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あぜ [あ行]

「あぜ」といえば田んぼの畦(畔)と相場は決まっている。アゼオトギリ、アゼガヤ、アゼスゲ、アゼガヤツリ、アゼテンツキ、アゼトウガラシ、アゼトウナ、アゼナ、アゼナルコ、アゼムシロ(ミゾカクシの別名)など、26種ほどリストアップされた。いずれも水田地帯の雑草でアゼムシロなどはその名の通りカーペット状に畦を埋め尽くす。と思ったら1種だけ田んぼにはいないものが紛れ込んでいた。アゼトウナである。アゼトウナは海岸の切り立った岩の割れ目に根をはる草である。この「あぜ」はいったい何なのか。ネットで検索してみると海岸の崩れた崖を意味する古語の「あず」あるいは「あざ」が転じたものという。ところが古語辞典には出てこない。いろいろ探して万葉集をあたってみたら「あず」で2首(14巻3539、3541番)、「あざ」で1首(12巻3046番)発見できた。
まずは14巻3539番。「あずの上に駒を繋ぎて危ほかど 人妻子ろを息に我がする」
その大意は万葉集ナビ(https://manyoshu-japan.com/)によれば、“崖の上に馬をつなぎとめるのが危なっかしいように、人妻のあの子を心にかけるのは危なっかしい(でも心にかけずにはいられない)”
次は3541番。「あずへから駒の行ごのす危はとも 人妻子ろをまゆかせらふも」
その大意は“崖の辺りを馬が行くのは危なっかしい。そのように人妻のあの子に近づくのは危なっかしいが、それでも一度は逢ってみたいものだ。”
「あず」と不倫はどちらも危険というわけだ。「あず」には「崩崖」という漢字をあてるようである。
最後に3046番。「さざなみの波越すあざに降る小雨 間も置きて我が思はなくに」
万葉集ナビではこの歌の「あざ」を田の畔としているが、万葉歳時記 一日一葉(http://blog.livedoor.jp/rh1-manyo/)では“さざなみの寄せる波打ち際に降る小雨が間を置いて降ったり止んだりするような、そんないい加減な気持ちであなたを思ってはいませんよ。”と訳している。他には「あざ」を琵琶湖にある地名と解釈する例もあるようだ。いずれにしても崖ではないようだ。
ここではアゼトウナを「崩崖唐菜」としたい。

アゼトウナ20211123和歌浦.jpg
アゼトウナ 2021.11.23 和歌山県和歌の浦(若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る 6巻919番 山部赤人)
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