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はまでら [は行]

 外国産の植物なのに日本の地名が付く植物がある。お察しのとおり、外来植物に発見地の名前が付く場合で、ナルトサワギクの「鳴門」、シナガワハギの「品川」、ハマデラソウの「浜寺」がある。アリタソウの「有田」は駆虫薬(虫下し)となるこの草を栽培していた場所だという。徳島県鳴門町、東京都品川区、佐賀県有田町は現存するが、浜寺町は堺市に編入され現在は堺市西区の町丁にその名が残る。ハマデラソウは浜寺の海岸において牧野富太郎によって発見され命名される。浜寺とその近辺の海岸に広く分布していたようであるが、沿岸の開発により堺市からは消滅した。堺に由来する植物の消滅を惜しむ市民団体が、泉大津市で発見し繁殖に成功する。現在では浜寺公園の他、浜寺の名が付く小学校などで保護されている。ハマデラソウは外来植物なのに大切にされている不思議な植物である。

ハマデラソウ20220703浜寺公園.jpg
ハマデラソウ 2022.7.3 堺市浜寺公園
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べに [は行]

 紅色は赤の中でも鮮やかな色を指して使われるが、特定の1色というわけではなく、ある範囲の色を意味している。一般に色というのはそういう性格のものだと思うが、工業製品の規格となれば、それでは困るわけで、特定の色に限定されている。日本産業規格(JIS)では、紅色をマンセル表示で「3.5R 4/13」としており、パソコンの検索ボックスにこの色の16進のカラーコード「#B92946」を入力すると・・・、ほら鮮やかな赤が出て来たでしょう。この色はベニバナ染の濃染の色とされるが、ベニバナの花の色はオレンジ色である。「ベニバナ○○」という名前を持つ植物は18種を数えるが、この中で濃い赤と言えるのはベニバナイチゴぐらいで、多くはピンク色に近い色か一部に紅が入る程度である。花に限定せず「ベニ○○」というものに目を広げると・・・、いました。ベニシダの新葉は紅と呼ぶにふさわしい。
<紅をさす植物>
紅花:ベニバナヤマシャクヤク、ベニバナミヤマカタバミ、ベニバナヒメイワカガミ、ベニバナギンリョウソウ、ベニバナコバノイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ベニバナマルバイチヤクソウ、ベニバナコメツツジ、ベニバナノツクバネウツギ、ベニバナスイカズラ、ベニハナヒョウタンボク、ベニバナハコネウツギ、ベニバナニシキウツギ、ベニバナボロギク、ベニバナタンポポ、ベニバナヘビイチゴ、ベニバナクロイチゴ、ベニバナイチゴ.その他:サイゴクベニシダ、ベニシダ、ミドリベニシダ、ホコザキベニシダ、マルバベニシダ、オオベニシダ、ホホベニオオベニシダ、ムニンベニシダ、チチジマベニシダ、ギフベニシダ、キノクニベニシダ、ミヤマベニシダ、タイトウベニシダ、ムラサキベニシダ、オワセベニシダ、ウスベニツメクサ、ベニコウホネ、エゾベニヒツジグサ、ウスベニアカショウマ、ベニガク、ベニシベウメバチソウ、オオベニイチヤクソウ、ベニサラサドウダン、ベニドウダン、ベニガクエゴノキ、ベニシオガマ、オオベニウツギ、ナンカイウスベニニガナ、ベニニガナ、ウスベニニガナ、ウスベニチチコグサ、ベニアマモ、ベニチカラシバ、ベニイトスゲ、ベニマメヅタラン、ベニシュスラン

ベニシダ20220504古ヶ丸山4.jpg
ベニシダ 2022.5.4 古ヶ丸山(三重県大台町)
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にっぽん [な行]

 帰化植物には、アメリカアゼナやオランダガラシ、あるいはブラジルコミカンソウなど、原産国や渡来元の国名が植物名に付く例が少なからずある。日本原産の植物も外国に行けば「日本の」と名前に付けられるわけで、クズ(葛)は”Japanese arrowroot”、イタドリ(虎杖)は"Japanese knotweed"と呼ばれている。ちなみにこの2種は、「世界の侵略的外来種ワースト100」(国際自然保護連盟:IUCN)に名を連ねるやっかい者である(日本では有益植物でもあるのだが・・・)。
 さて、では日本在来の植物で日本を名乗る植物があるかというと、環境省のリストにはたったひとつだけあり、それはホシクサ科ホシクサ属ニッポンイヌノヒゲEriocaulon hondoense Satakeである。同属にはイヌノヒゲE. miquelianum Koernickeというよく似た種があり本州~九州に分布するが、ニッポンイヌノヒゲは北海道~九州に分布する。想像するに、先に外国人の命名によるイヌノヒゲがあり、後に日本人により発見され、日本の本土全体に分布するイヌノヒゲの新種に、あえて日本と名付けたということか。
 なお、古い図鑑にはニッポンサイシン、ニッポンタチバナの記載があるが、現在はそれぞれウスバサイシン、タチバナと呼ばれている。

