SSブログ

ぼろじの [は行]

  「ぼろじの」という言葉が使われる植物は、ボロジノニシキソウただ1種であり、この植物は、日本では沖縄県の大東諸島だけに生育する。「ぼろじの」は、その昔、ロシア人が付けたこの島の名前であるボロジノ諸島からきたものである。ボロジノ諸島の英語表記はBorodino Islandsとなるが、もともとはロシア語である。19世紀前半にこの島を発見したロシア海軍の佐官であったポナフィディンの指揮する艦船ボロジノ号にちなんで命名された。さらに、なぜボロジノ号かといえば、1812年のナポレオンが指揮するフランス軍とこれを迎え撃つロシア軍との激戦地、モスクワ西方のボロジノ(Бородино)に因んで艦船に名前が付けられたものである。
  なお、ボロジノニシキソウと「襤褸(ぼろ)を纏(まと)えど心は錦」とは、何の関係もない。

ボロジノニシキソウ990702南大東島.JPG
ボロジノニシキソウ 1999. 7.2 沖縄県南大東島

補)命名者は南西諸島の植物学や民俗学に功績を残した田代安定である。田代は1889(明治22)年植物学雑誌第29号に掲載された「海南諸島(新検出)植物雑説」において『ぼろぢのにしきさう』を報告し、命名の理由を最初の発見者がロシア人なのでロシアの地名を付けたと記述している。ロシア海軍の練習船の乗組員が採取した標本がサンクトペテルブルグの帝立植物園内の博物館にあり、田代は自分の標本と同種であることを確認している。
追)近年にいたり、ロシア文化・文学の研究者である木村崇は、ボロジノ諸島発見後の史実の考証過程において、田代安定が見たであろうボロジノニシキソウの標本の存在を確認し、その写真を自著の論文「境界なき空間 : 時代的事象としてのボロジノ」(境界研究, 2, 1-29、2011)に掲載している。

やぶ [や行]

  もし、半袖シャツで藪の中に入ったら、込み入った枝やツルで腕が傷だらけになり、おまけに薮蚊に刺され悲惨なことになる。ヘビが出てきたり、棒が出てきたり。藪医者にかかったらこんな不幸なことはない。マイナーなイメージの付きまとう藪だが、ヤブが付く植物は80種を数える。多くは藪に生えるという意味に解釈できるが、いくつか腑に落ちないものがある。
  まずはヤブツバキ。ヤブツバキは日本の照葉樹林を代表する中高木である。花も綺麗であり、ヤブツバキから多くの園芸品種が作り出され、庭に植えられているものは、ほとんどが園芸品種のツバキといっていい。それらの園芸品種に対して、野生のものというのが「やぶ」の意味であり、里桜に対する山桜の「やま」と同じ解釈ができる。同様にヤブニッケイは、中国から渡来し香料にっきの材料として栽培されたニッケイに対し、日本の森に自生したものと解釈できるが(なお、後にニッケイは沖縄などに自生が発見される。)、加えて有用性の高い栽培種に対して、劣っているという意味合いも感じ取られる。ヤブムラサキとなれば、庭木として愛用されるムラサキシキブやコムラサキシキブに比較して、毛深く、実の色が映えず、野暮ったい、というような、藪という言葉の持つマイナーなイメージと結びつき、ヤブが付く植物全体がなんとなくさえないような気がしてくる。ただし、ヤブガラシは、藪を覆いつくして枯らすという意のつる植物であり、他の植物のヤブとは一線を画す。
  なお、藪医者のヤブは本来「野巫」であり、田舎に住んで、占いやまじない、悪霊祓いなどを職業とする者のことであるそうだ。

