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にっぽん [な行]

 帰化植物には、アメリカアゼナやオランダガラシ、あるいはブラジルコミカンソウなど、原産国や渡来元の国名が植物名に付く例が少なからずある。日本原産の植物も外国に行けば「日本の」と名前に付けられるわけで、クズ(葛)は”Japanese arrowroot”、イタドリ(虎杖)は"Japanese knotweed"と呼ばれている。ちなみにこの2種は、「世界の侵略的外来種ワースト100」(国際自然保護連盟:IUCN)に名を連ねるやっかい者である(日本では有益植物でもあるのだが・・・)。
 さて、では日本在来の植物で日本を名乗る植物があるかというと、環境省のリストにはたったひとつだけあり、それはホシクサ科ホシクサ属ニッポンイヌノヒゲEriocaulon hondoense Satakeである。同属にはイヌノヒゲE. miquelianum Koernickeというよく似た種があり本州~九州に分布するが、ニッポンイヌノヒゲは北海道~九州に分布する。想像するに、先に外国人の命名によるイヌノヒゲがあり、後に日本人により発見され、日本の本土全体に分布するイヌノヒゲの新種に、あえて日本と名付けたということか。
 なお、古い図鑑にはニッポンサイシン、ニッポンタチバナの記載があるが、現在はそれぞれウスバサイシン、タチバナと呼ばれている。

ニッポンイヌノヒゲ2008岐阜県七宗町.JPG
ニッポンイヌノヒゲ 2008.10.15 飛水峡(岐阜県七宗町)
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ねなし [な行]

 根無し草とは水面を漂う浮草のことで、転じて生活の拠り所が定まらない人をも指すようになった。ただし、植物のウキクサには立派な根があり、根の本数が種の見分けのポイントともなっている。この場合「根無し」は根を地中に降ろさないという意味である。
 植物名に「根無し」を持つものにネナシカズラ(根無し葛)の仲間がある。彼らには地中に降ろす根はない、正確には発芽直後しかなく、寄主にたどり着けなければ死ぬこととなる。たどり着ければ寄生根という特殊な根を寄主に降ろす。この場合「根無し」は寄生するという意味である。
<本当に根の無い植物>
ネナシカズラ、ハマネナシカズラ、クシロネナシカズラ、アメリカネナシカズラ
アメリカネナシカズラ20191112石川河川公園SS.jpg
アメリカネナシカズラ 2019.11.12  羽曳野市石川河川公園
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なるこ [な行]

 鳴子(なるこ)は、音を出して田んぼから鳥を追い払うための仕掛けで、神社に奉納する絵馬のような形の板の表面に、ひもで短い竹筒(あるいは棒状の板)を数本ぶら下げ、板と竹筒がぶつかると音が出るという仕組みのものである。お米が実る収穫期には、田んぼの周囲に張り巡らした縄に、いくつも鳴子をぶら下げ、日がな一日、縄の端を引いて雀を追い払う。かつての日本ではどこにでもあった光景なのであろう、鳴子は秋の季語であり、鳴子と稲田と雀がデザインされた模様は伝統的なもので帯や手ぬぐい、茶道具など様々なものに見ることができる。しかし、本物の鳴子は今や田んぼにはなく、わずかに観光施設の忍者屋敷でくせ者の侵入防止の仕掛けとして見られるぐらいである。
 植物では、ナルコユリ、ナルコスゲなどに鳴子の名が見られる。どちらも長い柄にぶら下がる花(花穂)をナルコの竹筒に見立てたものである。残念ながらゆらしても音はでない。
 「ちかづきの鳴子鳴らして通りけり(蕪村)」

<“なるこ”が付く植物>
ナルコユリ、ヒュウガナルコユリ、ホソバコナルコユリ、ミヤマナルコユリ、ヒメナルコユリ、オオナルコユリ、ナルコビエ、ナルコスゲ、アゼナルコ、イトナルコスゲ、アズマナルコ、タカネナルコ、ツクシナルコ、オニナルコスゲ

ナルコユリ20130601岩湧山..jpg
ナルコユリ 2013.6.1 岩湧山

なんばん [な行]