ニッポンイヌノヒゲ2008岐阜県七宗町.JPG
ニッポンイヌノヒゲ 2008.10.15 飛水峡(岐阜県七宗町)
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ひよく [は行]

 ヒヨクソウの「ひよく」は。比翼の鳥の「比翼」。比翼の鳥は古代中国の伝説の生き物であり、1つの翼と1つの眼しか持たず、雌雄が寄り添ってはじめて空を飛べる。ヒヨクソウの対生する葉と葉腋から出る2本の花序を、雌雄2羽の比翼の鳥が合体し、2本の首をそろえて飛ぶ姿と見るらしい。比翼連理は仲の良い夫婦のたとえ。⇒「れんり」参照。

ヒヨクソウ20220610観音峰3.jpg
ヒヨクソウ 2022.6.10 観音峰(奈良県天川村)

比翼鳥(三才図会).JPG
三才図会の比翼鳥(大木康「明代の図像資料」より、http://kande0.ioc.u-tokyo.ac.jp/kande/oki/)
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ひげ [は行]

 鬚はあごひげ、髭は口ひげ、髯はほほひげ、英語ならそれぞれ、beard、mustache、whiskers。全部そろえば泥棒ひげ。犬猫は鼻ひげでナマズも含めて漢字なら髭か、でも英語ではナマズも含めてwhiskersである。植物のひげとなれば、簡単にはわからない。「ひげ」を名に持つ植物は環境省のリストには、変種、品種まで入れれば58種類、ひげを名のる理由はどこかにひげがあるためと思うが確かめるのは大ごとなので勘弁してもらうとして、特定の動物のひげを名のるのは、ホシクサ科イヌノヒゲの仲間が21種、カヤツリグサ科イヌノハナヒゲの仲間が同じく8種と犬が圧倒的に多く、他に複数種あるのは蛇と龍ぐらいである。「ひげ」と「鼻ひげ」の違いは1本のひげのように見えるか、まとまって生えるひげに見えるかの違いか。いずれにしてもひげに見えるのは茎や葉や芒などが多い。花にひげがあるのはヒゲマルバスミレとシラヒゲソウ、オオシラヒゲソウくらいだが、白髭とはよくぞ言ってくれました。一見に値する花である。

<ひげのある植物>
ヒゲネワチガイソウ、オオシラヒゲソウ、シラヒゲソウ、ヒゲケマルバスミレ、イワヒゲ、リュウノヒゲモ、ジャノヒゲ、カブダチジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ、クロイヌノヒゲモドキ、クロイヌノヒゲ、コイヌノヒゲ、イトイヌノヒゲ、ユキイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、ケイヌノヒゲ、ミカワイヌノヒゲ、アズミイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、ナスノクロイヌノヒゲ、ハライヌノヒゲ、エゾイヌノヒゲ、ヒロハイヌノヒゲ、コケヌマイヌノヒゲ、イヌノヒゲモドキ、ヤシュウイヌノヒゲ、シロイヌノヒゲ、マツムライヌノヒゲ、ガリメキイヌノヒゲ、ヒゲナガスズメノチャヒキ、ヒゲノガリヤス、オオヒゲガリヤス、ムラサキシマヒゲシバ、アフリカヒゲシバ、ヒゲシバ、オヒゲシバ、ヒゲガヤ、タツノヒゲ、ムラサキヒゲシバ、アカヒゲガヤ、オオヒゲナガカリヤスモドキ、ヒゲナガコメススキ、ヒゲシバ、ヒゲスゲ、ヒゲハリスゲ、トラノハナヒゲ、イヌノハナヒゲ、イトイヌノハナヒゲ、ネズミノハナヒゲ、ヒメイヌノハナヒゲ、オオイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ミカワコイヌノハナヒゲ、ミヤマイヌノハナヒゲ、ヒゲアブラガヤ、ヒゲナガトンボ

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オオシラヒゲソウ、2022.9.17、取立山(勝山市)
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はんかい [は行]

 ハンカイソウの樊噲は漢の高祖劉邦に仕えた武将。鴻門の地に置かれた項羽軍の陣中の宴において、剣舞に紛れて殺されそうな劉邦を救うため、宴に乱入し大杯の酒と生肉の塊をたいらげ、どさくさに紛れて劉邦が逃げ帰るという「鴻門之会」の逸話で知られる。高さ1mを超えるハンカイソウの勇壮な姿に重ねたという所だろう。もっともハンカイソウの属するメタカラコウ属の植物には、メタカラコウ、オタカラコウ、マルバダケブキなど1mを超えるものは他にもある。あえていうならハンカイソウの裂けた葉が丸い葉を持つ他の種に比べれば勇猛な感じがする。ハンカイソウに似ていて、葉が裂けないのがマルバダケブキだが、マルバダケブキの別名をマルバチョウリョウソウという。張良は劉邦の軍師で鴻門之会に同席している。ハンカイソウに似て葉っぱが割けないならばマルバハンカイソウとなるだろうになぜなのか。その答えらしきものが牧野図鑑にあった。葉の切れ込みが深いものをハンカイソウ、浅いものを変種ダケブキ(チョウリョウソウ)、さらに切れ込みがないものを変種マルバダケブキ(マルバチョウリョウソウ)と区別していたが、ダケブキ(チョウリョウソウ)はハンカイソウに統一され、マルバダケブキが別種として整理されたようである。分類の見直しの結果、名前の由来が分からなくなる例はほかにもあるが、張良の名が植物界から消えてしまうのは、「史記」のファンとしては少し寂しい。

