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むにん [ま行]

 漢字では「無人」で、江戸時代の無人島、現在の小笠原の島々を指している。環境庁のリストには35種が記載され、いずれも小笠原に産する植物であり、そのほとんどが小笠原固有種である。発見当時、小笠原特産と考えられ種名にムニンを冠したが、その後広域に分布したことが判明した種もある。また、この35種以外に、新たに小笠原特産種としてムニンの名を持つに至った種もある。
 小笠原群島を英語ではBonin Islands(ボニン・アイランズ)というが、「ボニン」は江戸時代の小笠原群島の呼び名「無人島(ぶにんじま)」に由来する。ムニンの名を持つ植物の多くがラテンの種小名にboninを有している。

<ムニンを和名に持つ植物>
ムニンホラゴケ、ムニンエダウチホングウシダ、ムニンシシラン、ムニンシダ、ムニンヘツカシダ、ムニンベニシダ、ムニンヒメワラビ、ムニンミドリシダ、ムニンサジラン、ムニンクリハラン、ムニンビャクダン、ムニンセンニンソウ、ムニンヒサカキ、ムニンキケマン、ムニンタイトゴメ、ムニンモダマ、ムニンモチ、ムニンイヌツゲ、ムニンカラスウリ、ムニンノボタン、ムニンヤツデ、ムニンハマウド、ムニンシャシャンポ、ムニンノキ、ムニンクロキ、ムニンネズミモチ、ムニンテイカカズラ、ムニンハナガサノキ、ムニンホオズキ、ムニンハダカホオズキ、ムニンナキリスゲ、ムニンテンツキ、ムニンシュスラン、ムニンボウラン、ムニンキヌラン

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ムニンヒサカキ 2012.3.25 東京都文京区小石川植物園(栽培)

もち [ま行]

 “もち”といえば、お米でつくったお餅を思い浮かべるが、植物の名前についた“もち”で、餅といえるのはユキモチソウ(雪餅草)だけのようである。
 モチノキの“もち”は「とりもち(鳥黐)」の意味であり、モチノキの樹皮から鳥黐をつくったことによる。モチノキの他にもツチトリモチは鳥黐の材料となるのでその名がある。これら以外に“もち”がつく植物はモチノキに形状が似ていることに由来するものが多く、バラ科のカナメモチの仲間やホルトノキ科のコバンモチの仲間、モクセイ科のネズミモチの仲間がある。モチツツジは、新芽・蕚などに腺毛が多く鳥黐のようにねばつくことによる。
 上記以外の“もち”は“~もち”という形で使われる「持ち」である。コモチシダ、コモチマンネングサなどの「子持ち」は無性芽やむかごを着けることによる。食虫植物イシモチソウは虫を捕まえる粘液で石も持ち上げるから。オオカサモチには大きな傘のような花序がある。ところが、ミミモチシダAcrostichum aureumには耳がない。学名のaureumは“黄金色の”という意味なのだが、これをauriculatum“耳片のある”と読み違えたのがことの起こりという(岩槻1992)。

<“もち”の付く植物>
(餅)サトイモ科:ユキモチソウ.(黐)モチノキ科モチノキ属:ムニンモチ、シイモチ、アマギヒイラギモチ、ツゲモチ、ツゲモチ、モチノキ、イヌモチ、エナシモチノキ、ナリヒラモチ、ヒメモチ、ホソバヒメモチ、リュウキュウモチ、シマモチ、アツバモチ、クロガネモチ、オオシイバモチ.ツチトリモチ科:キュウシュウツチトリモチ、リュウキュウツチトリモチ、ミヤマツチトリモチ、キイレツチトリモチ、ヤクシマツチトリモチ.バラ科:カナメモチ、オオカナメモチ、シマカナメモチ.ホルトノキ科:コバンモチ、ナガバコバンモチ.モクセイ科:ネズミモチ、シロミネズミモチ、ケネズミモチ、ハイネズミモチ、ムニンネズミモチ.ツツジ科:モチツツジ、シロバナモチツツジ.(子持ち)シシガシラ科:イズコモチシダ、コモチシダ、ハイコモチシダ.オシダ科:コモチイノデ、コモチナナバケシダ.ベンケイソウ科:コモチレンゲ、コモチマンネングサ.キク科:コモチミミコウモリ.イネ科:コモチオオアワガエリ.(石持ち)モウセンゴケ科:ナガバノイシモチソウ、イシモチソウ.(傘持ち)セリ科:オオカサモチ.(耳持ち)イノモトソウ科:ミミモチシダ.