<ヤブが付く植物>
イズヤブソテツ、メヤブソテツ、オニヤブソテツ、ヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツ、ホソバヤブソテツ、ヒロハヤブソテツ、ツクシヤブソテツ、クマヤブソテツ、ハマヤブマオ、カタバヤブマオ、シマナガバヤブマオ、ササグリヤブマオ、ケナガヤブマオ、ニオウヤブマオ、トガリバヤブマオ、ヤブマオ、ツクシヤブマオ、コヤブマオ、ゲンカイヤブマオ、メヤブマオ、タンナヤブマオ、ナガバヤブマオ、ヤブマオモドキ、マルバヤブニッケイ、ヒロハヤブニッケイ、ヤブニッケイ、マルバヤブニッケイ、シバヤブニッケイ、ヤブツバキ、ナガバヤブツバキ、シロヤブツバキ、コバナヤブツバキ、シロヤブケマン、ヤブサンザシ、ヤブヘビイチゴ、ヤブザクラ、リュウキュウヤブイチゴ、ヤブマメ、トキワヤブハギ、ケヤブハギ、ヤブハギ、ヤブツルアズキ、オオヤブツルアズキ、ヤブガラシ、ヒイラギヤブガラシ、アカミノヤブガラシ、オナガヤブニンジン、ヤブニンジン、ヤブジラミ、オヤブジラミ、ヤブコウジ、ホソバヤブコウジ、ヤブムグラ、ヤブムラサキ、オキナワヤブムラサキ、ヤブヒョウタンボク、ケナシヤブデマリ、コヤブデマリ、ヤブデマリ、ヤブウツギ、シロバナヤブウツギ、ツクシヤブウツギ、ヤブヨモギ、ヤブタバコ、コヤブタバコ、ミヤマヤブタバコ、ヤブタビラコ、オニヤブタビラコ、ヤブカンゾウ、ヒメヤブラン、ヤブラン、シロバナヤブラン、コヤブラン、ヤブミョウガ、コヤブミョウガ、ヤブザサ、ヤブスゲ、ヤブミョウガラン

ヤブツバキ110410各務原.jpg
ヤブツバキ 2011.4.10 岐阜県各務原市自然遺産の森

そなれ [さ行]

  国語辞典を引けば、「そなれ」とは、「潮風のために、木の枝や幹が地面にはうように生えていること。」とある。漢字では「磯馴れ」と書き、そのような形態の樹木を「磯馴れ木」という。いわゆる風衝樹形というものだ。ところが環境庁リストにある「ソナレ○○」という植物は、すべて草本である。植物和名用語としては磯に適応したと解釈した方がよさそうだ。木本に別名だが、ずばり「そなれ」と呼ばれるものがある。それはハイビャクシンである。ハイビャクシンは確かに地面をはうように生育するが、これは潮風による風衝樹形ではなく、内陸に移植しても立ち上がることはない。
<「そなれ」が付く植物>
ソナレアマチャヅル、ソナレセンブリ、ソナレムグラ、シマソナレムグラ、オオソナレムグラ、ソナレノギク、ソナレシバ。

ハイビャクシン060901草津s市水生植物公園.jpg
ハイビャクシン(別名ソナレ) 2006.9.1 滋賀県草津市水生植物公園(植栽)


あぶら [あ行]

  「あぶら」は油のこと。名前に油が付く植物には、アブラチャンの仲間、コシアブラ、アブラツツジの仲間、アブラギク(シマカンギク)の仲間、アブラススキの仲間、アブラシバ、アブラガヤの仲間があり、その意味は4つに分けられる。
  まずは、油や塗料が採れるということ。栽培植物のアブラナはその代表であるが、アブラチャンの果実の油が灯火用に使われた。中国から持ち込まれたというアブラギリは、その実から塗料とする桐油を採った。また、コシアブラは、その樹脂を加工して(漉して)、金漆(ごんぜつ)という塗料を作った。
  次は、油を塗ったような光沢があるということ。アブラツツジはその葉の裏に、アブラシバは全体に、光沢がある。
  3つめは、油臭いということ。アブラススキとアブラガヤはその穂が油臭いから。
  最後に、アブラギクは、その花を漬けた油を、薬として用いたからである。

<名前に油が付く植物>
/ アブラチャン、ホソバアブラチャン、ケアブラチャン / コシアブラ / アブラツツジ、コアブラツツジ / アブラギク(シマカンギク)、シロバナアブラギク、イヨアブラギク、オキノアブラギク / アブラススキ、カショウアブラススキ、ヒメアブラススキ、リュウキュウヒメアブラススキ、ヤノネアブラススキ、ダンチアブラススキ、ミヤマアブラススキ、オオアブラススキ / アブラシバ / イワキアブラガヤ、ツルアブラガヤ、ツクシアブラガヤ、クロアブラガヤ、オオアブラガヤ、アブラガヤ、ヒゲアブラガヤ、チュウゴクアブラガヤ / 、

アブラツツジ100504継尾山.JPG
アブラツツジ 2010.5.4 愛知県犬山市継尾山



にんじん [な行]