ハンカイソウ20230609雲母橋登山口2.jpg
ハンカイソウ 2023.6.9 雲母橋登山口(四日市市)
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かかやん [か行]

 日本自生の植物なのに外国の地名が付く植物がある。検索する方法がないので見つけたらということで、ナンキンナナカマドの南京市、ボロジノニシキソウのボロジノ(Бородино)村は既に取り上げた。今度はカカヤンバラのカガヤン(Cagayan)州である。カガヤン州はフィリピンはルソン島の北部にある。そこに八丈島の船長儀平なるものが漂着し、バラの種を持ち帰り、その種が赭鞭会(しゃべんかい)という本草学研究会の会員である旗本馬場大助の手に渡り、花咲き実を着け広がったというわけである。馬場大助は絵画に堪能で渡来植物を庭で育て図譜を出版しており、そのひとつ「遠西舶上画譜」(1855)に次のくだりがある。文政十丁亥年は1827年である。
『文政十丁亥年八丈嶋ノ船長儀平「カゝヤン」ト云國ヘ漂流シテ携帰ル種ヲ贈レルヲ下種シテ初テ生ス』
 その後、石垣島に自生が発見されヤエヤマノイバラという名前が付けられるが、すでにバラ愛好家に定着した名前が代わることはなかったということのようである。

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カカヤンバラ 2022.7.3 堺市浜寺公園(植栽)

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じがばち [さ行]

「ジガバチソウの名の由来は花の形がジガバチに似ているから。それじゃあジガバチの名の由来はというと、この蜂が獲物を土の中に埋めるときの翅音(はおと)が『じがじが』と聞こえるからという。なるほど、さて漢字表記は『似我蜂』。え、なぜ『似我』?」
 ジガバチは狩バチであり、幼虫の食料となる獲物(青虫)を捕らえ、毒で麻痺させ、卵を産み付けて土中の巣穴(幼虫室)に埋める。そして土中で孵化し、獲物を食べつくした幼虫は蛹となり、羽化して土中から現れる。このような寄生バチの生態が解明される前の大昔、埋めた青虫が蜂になるのは、埋める際に「似我似我(我に似よ、我に似よ)」と呪文を唱えるからとされた。
 儒教の経典の一つである「詩経」には、『ジガバチが青虫を呪文により蜂にするように、我が子を教え諭し、親に似させなさい』という意の記述があり、孔子の教えにより弟子たちが師である孔子に似ていくことと解釈され、君主による統治には民衆の教化が大切であることの例えともなっていく。さらに仏教では、理屈は分からずとも一心にお経を唱えることによって仏に近づけるという例えとなり、「似我の功徳」という格言を生むに至る。
 植物の名前のはずが、昆虫の名前の覚書となってしまった。

参考文献:井上治彦(2017)ジガバチの系譜、伊丹市昆虫館研究報告、第5号、pp.13-18.

ジガバチソウ20220609観音峰山2.jpg
ジガバチソウ 2022.6.9 奈良県天川村観音峰山

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ひつじ [は行]

 新年の挨拶を最近はネットで済ます人が増えているようだが、昔は皆がにわか芸術家となって個性的なデザインの年賀状を送ったものである。受け取った方としても印刷屋の出来合いのものよりもはるかに楽しい。デザインモチーフは十二支が圧倒的に多く、毎年、十二支の生き物の名前が付いた植物の版画の年賀状を送ってくれる人がいる。うれしい限りである。さて、自分がデザインするとなると、鼠、牛、虎とモデルの選択に困らないが、兔となると7種しかない。さらに羊となるとヒツジグサの仲間3種しかない。逆に選択に悩む必要がなくていいかな、12年前と同じでも誰も気が付かないさ、と開き直るしかない。具体の種は下表に整理した(クリックで拡大)。ただし犬は多すぎて省略したので、「いぬ」の項を参照してほしい。
 なお、ヒツジグサの名の由来は羊の刻(午後2時)に花を開くから。葉の形が羊の足跡に似ているからではない。
羊の表.jpg
ヒツジグサ20220604大阪公立大学付属植物園s.jpg
ヒツジグサ 2022.6.4 まだ12時頃(午の刻) 大阪公立大学付属植物園(栽培)
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 [あ行]