 「蛮(ばん)」あるいは「南蛮(なんばん)」は、本来は、漢民族が南に住む未開民族に対して用いた蔑称である。中華思想を取り入れた古代日本では、同様に「蛮」を南方の地域の別称として用い、日本書紀では、神功皇后記に百済の南海、今でいう済州島を指して「南蛮」が、持統天皇記に、種子島を指して「蛮」が用いられているのが確認できるが、広く、鹿児島県西方の甑列島(五色島)、南方の吐噶喇列島(薩摩七島)から沖縄(琉球)に連なる南西諸島を指したようである。しかし、16世紀になると、日本を訪れるようになったポルトガル人やスペイン人を南蛮人と呼び、南蛮貿易が行われるようになる。貿易により得られた文物は南蛮渡来とされ、異国風で物珍しい文物の代名詞となった。
 南蛮を名前に持つ植物は13種を数えるが、南西諸島を分布域とすることにより命名されたと考えられるものに、ナンバンホラゴケ、ナンバンアワブキ、ナンバンキブシ、ナンバンツユクサ、ナンバンキンギンソウの5種と、外来種ではあるが南西諸島に定着したナンバンコマツナギ、ナンバンアカアズキ、ナンバンルリソウの3種が挙げられる。外国から来たという意味で命名されたものとしては、中国からの渡来であるがナンバンカラムシがある。ナンバンギセルは日本に広く分布するがその形態がパイプに似ているから。そして最後はナンバンハコベ、この植物、北海道から九州まで分布するが、花の形が変わっているので、外国から来たものと勘違いされたらしい。

<なんばんが付く植物>
ナンバンホラゴケ、ナンバンアワブキ、ナンバンカラムシ、ナンバンキブシ、ナンバンツユクサ、ナンバンハコベ、ナンバンギセル、オオナンバンギセル、シロバナオオナンバンギセル、ナンバンコマツナギ、ナンバンアカアズキ、ナンバンルリソウ、ナンバンキンギンソウ

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ナンバンギセル 2014.9.15 奈良県曽爾高原

なんきん [な行]

  南京(なんきん)は中国の都市名である。長江下流域の中心都市として、いくつもの王国の首都となり、明代には北京に対して南京と名前が付けられる。長江に作られた南京港は、東アジアの貿易拠点となり、江戸時代に長崎に入港するオランダ船や中国船によって日本に持ち込まれた品々は、産出国がどこであれ、南蛮渡来か南京渡来ということになったのであろう。南京豆、南京玉、南京錠、南京袋、南京虫など様々な渡来物に南京が冠せられた。
  当時、日本では中国のことを、唐(とう、から、もろこし)と呼んでおり、唐を冠する物も当然ある。しかし、南京の方がエキゾチックな感じを実感できたのだろう。現代の国語学者は、物の名に付けられる南京の意味を、単に中国渡来のものという意味だけではなく、中国渡来の珍奇なもの、または小さく可愛らしいものと解釈している。
  南京が名に付く野生植物にナンキンナナカマドがある。日本自生の種であり、葉の小さなナナカマドの意味である。一方、街路樹などに使われるナンキンハゼは中国原産であり、貝原益軒の大和本草(1708)に「近年異邦より来る」との記載がある。木蠟採取を目的に持ち込まれたと思われるが、暖かい地方で紅葉が楽しめる数少ない樹木として、日本人に受け入れられたようである。

<南京を冠する植物>
ナンキンナナカマド、ナンキンナナカマドモドキ、ナンキンハゼ(外来)。

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ナンキンハゼ 2011.11.3 大阪府堺市(植栽)

にんじん [な行]

  ニンジンといえば今では野菜の人参(セリ科)のことであり、生薬の人参は朝鮮人参あるいは高麗人参と呼ぶのが普通と思うが、もともと人参といえば生薬の方である。生薬人参は、ウコギ科の多年草Panax ginseng(和名:オタネニンジン)の根であり、その形が人体に似ているのが名の由来という。オタネニンジンは御種人参と書き、徳川吉宗の頃、幕府が国産人参の栽培を奨励し、人参の種子を各藩に分け与えたことによる。
  一方、野菜の人参は1600年代に日本に渡来したとされ、生薬の人参と区別するため芹人参と呼ばれた。今では単に人参といえば野菜と立場が逆転した。
  「○○ニンジン」という植物は数多い。根あるいは花・葉が人参に似ているために着けられた名前と思うが、はてさて、生薬の人参に似ているのか、野菜の人参に似ているのかわからない。なお、オタネニンジンと同じウコギ科のトチバニンジンは、日本薬局方に記載される生薬竹節人参(チクセツニンジン)の基原植物である。