  ニンジンといえば今では野菜の人参(セリ科)のことであり、生薬の人参は朝鮮人参あるいは高麗人参と呼ぶのが普通と思うが、もともと人参といえば生薬の方である。生薬人参は、ウコギ科の多年草Panax ginseng(和名:オタネニンジン)の根であり、その形が人体に似ているのが名の由来という。オタネニンジンは御種人参と書き、徳川吉宗の頃、幕府が国産人参の栽培を奨励し、人参の種子を各藩に分け与えたことによる。
  一方、野菜の人参は1600年代に日本に渡来したとされ、生薬の人参と区別するため芹人参と呼ばれた。今では単に人参といえば野菜と立場が逆転した。
  「○○ニンジン」という植物は数多い。根あるいは花・葉が人参に似ているために着けられた名前と思うが、はてさて、生薬の人参に似ているのか、野菜の人参に似ているのかわからない。なお、オタネニンジンと同じウコギ科のトチバニンジンは、日本薬局方に記載される生薬竹節人参(チクセツニンジン)の基原植物である。

<にんじんを名乗る植物>
アブラナ科:ジャニンジン、エゾノジャニンジン。アマ科:マツバニンジン、キバナノマツバニンジン(帰化)、ウコギ科:トチバニンジン。セリ科:イワニンジン、ウバタケニンジン、オオウバタケニンジン、カラフトニンジン、オナガヤブニンジン、ヤブニンジン、ミヤマニンジン、シムラニンジン、ムカゴニンジン、シラネニンジン。キキョウ科:マルバノニンジン、ツリガネニンジン、ハイツリガネニンジン、ツルニンジン、ミドリツルニンジン、シブカワニンジン。キク科:クソニンジン、カワラニンジン。

ツリガネニンジン20100821_伊.jpg
ツリガネニンジン 2010.8.21 伊吹山


ぼうふう [は行]

  防風(ぼうふう)は中国に自生するセリ科の多年草Saposhnikovia divaricata(和名:ボウフウ)の根を乾燥させた生薬である。発汗・解熱作用があり、漢字表記の「防風」は風邪薬として用いられたからという。日本には、○○ボウフウという植物はセリ科に12種あり、ボウフウに姿形がおおむね似ているが、ボウフウの代用にはならない。その中でハマボウフウは例外で、姿形は似ていなくて薬効がある。その薬用成分はボウフウとは異なるが、発汗・解熱作用があり、ボウフウの代用として用いられたようだ。現在では「ハマボウフウ」という名称で日本薬局方に記載されるれっきとした生薬である。
  ボウフウが茎を立てて花・葉を着けるのに対し、ハマボウフウは地面に這いつくばるように花・葉を着ける。ハマボウフウは砂浜の植物であり、波うち際に近い砂丘上に生育する姿は、まるで海風から砂浜を守っているようにも見える。言い得て妙である

<防風の名を持つ植物>
エゾボウフウ、イシヅチボウフウ、トサボウフウ、ハマボウフウ、ボタンボウフウ、ハクサンボウフウ、エゾノハクサンボウフウ、カワラボウフウ、ツクシボウフウ、イブキボウフウ、ハマノイブキボウフウ

ハマボウフウ20100606蒲池海.jpg
ハマボウフウ 2010.6.6 愛知県常滑市蒲池海岸

ときわ [た行]

  常磐、常盤、あるいは常葉の漢字があてられ、常緑であることを表す。常葉(とこは)は字面の通りだが、常磐(とこいわ)は岩のように不変の意であり、転じて年中葉が碧い松や杉を常磐木(ときわぎ)と呼ぶ。常盤が使われるのは音が同じという意味以上のものがあるのかよくわからない。書き間違いなのかも知れない。
  同じく常緑という意味をもつ植物和名の用語としては「かん(寒)」があるが、寒の場合は、常緑という意味の他に、寒い時期に花や実があるという意味でも使われている。
  環境庁の植物リストには、トキワが付く植物が14種記載されている。また、ムベの別名をトキワアケビということはよく知られている。落葉のアケビに対して、常緑であるからトキワアケビというわけである。また、アケビは実が熟すと開くので「開け実」から、ムベは熟しても開かないので「開かん実」からという。しかし、冬に実がなるムベに対し、秋に実のなるアケビは「秋ムベ」から来たという説もあり、こうなるとアケビが先かムベが先かわからなくなってしまう。

<トキワを名に持つ植物>
トキワトラノオ、トキワシダ、トキワイヌビワ、トキワイカリソウ、トキワマンサク、トキワヤブハギ、トキワカワゴケソウ、トキワバイカツツジ、トキワガキ、トキワカモメヅル、トキワハゼ、シロバナトキワハゼ、トキワサルトリイバラ、トキワススキ

ムベ100510海上.JPG
ムベ(トキワアケビ) 2010.5.10 愛知県瀬戸市海上の森

なよ [な行]