「とらのお」の項で虎の尾を持つ植物が41種を数えることを紹介しているが、ここでは他の動物の尾を整理しておきたい。虎に次いで多いのは雉で12種、以下、鼠5、鯖3ときて、猿と猫と兔が各1である。雉の尾を持つのはキジノオシダとツルキジノオシダの仲間である。その葉の形は確かに雉の尾羽の模様の部分を切り出した形に似ている。イネ科のネズミノオは、細長い花穂にびっしりと着く花(小穂)がまったく横に広がらず棒状なので、確かに鼠の尾に例えるのが妥当と思える。サバノオはその花からは全く想像できない魚の尾ヒレのような実を着ける。マグロでもカツオでもよさそうだが、なぜ鯖なのかは不明。猿については沖縄にウスバサルノオ(別名ホザキサルノオ)というツル性の常緑樹が自生している。あるいはしていたらしい。沖縄県レッドリストではDD(情報不足)となっている。この樹木は東南アジアに広く分布し、和名はツルの形から来たものと想像する。猫にはミズネコノオがあり、これは同属のミズトラノオに比べ小さいことから付けられたもののようだ。イネ科のウサギノオは地中海産の園芸植物で、その花穂はフワフワとしてかわいい。なお、イヨカズラを別名スズメノオゴケといい、同属にミウラスズメノオゴケ(別名ムラサキスズメノオゴケ)があるが、これは「雀の尾苔」ではなく「雀の麻小笥」である。麻小笥(おごけ)とは、麻糸をいれるための円筒形の入れ物だが、現代でいう桶/麻笥(おけ)のことで、その実を雀が使う小さな桶に見立てたようである。

<虎以外の尻尾がある植物>
雉の尾:タカサゴキジノオ、オオキジノオ、キジノオシダ、リュウキュウキジノオ、ハガクレキジノオ、ヒメキジノオ、ヤクシマキジノオ、フタツキジノオ、アイキジノオ、コスギダニキジノオ、オキナワキジノオ、ツルキジノオ.鼠の尾:フタシベネズミノオ、ネズミノオ、リュウキュウネズミノオ、ムラサキネズミノオ、ヒメネズミノオ.鯖の尾:サバノオ、サイコクサバノオ、トウゴクサバノオ.猿の尾:ウスバサルノオ.猫の尾:ミズネコノオ.兔の尾:ウサギノオ.

サイゴクサバノオ花実20210410_0503金剛山.jpg
サイゴクサバノオ 花2021.4.10 実2021.5.3 金剛山
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いちい [あ行]

 聖徳太子が両手に抱き胸にかざしているヘラ状のものを笏(しゃく)という。公家が礼装の際に用いる道具であり木や象牙で作られるが、歴代天皇が即位の際に用いる笏は古来イチイ(一位)という樹木からつくられ、令和の今日に至るまで岐阜県の飛騨一宮水無神社から献上されている。水無神社の奥宮がある位山(くらいやま)にはイチイの原生林があり、このイチイから作られる笏が良質であることから、その昔、天皇がこの樹に正一位の官位を与えたという言い伝えがあり、それが樹の名前となり、さらに山の名前となったという。それがいつのことかというと、水無神社に残る記録からは二条天皇の即位(平治元年、1159)まで遡ることができるが、階位を与えた天皇は仁徳とも天智ともいわれ定かではない。樹木に官位を与えることなどあるわけがないと否定するより、スケールの大きい言い伝えとして楽しむべきことかと思う。
 一位という名を持つ植物にもうひとつイチイガシがある。イチイと同様に笏の材料となったようだが、共通点は材が赤いということ。吉田(2001)は、イチイはイチヒ(甚緋)が転訛したもので、材が甚だしく赤いことを由来としている。イチイの代用品だからイチイガシなのか、材が赤いからなのか、どちらでもよしとしよう。

*吉田金彦、「語源辞典植物編」、東京堂出版、2001

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イチイガシ 2022.4.24 奈良公園
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ふし [は行]

 江戸中頃の百科事典といえる「和漢三才図会」(寺島良安、1712)の「塩(鹽)麩子」という見出し語に、「ふし」と仮名がふられ、俗に奴留天(ぬるて)と云う、とある。現在のヌルデである。ヌルデという樹木に、ヌルデシロアブラムシが寄生し、ヌルデミミフシという虫こぶ(虫えい)を作る。これを「五倍子」といい、「ふし」と読む。ヌルデは「ふし」あるいは「ふしのき」と呼ばれた。五倍子には多量のタンニンが含まれており、染料やお歯黒の原料として利用された。「ふし」の代用品として使用されたのがキブシ(木附子)や、ヤシャブシ(矢車附子/夜叉五倍子)の果実である。「ふし」には五倍子、附子、膚子など多数の漢字が充てられているが、附子は「ぶし」と読めばトリカブトの毒を意味する(「ぶし」の項参照)。なお「ふし」という音を含む植物名の多くは「節」を意味しており、五倍子を意味するのは、ヌルデとキブシとヤシャブシの仲間のみである。

参考文献
・薄葉重、虫こぶハンドブック、文一総合出版、2003.
・山崎青樹、草木染染料植物図鑑1、美術出版社、2012.