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イシモチソウ 2009.6.4 岐阜県多治見市


しゃしゃ [さ行]

 ツツジ科スノキ属の常緑低木のシャシャンボの「しゃしゃ」。国語辞典で引いても「しゃしゃりでる」ぐらいしか、「しゃしゃ」の文字は出てこない。『牧野植物図鑑』を見ると、シャシャンボは「ささんぼ(小小ん坊)」の意味で、実が小さく丸いからとある。なるほど「ささ」であれば、ささぐり(小栗)、さざなみ(小波)、ささめゆき(細雪)など、小さいという意味での用例はたくさんある。しかし、植物名に、小さいという意味で「ささ」が用いられている例は見当たらない。植物標準和名に出てくる「ささ」はすべて「笹」を意味しているようだ。
 さて、小さな丸い実をつける木はシャシャンボに限らない。シャシャンボはブルーベリーの仲間で実が食べられるから、特に実にちなんだ名前がついたのだろうか。江戸後期の百科事典のような資料、『物品識名』(岡林 清達・水谷 豊文、1809)を見ると「シャシャンボ、別名ワクラ」で見出しはあるが説明は全くない。同じく植物図鑑のような資料、『草木図説木部』(飯沼慾斎、1865未出版)には、「ワクラ」の見出しで解説があり、その中に“葉シヤシヤキニ似テ小”との記述がある。この「シヤシヤキ」はツバキ科ヒサカキ属の常緑低木のヒサカキであり、ヒサカキは、シャシャンボに葉の形状のみならず、白い鐘状の花を付け、小さな黒い実がたくさんなるという点でも似ている。
 岐阜県植物方言辞典(金古弘之、2010)によれば、岐阜県西濃地方にシャシャンボをワクラ、岐阜市にヒサカキをシャシャキという方言があることが記録されており、飯沼慾斎は岐阜県大垣市の出身なので符合する。さらに、日本植物方言集成(八坂書房編、2001)によると「シャシャキ」は、静岡、愛知、兵庫赤穂・加古、山口厚狭、岡山、徳島美馬、香川、愛媛、高知土佐、福岡粕屋でヒサカキの方言となっている。また、シャシャンボにはササボ(三重)の方言がある。さらにシャシャンボ、ヒサカキ、アセビ(ツツジ科アセビ属)の方言として、シャシャビ、シャシャブ、シャシャボといったシャシャ**系の方言が多数ある。
 これらの3種は花・葉・実の形状が似かよっている。小さな実が食べられるササブがシャシャンボとなり、類似しているヒサカキやアセビにもシャシャが使われることになったのではないだろうか。

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ヒサカキ(シャシャキ) 2009.4.3 琵琶湖竹生島

かてん [か行]

 カテンソウは「山渓ハンディ図鑑 野に咲く花(林弥栄監修1989)」をみると、“花点草”と表記されている。“加天草”と書くと、これはケナシサルトリイバラ(Smilax glabra、別名:山帰来)のことになる。さてこの“花点”、「野草の名前 春(高橋勝雄2002)」では、“花あるいは雄しべが点のように小さい”からと説明している。なるほどそうだが、いかにも後付けっぽい。牧野日本植物図鑑改訂版(1939、初版1930)には由来不明とあるので、比較的最近の後付けのようだ。
 「植物和名語源新考 新装版(深津正1995、初版1976)」に詳細な記述があった。深津氏によると、カテンソウが日本の書物に最初に登場するのは、「物品識名拾遺(水谷豊文1825)」で、“カテンサウ”と記載され漢名はない。中国では、「植物学大辞典(上海商務印書館1918初版)」に“高墩草”があり、江戸時代の渡来中国人にこの草の名を尋ね、その発音“Kau tung chaw”を日本流かな書きにしたのがカテンソウであろうとしている。“墩”は、“土盛り・小山”の意味なので、カテンソウは土手に生える草と解釈できる。
 しかし、最近の中国語の植物図鑑に“高墩草”の表記はなく、中国高等植物図鑑第1冊(中国科学院植物研究所1972初版)では“花点草”、「台灣高等植物彩色圖誌 第三巻(應紹舜1988)」では“花點草”となっている。これは、おそらく日本で作られた漢字名が中国で採用されたものであろうが、“花点”が日本で使われ始めたのが、いつなのかわからない。そして、本来の漢名“高墩草”はどうなってしまったのだろう。
<カテンの付く植物>
カテンソウ、ヤエヤマカテンソウ

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カテンソウ 2003.4.6 神奈川県愛川町八菅山

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