  「なよ」は、「なよやか」、「なよよか」、「なよらか」の「なよ」。よく言えば「しなやかなようす」を表し、弱竹(なよたけ)は細くしなやかな若い竹のこと。悪く言えば「よわよわしいようす」で、「なよなよ」とくればなお悪い。なよなよした男といえば、ほめている場合はあまりないだろう。
  環境庁の植物目録(1988)には、「なよ・・・」という植物は4種記載されているが、一つはよっぽど弱々しいのか、「なよ」が二つ付くナヨナヨコゴメグサである。他はナヨシダ、ナヨテンマ、ナヨクサフジ。帰化植物のナヨクサフジを除けば、高山や岩場が生育地であったり、腐生植物であったりと、身近に見られるものではない。
  ナヨクサフジは、ヘアリーベッチと呼ばれるマメ科の1~2年草で、雑草抑制と緑肥の目的で畑に導入されている。クサフジに比べれば「なよ」なのかもしれないが、畑から逃げ出して道路の植樹帯に生えている姿には、弱々しいようすは微塵もない。

ナヨクサフジ20100509扶桑.JPG
ナヨクサフジ 2010.5.9 愛知県扶桑町

えんごさく [あ行]

  生薬の延胡索(えんごさく)は、チョウセンエンゴサクCorydalis turtschaninovii f. yanhusuo(ケシ科)の塊茎を茹でて日に当てて乾燥させた生薬である。日本には「えんごさく」という植物がケシ科Corydalis(キケマン)属に7種ある(エゾエンゴサク、ミチノクエンゴサク、ジロボウエンゴサク、シロバナジロボウエンゴサク、ヤマエンゴサク、ヒメエンゴサク、キンキエンゴサク)。
  エンゴサクの仲間は、いずれも似かよった姿形をしている。ところが、Corydalis(キケマン)属には「けまん」という植物もたくさんあり、一見して「えんごさく」と「けまん」は区別がつかない。両者の違いは何か、それは地下に塊茎を作るか否かによって呼び分けられている。
  関東以西で普通に見られるエンゴサクの仲間に、ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)がある。エンゴサクの花は、花の後ろに距(きょ)と呼ばれる部分が長く突き出ている。スミレの仲間もこの距が長く、スミレとエンゴサクで距をひっかけて引っ張り合う遊びがある。その時、スミレを太郎坊、エンゴサクを次郎坊といったことが、その名の由来として、多くの図鑑で紹介されている。その太郎坊、次郎坊が何なのかは言及されていないが、長い距を天狗の鼻と見て、スミレを京都愛宕山の太郎坊天狗に、エンゴサクを比良山の次郎坊天狗にして競い合ったのだろう。

ジロボウエンゴサク090402うつつ神社.JPG
ジロボウエンゴサク 2009.4.2 愛知県春日井市内々神社



かわら [か行]

  多かれ少なかれ、植物はその生育する環境を指標していると考えてよい。言い換えれば、特定の植物は特定の環境と結びついている。そのわかりやすい例がこの「かわら(河原)」である。丸い石がゴロゴロとし、しばしば水をかぶるような石の河原に「カワラ・・・」という植物がいる。そこは増水のたびに土砂が堆積し、次第にいろんな植物が住めるようになるのだが、大きな洪水でまた石の河原に戻ってしまう。そんなダイナミック環境で生きているのが、「カワラ・・・」という植物たちである。一例をあげるならカワラナデシコ。ナデシコの仲間に関しては、このカワラナデシコが代表格で、単にナデシコ、あるいはヤマトナデシコといえばこの河原の住人を指す。このナデシコの仲間、海へ行けばハマナデシコ(フジナデシコ)、山へ行けばミヤマナデシコ(シナノナデシコ)、さらに高みに登ればタカネナデシコと、姿を変え、名を変え生きている。

<カワラを名に持つ植物>
ミヤマカワラハンノキ、カワラハンノキ、ケカワラハンノキ、エゾカワラナデシコ、ヒロハノカワラナデシコ、カワラナデシコ、カワラアカザ、カワラサイコ、ヒロハノカワラサイコ、タイワンカワラケツメイ、カワラケツメイ、カワラボウフウ、キバナカワラマツバ、カワラマツバ、エゾノカワラマツバ、チヨウセンカワラマツバ、カワラハハコ、カワラニンジン、カワラヨモギ、カワラノギク、ツルカワラニガナ、カワラニガナ、カワラスゲ、カワラスガナ
カワラナデシコ20100821_伊吹.jpg
カワラナデシコ 2010.8.21 伊吹山



この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。