<ふし(五倍子)を名に持つ植物>
ヌルデの仲間:フシノキ(ヌルデ)、タイワンフシノキ.キブシの仲間:キブシ、マルバキブシ、ナンバンキブシ、ケキブシ、ヒメキブシ.ヤシャブシの仲間:ヤシャブシ、ミヤマヤシャブシ、アイノコヤシャブシ、タルミヤシャブシ、ヒメヤシャブシ、オオバヤシャブシ.

キブシ20220403雪彦山S.jpg
キブシ 2022.4.3 雪彦山
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ばいも [は行]

 コバイモという種群がある。カタカナの表記からは「コバ芋」やら「コバイ藻」を想像してしまうが、実は小さい貝母の「小貝母」である。貝母は、鎮咳・去痰などの薬効を持つ生薬であり、ユリ科バイモ属のアミガサユリFritillaria verticillata var. thunbergii(中国名:浙貝母)の球根(麟茎)である。白色の鱗片2枚が貝のように合わさり、間に子供の球根ができるのでこの名がある。日本に自生はなく、日本にあるのは同属のコバイモ8種である。バイモ属の学名のFritillariaはサイコロのツボの意で花の形から来ている。前川文夫はこの花を傾いた籠と見て、万葉集に現れ、定説ではカタクリの古称とされている堅香子(かたかご)をコバイモだとし、コバイモの麟茎が2つに割れた形から着いた別称がカタクリ(片栗)と唱えた。つまり堅香子=片栗であるが、片栗は小貝母の古称であり、現在のカタクリは、食用とされた小貝母の減少により代用品となって名を継いだとしている。とても説得力のある説である(クリの項参照)。

参考文献
・原島広至、生薬単、NTS、2007.
・前川文夫、植物の名前の話、八坂書房1994.

<ばいもを名に持つ植物>
ホソバナコバイモ、イズモコバイモ、ミノコバイモ、カイコバイモ、コシノコバイモ、アワコバイモ、トサコバイモ、トクシマコバイモ

トクシマコバイモ20220409大河原高原S.jpg
トクシマコバイモ 2022.4.9 大河原高原

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みちのく [ま行]

 観光キャンペーンを打つなら『東北へ行こう!』より『みちのくへ行こう!』の方が情緒ある旅に聞こえる。そんなこともあってか、現代では「みちのく」といえば東北地方というイメージがある。しかし、東北地方は、江戸時代には現在の青森・岩手・宮城・福島県域の奥州こと陸奥国(むつのくに)と、秋田・山形県域の羽州こと出羽国(でわのくに)からなり、みちのくは陸奥国の別称であった。陸奥は古くは道奥と表記され平安時代には「みちのく」と読まれているが、律令制に基づく国が地方に配置された時代は、まだ東北地方すべてが大和の政権に従っていたわけではなく、大宝律令制定(701年)の頃の陸奥国は福島県以北の辺境の地であり、実際の支配範囲は宮城県南部までと考えられている。その後日本海側に山形県以北の辺境の地である出羽国がおかれ、江戸期に繋がる国の形ができるのは鎌倉時代に入ってからのことである。
 植物名に地理的な分布の意味を持たせるため律令国の名をつけることが多いと聞く、現在の都道府県境よりもより地形・地理を反映するものであるからだろう。実際に、「みちのく」、「むつ」、「では」を名に持つ植物種を数えると、それぞれ14、2、3種。明治の初めには、出羽は羽前・羽後の2国に、陸奥は陸奥・陸中・陸前・磐城・岩代の5国に分割されているので、これらについてみると、羽前:0、羽後ウゴ:3、陸奥:2、陸中:2、陸前:0、磐城:4、岩代:1。現在の県名についてみると、山形:0、秋田:2、青森:4、岩手:5、宮城:1、福島:2となる。「みちのく」だけが多いのは範囲が広いからだろうか。ならば東北と奥羽はというとどちらも0である。植物名つけるなら『トウホク○○』より『ミチノク○○』の方が・・・。

<みちのくの国と県名を持つ植物>
みちのく:ミチノクシロヤナギ、ミチノクキツネヤナギ、ミチノクサイシン、ミチノクエンゴサク、ミチノクネコノメソウ、ミチノクナシ、ミチノクアキグミ、ミチノクコザクラ、ミチノクコゴメグサ、ミチノククワガタ、ミチノクヤマタバコ、ミチノクフクジュソウ、ミチノクハリスゲ、ミチノクホンモンジスゲ.陸奥(むつ):ムツアカバナ、ムツノガリヤス.陸中:リクチュウナナカマド、リクチュウダケ.陸前:なし.磐城:イワキハンノキ、イワキハグマ、イワキノガリヤス、イワキアブラガヤ.岩代:なし.出羽:デワノハゴロモナナカマド、デワノトネリコ、デワノタツナミソウ.羽前:なし.羽後:ウゴツクバネウツギ、ウゴアザミ、ウゴシオギク.青森:アオモリミミナグサ、アオモリマンテマ、アオモリトドマツ(オオシラビソの別名)、ホソミノアオモリトドマツ.岩手:イワテハタザオ、イワテヤマナシ、イワテシオガマ、イワテヒゴタイ、イワテザサ.宮城:ミヤギノハギ.福島:フクシマナライシダ、フクシマシャジン.秋田:アキタブキ、アキタテンナンショウ.山形:なし.

