穴の栓に使われたからという。

<名前にイブキが付く植物(環境庁リスト1988)>
イブキシダ、オオイブキシダ、イブキ、イブキトラノオ、イブキレイジンソウ(固有種)、イブキトリカブト、イブキハタザオ、イブキシモツケ、ホソバノイブキシモツケ、イブキフウロ、イブキタイゲキ、イブキスミレ、イブキセントウソウ、イブキボウフウ、ハマノイブキボウフウ、イブキゼリ、イブキジャコウソウ、イブキコゴメグサ(固有種)、イブキクガイソウ、コイブキアザミ(固有種)、イブキアザミ、イブキタンポポ(固有種)、イブキカモジグサ(欧州産)、イブキトボシガラ、イブキヌカボ、イブキソモソモ、イブキザサ

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イブキフウロ 2010.8.28 伊吹山


あぶら [あ行]

  「あぶら」は油のこと。名前に油が付く植物には、アブラチャンの仲間、コシアブラ、アブラツツジの仲間、アブラギク(シマカンギク)の仲間、アブラススキの仲間、アブラシバ、アブラガヤの仲間があり、その意味は4つに分けられる。
  まずは、油や塗料が採れるということ。栽培植物のアブラナはその代表であるが、アブラチャンの果実の油が灯火用に使われた。中国から持ち込まれたというアブラギリは、その実から塗料とする桐油を採った。また、コシアブラは、その樹脂を加工して(漉して)、金漆(ごんぜつ)という塗料を作った。
  次は、油を塗ったような光沢があるということ。アブラツツジはその葉の裏に、アブラシバは全体に、光沢がある。
  3つめは、油臭いということ。アブラススキとアブラガヤはその穂が油臭いから。
  最後に、アブラギクは、その花を漬けた油を、薬として用いたからである。

<名前に油が付く植物>
/ アブラチャン、ホソバアブラチャン、ケアブラチャン / コシアブラ / アブラツツジ、コアブラツツジ / アブラギク(シマカンギク)、シロバナアブラギク、イヨアブラギク、オキノアブラギク / アブラススキ、カショウアブラススキ、ヒメアブラススキ、リュウキュウヒメアブラススキ、ヤノネアブラススキ、ダンチアブラススキ、ミヤマアブラススキ、オオアブラススキ / アブラシバ / イワキアブラガヤ、ツルアブラガヤ、ツクシアブラガヤ、クロアブラガヤ、オオアブラガヤ、アブラガヤ、ヒゲアブラガヤ、チュウゴクアブラガヤ / 、

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アブラツツジ 2010.5.4 愛知県犬山市継尾山



えんごさく [あ行]

  生薬の延胡索(えんごさく)は、チョウセンエンゴサクCorydalis turtschaninovii f. yanhusuo(ケシ科)の塊茎を茹でて日に当てて乾燥させた生薬である。日本には「えんごさく」という植物がケシ科Corydalis(キケマン)属に7種ある(エゾエンゴサク、ミチノクエンゴサク、ジロボウエンゴサク、シロバナジロボウエンゴサク、ヤマエンゴサク、ヒメエンゴサク、キンキエンゴサク)。
  エンゴサクの仲間は、いずれも似かよった姿形をしている。ところが、Corydalis(キケマン)属には「けまん」という植物もたくさんあり、一見して「えんごさく」と「けまん」は区別がつかない。両者の違いは何か、それは地下に塊茎を作るか否かによって呼び分けられている。
  関東以西で普通に見られるエンゴサクの仲間に、ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)がある。エンゴサクの花は、花の後ろに距(きょ)と呼ばれる部分が長く突き出ている。スミレの仲間もこの距が長く、スミレとエンゴサクで距をひっかけて引っ張り合う遊びがある。その時、スミレを太郎坊、エンゴサクを次郎坊といったことが、その名の由来として、多くの図鑑で紹介されている。その太郎坊、次郎坊が何なのかは言及されていないが、長い距を天狗の鼻と見て、スミレを京都愛宕山の太郎坊天狗に、エンゴサクを比良山の次郎坊天狗にして競い合ったのだろう。

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ジロボウエンゴサク 2009.4.2 愛知県春日井市内々神社



いばら [あ行]

 「茨」、「棘」、あるいは「荊」の漢字をあて、トゲのある低木類・ツル性木本類の総称とされる。トゲが痛いので「いばらの道」といえば苦難に満ちた人生となる。
  代表的なものはバラ科バラ属のいわゆる薔薇の仲間で、ノイバラの他以下の15種類がある。オオタカネイバラ、カラフトイバラ、フジイバラ、モリイバラ、ナニワイバラ、アズマイバラ、ノイバラ、ツクシイバラ、タカネイバラ、ニオイイバラ、ミヤコイバラ、ヤマイバラ、テリハノイバラ、トゲナシテリハノイバラ、リュウキュウテリハノイバラ。
 薔薇以外には、マメ科のジャケツイバラ、ユリ科のサルトリイバラの仲間がある(他には、オオバサルトリイバラ、オキナワサルトリイバラ、トキワサルトリイバラ、ハマサルトリイバラ)。
  なお、イバラモ科のイバラモ、ヒメイバラモ、イトイバラモは、水草であり、葉の鋸歯がトゲ状であるために付けられたもので、痛くはない。
  イエスが受難の際に頭に被らされた「いばらの冠」には、さぞかし痛いものが使われたと思うが、その植物が何かについては諸説ある。有力なものに、クロウメモドキ科のトゲハマナツメ(キリストイバラ)Zizyphus spina-christi や同科のPaliurus spina-christi がある。
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ジャケツイバラ 2008.5.15 愛知県犬山市

いぬ [あ行]

「いぬ」は犬のことで、イヌのつく名前を持つ植物は数多い。環境庁のリストには別名にイヌのつくもの12種を加え全部で231種の記載がある。
植物名でのイヌの使い方には2つの種類があり、ひとつはイヌノフグリ、イヌノヒゲ、イヌノハナヒゲなど、植物の部位の形状が、それぞれ犬の睾丸、髭に似ていると思われるものである。この使い方の植物は上記3種の仲間しかなく、全部で32種類である。
もうひとつは、イヌタデ、イヌムギ、イヌザンショウ、イヌハッカなど、他の植物名の前にイヌがつけられるもので、その植物に似ているという意味、さらには似ているが使えない、役に立たないという意味で使われている。山渓名前図鑑「野草の名前」の著者の高橋勝雄氏は、犬のように役に立つ動物をこのように使うのはおかしいとして、イヌは「否」が転じたものとしているが、日本では昔から「犬畜生」という言葉もあれば、「さとう、さいとう、犬の糞」という言い回しもあり、ありふれたものという意味ならやはり犬なのだと思う。
写真はイヌタデである。タデの仲間のなかでは一番ありふれたものだと思う。花はおままごとの赤飯にぴったりでアカマンマの別名もあるが、刺身のつまにはならない、つまの芽タデはマタデあるいはホンタデとも呼ばれるヤナギタデの芽で辛味がある。イヌタデは辛くはない
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写真:イヌタデ 2010.10.17 愛知県扶桑町

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