<にんじんを名乗る植物>
アブラナ科:ジャニンジン、エゾノジャニンジン。アマ科:マツバニンジン、キバナノマツバニンジン(帰化)、ウコギ科:トチバニンジン。セリ科:イワニンジン、ウバタケニンジン、オオウバタケニンジン、カラフトニンジン、オナガヤブニンジン、ヤブニンジン、ミヤマニンジン、シムラニンジン、ムカゴニンジン、シラネニンジン。キキョウ科:マルバノニンジン、ツリガネニンジン、ハイツリガネニンジン、ツルニンジン、ミドリツルニンジン、シブカワニンジン。キク科:クソニンジン、カワラニンジン。

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ツリガネニンジン 2010.8.21 伊吹山


なよ [な行]

  「なよ」は、「なよやか」、「なよよか」、「なよらか」の「なよ」。よく言えば「しなやかなようす」を表し、弱竹(なよたけ)は細くしなやかな若い竹のこと。悪く言えば「よわよわしいようす」で、「なよなよ」とくればなお悪い。なよなよした男といえば、ほめている場合はあまりないだろう。
  環境庁の植物目録(1988)には、「なよ・・・」という植物は4種記載されているが、一つはよっぽど弱々しいのか、「なよ」が二つ付くナヨナヨコゴメグサである。他はナヨシダ、ナヨテンマ、ナヨクサフジ。帰化植物のナヨクサフジを除けば、高山や岩場が生育地であったり、腐生植物であったりと、身近に見られるものではない。
  ナヨクサフジは、ヘアリーベッチと呼ばれるマメ科の1~2年草で、雑草抑制と緑肥の目的で畑に導入されている。クサフジに比べれば「なよ」なのかもしれないが、畑から逃げ出して道路の植樹帯に生えている姿には、弱々しいようすは微塵もない。

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ナヨクサフジ 2010.5.9 愛知県扶桑町

 [な行]

「な」は菜っ葉の「菜」である。「○○○菜」という植物は多数あり、七草粥にする七草の中には、ナズナとスズナ(蕪)の二つに菜がつく。菜は食べられることを意味している。小松菜、野沢菜など野菜の名前に付くのは当然として、山菜にも、ヨメナ、コウゾリナ、ソバナ、ツルナなどがある。アカバナは赤花ではなく実は赤葉菜であり、サラシナショウマは葉を水にさらして食べたことによるという。
山菜の場合、標準和名としては菜がつかなくとも別名・地方名となれば菜がつくものは多く、スイバはすか菜、ハナイカダはむこ菜、スベリヒユはひょう菜、ヨブスマソウはほん菜・どう菜、ウワバミソウはみず菜と呼ばれる。
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写真:ナズナ 2007.4.5 岐阜県可児市

ねこ [な行]

猫が付く名を持つ植物は、環境庁のリストによれば別名も含め44種と、犬の231種に比べればはるかに少ない。
44種の内31種はネコノメソウの仲間である。蒴果が裂開したところを猫の細くなった瞳孔に見なしたものとされる。9種はネコヤナギの名を持つものである。冬芽の芽鱗が脱げ落ちて現れる花序は、ふっくらとした銀毛に覆われ猫のしっぽのようである。また2種はネコノチチの名を持つ。その果実の形が猫の乳首に似ていることによる。
これら以外は少数派である。ネコノシタ(標準和名ハマグルマ)の葉は分厚くて表面がざらつき猫の舌のようである。ネコハギは「毛が多いことからイヌハギに対して」と牧野富太郎博士は言う。犬に対してというならば、イヌシデに対するネコシデ、果穂が猫の尾に似るとも言う。虎に対してというならば、ミズトラノオに対するミズネコノオがありしっぽ状の花補を付ける。なお、ネコヤマヒゴタイという植物は、広島県の比婆山系猫山で最初に発見されたことによるもので猫そのものではない。
蛇足だが、猫じゃらしと呼ばれるエノクログサの仲間には猫が付く名を持つものはない。ちなみにエノコログサは犬の子草の意である。
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写真:ネコノメソウ 2008.3.27 愛知県瀬戸市海上の森

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