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ミチノクエンゴサク 2022.3.25 勝山市バンビライン

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おうれん [あ行]

 おうれん(黄連)は、中国最古の薬物書である神農本草経にも記載される由緒正しき生薬であり、黄連解毒湯といえば黄檗(おうばく)などの他の生薬と調合された血の道の薬である。基原植物はシナオウレンCoptis chinensisであるが、日本では自生するオウレン属8種のうちオウレン(キクバオウレン)C. japonicaと変種のセリバオウレンC. japonica ver. majorが基原植物として利用されている。神農本草経の成立は後漢の頃とされ、著者・編者は不明である。本書には薬となる365種の植物・動物・鉱物が記載され、黄連のみならず現在でも生薬として使用されているものが数多く含まれている。また、薬は上薬・中薬・下薬に分類されており、上薬は無毒で長期間服用でき健康を作る不老長寿の薬、中薬は病気を予防し体を強くする薬だが毒にもなるもの、下薬は病気を治すためのもので毒があるものとしている。現在の薬事法における副作用リスクに応じた薬品の第3類、2類、1類の分類に似通った考えが、2000年ほど前の中国に既にあったことは驚きである。
参考文献:森由雄、神農本草経解説、源草社、2011.

<オウレンを名に持つ植物>
オウレン(キクバオウレン)、セリバオウレン、コセリバオウレン(ホソバオウレン)、ウスギオウレン、バイカオウレン(ゴカヨウオウレン)、オオゴカヨウオウレン、ミツバノバイカオウレン(コシジオウレン)

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セリバオウレン 2022.3.5 河内長野市横谷

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ゆきわり [や行]

 サクラソウ科のユキワリソウやユキワリコザクラ、キンポウゲ科のユキワリイチゲは、残雪の残る早春に花を開くが、雪を割って出てくるような状況は、これらについては見たことがない。別名「ユキワリ」というフクジュソウなら雪の中に咲く光景を見たことがある(「ふく」参照)。雪の多い地方にはユキワリソウ、ユキワリバナと呼ばれる野草がいくつかあり、日本植物方言集成(八坂書房2001)には、イチリンソウ、ハシリドコロ、シュンラン、ショウジョウバカマ、ミスミソウ類に、ユキワリソウあるいはユキワリバナという地方名があることが記載されている。北陸地方でユキワリソウといえばオオミスミソウを指すようであり、新潟県の草花となっている「雪割草」はユキワリソウと区別するため漢字表記となっている。園芸界で雪割草といえばミスミソウ類のことで園芸品種も多い。
<本名雪割と別名雪割>
本名:ユキワリイチゲ、ユキワリソウ、ユキワリコザクラ.別名:タカネコメススキ(ユキワリガヤ)、ユキノシタ(ユキワリソウ)、フクジュソウ(ユキワリ)、イチリンソウ(ユキワリソウ)、ハシリドコロ(ユキワリソウ)、シュンラン(ユキワリバナ)、ショウジョウバカマ(ユキワリソウ、ユキワリバナ)、ミスミソウ・オオミスミソウ・スハマソウ・ケスハマソウ(ユキワリソウ)

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ユキワリイチゲ 2022.3.13 河内長野市横谷
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かさ [か行]

 傘と笠の違いはお解りだろうか。傘は頭上にかざすもので「さしがさ」ともいい、笠は頭にかぶるもので「かぶりがさ」ともいう。「米国の核のカサに守られていることをいいことに経済力をカサにきて・・・」とくればどっちがどっちか。
 植物の場合はというと判然としないものもあるが、まずは明快なところでカサスゲ、編笠の材料となる菅なので笠。ずばり編笠という名をもつものが、トウダイグサ科のアミガサギリで大きな葉の赤い葉脈が網目模様だから。同じトウダイグサ科だがエノキグサの別名をアミガサソウというのは花の下の苞葉が編笠の形に似ているから。ハナガサノキは花笠の木で赤い集合果を琉球舞踊の花笠にみたてたもの、山形の花笠まつりのものではない。
 一方、明快な傘といえば、地面から伸びた葉の形が柄の付いた傘のようなモミジガサ。若い開き切らない葉が破れた番傘のようで目玉を着ければ妖怪傘化けとなりそうなヤブレガサ。ヤブレガサを大型にしたようなものがタイミンガサで大明は中国の明国の意とされるがなぜかは不明。高さ1.5mともなるオオカサモチは太い茎のてっぺんに散形花序を広げた傘を持つ。湿地に咲くヒキノカサは長い花茎に付く花を蛙の傘にみたてたものである。
 さてここからが悩ましい。イワガサは岩場に生育するシモツケの仲間でコデマリやイブキシモツケのような半球上の散房花序を着け一見笠のようだが、裏から見ると放射状に骨が広がった傘そっくりである。ウメガサソウは梅に似た花を長い花茎の先に下向きに笠のように咲き始めるが、次第に横向きとなり、風にあおられておちょこになった傘のようである。最後はキヌガサソウ、現在は衣笠と表記されるが、これは奈良・平安の時代に高貴な方に従者がかざしたもので天蓋あるいは絹傘といい、現在の傘の原型とされるものである。
<どっちがどっち笠と傘>
【笠】アミガサギリ、キダチアミガサソウ、キ-ルアミガサギリ、アミガサソウ(別名:エノキグサ)、カサスゲ、アカンカサスゲ、アキカサスゲ、キンキカサスゲ、フクイカサスゲ、オオカサスゲ、カラフトカサスゲ、ハナガサノキ、ハハジマハナガサノキ、ムニンハナガサノキ。【傘】タイミンガサ、ニシノヤマタイミンガサ、ヤマタイミンガサオオモミジガサ、テバコモミジガサ、モミジガサ、タンバヤブレガサ、ヤブレガサ、ヤブレガサウラボシ、ヤブレガサモドキ、ヒキノカサ、オオカサモチ。【どっちでもいい】イヨノミツバイワガサ、イワガサ、コゴメイワガサ、ミツバイワガサ、ウメガサソウ、オオウメガサソウ、キヌガサソウ

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ヤブレガサ 2020.4.19 両佛山

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じょうろう [さ行]

 上臈(じょうろう)の臈は、僧侶の出家後の年数のことであり、上臈となれば修行を重ねた偉いお坊様のことをさすが、転じて身分の高い人を意味するようになる。大奥では、一番高位の御台所(将軍正室)付き奥女中の役職名が上臈御年寄である。徳川将軍は、3代家光以降、公家より正室を迎えており、上臈御年寄となるのは京都より御台所に随行してきた公家の娘であった。上臈杜鵑(ジョウロウホトトギス)、上臈蘭(ジョウロウラン)、上臈菅(ジョウロウスゲ)は、身分が高い雅な女性のイメージと結びついたものであろうか。1000人を超える大奥の女性の中に臈御御年寄はたったの3人、植物の上臈も皆、絶滅に瀕する少数派である。ちなみに植物で一番位が高いものと言えばイチイ(一位)の樹である。正か従かは定かでないが、いずれにしても太政大臣クラスである。皇帝ダリアの方が偉い? 外国人なので・・・。

<身分の高い植物の環境省RDBカテゴリ>
ジョウロウホトトギス(トサジョウロウホトトギス):Ⅱ、キイジョウロウホトトギス:Ⅱ、サガミジョウロウホトトギス:ⅠB、スルガジョウロウホトトギス:ⅠB、ジョウロウスゲ:Ⅱ、ジョウロウラン:ⅠA

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キイジョウロウホトトギス 2021.10.10 和歌山県古座川町
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うり [あ行]

 ウリ(瓜)といえば、マクワウリで、他にもハヤトウリ、キュウリ、ニガウリなど、ウリ科野菜の食用の実には瓜が付く。人が食べるには、ちょっとというウリ科の実ものに、カラスウリ、スズメウリがあり、誰も食べられそうにないトゲトゲの実はアレチウリである。ウリ科ではないが似た実をつけるのがウリクサで、ここまでは曲がりなりにもウリの(ような)実を着ける。さて問題はここからで、ウリノキは葉の形がウリに似ている。ウリカエデとウリハダカエデはともに樹皮にウリのような縞模様があるが、ウリに似た形の葉を着けるのはウリハダカエデの方なのでまぎらわしい。ウリカワは瓜皮の意で、その葉の様子はまるで瓜の皮を剥いて田んぼに捨てたように見える。最後はキュウリグサ、見た目どこにもキュウリを思わせるものはないのだが、葉を揉んで匂を嗅いでみるとその名の由来が分かる。
<食えない瓜たち>
ウリ科:カラスウリ、ケカラスウリ、キカラスウリ、ムニンカラスウリ、モミジカラスウリ、オオカラスウリ、リュウキュウカラスウリ、スズメウリ、クロミノスズメウリ、サンゴジュスズメウリ、ホコガタスズメウリ、サツマスズメウリ、オオスズメウリ、オキナワスズメウリ、アレチウリ(外来)、ミヤマニガウリ(外来).アゼナ科(旧ゴマノハグサ科):ウリクサ、シマウリクサ、シソバウリクサ、ケウリクサ、ツルウリクサ.ウリノキ科:ウリノキ、モミジウリノキ、ビロウドウリノキ、シマウリノキ.カエデ科:ウリカエデ、シマウリカエデ.オモダカ科:ウリカワ.ムラサキ科:キュウリグサ.

ウリカワ090823大垣.JPG
ウリカワ 2009.8.23 大垣市
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むし [ま行]

 昆虫の名前の着いた植物は多々あり、マツムシソウ、スズムシソウ、トンボソウ、ジガバチソウなどは、分かりやすいが、どんな虫なのか分からないのがいくつかある。まずはムシクサ(虫草)、よく虫こぶが出来ているのでこの名があるのだが、その虫の正体はムシクサコバンゾウムシである。次はムシカリ(別名オオカメノキ)、葉がよく虫に食われるので「虫食われ」が転じたとされ、その虫はというとブチヒゲケブカハムシなどハムシ類。虫にやられてばかりでもなく、虫をやっつけるのがムシトリスミレにムシトリナデシコ、前者はコバエを葉の粘液で捉え吸収する食中植物、後者は茎の上部に帯状の粘着部分があり、〇〇ホイホイのように密泥棒のアリを捕まえる。どうしても虫の種類が解らないものが2つあって、それはカラムシとタムシバ。カラムシは「唐虫」とばかり思っていたらなんと「茎蒸」、茎を蒸して繊維を採って、苧麻とかラミーと呼ばれる織物にするという。タムシバは「田虫葉」と思っていたらこれは「噛む柴」、噛み癖のある柴犬ではなく、甘みがあり香りのよいこの木の小枝を噛んで清涼剤としたそうだ。

ムシクサ060506各務原浄水公園.jpg
ムシクサ 2006.5.6 各務原市浄水公園
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むしろ [ま行]

 1種類の草花がカーペット状に地を這い地面を覆う光景は、それぞれに素敵なものである。そんな場面をつくるために人が手入れをしているのが庭園やゴルフ場であるが、天然でもカーペットを作る植物は少なからずあり、中には敷物に因んだ名前を持つものがある。キキョウ科のミゾカクシ(溝隠し)は別名をアゼムシロ(畔筵)といい田んぼの畔を薄紫色の花の筵で覆う。バラ科のキジムシロ(雉筵)は草原の黄色い筵。それを使うのは言うまでもなく野鳥のキジ。水面に浮かぶ筵はヒルムシロ科ヒルムシロ(蛭筵)。それを使うのはなんと吸血動物のヒル。筵はワラを編んだ質素な敷物だが、高級な敷物といえばイグサを編んだ茣蓙(ござ)で、蛇の寝床となるメシダ科のヘビノネゴザ(蛇の寝茣蓙)があり、さらに豪華な敷物といえば毛氈(もうせん)で、食虫植物のモウセンゴケ科モウセンゴケの仲間は、赤く色着き緋毛氈となる。

<敷物になる植物>
筵:アゼムシロ、キジムシロ、ツルキジムシロ、ナガバツルキジムシロ、ヒメツルキジムシロ、エチゴキジムシロ、エチゴツルキジムシロ、マルバハタケムシロ、ホソバヒルムシロ、コバノヒルムシロ、ヒルムシロ、フトヒルムシロ、エゾノヒルムシロ、アイノコヒルムシロ、オヒルムシロ.茣蓙:ヘビノネゴザ、ミヤマヘビノネゴザ、ウスバヘビノネゴザ、ヒロハヘビノネゴザ、キリシマヘビノネゴザ.毛氈:モウセンゴケ、コモウセンゴケ、サジバモウセンゴケ、ナガバノモウセンゴケ.

アゼムシロ20150830富田林市.JPG
アゼムシロ 2015.8.30 富田林市

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ところ [た行]

「ところ(野老)」とはヤマノイモ科のオニドコロあるいはヒメドコロのことであり、イモ状の塊茎は古くから食用とされ、古事記には登許呂豆良(ところづら)という表記で登場する。野老という漢字表記は長い鬚のような根を持つ塊茎を翁に見立てたとも、海のエビ(海老)対して野のエビと呼んだともいい、いずれにしても後の当て字である。ではそもそも「ところ」とはなんなのだろう。それには諸説あり、その形からトコリ(凝)、食べ方からトクル(溶ける)を語源とするものがあれば、インドネシア語のtongkol(不定形の塊の意)とするものもある(深津1995)。オニドコロの塊茎を食べる習慣は、現在ではわずかに青森県の一部(南部地方)に残っており、アクが強く苦いので木灰をいれた湯で長時間ゆでて食べるそうである。塊説に軍配をあげたい。「ところ」と同じような古くからの食用植物に「いも」、現在のヤマノイモがあり、万葉集に宇毛(うも)という表記で登場する。こちらの語源説には、ウズム(埋)やウマシ(旨)がある(吉田2001)。現代人にとってみれば、オニドコロもヤマノイモも食用となる部分は、どちらも芋だが、古代人にとっては、塊で食べられるものが「ところ」、土に埋もれていて食べられるものが「いも」であったのだろうと想像する。
ところの名を持つ植物は、ヤマノイモ科の7種の他、ユリ科にアマドコロの仲間3種、ナス科にハシリドコロがある。アマドコロは根茎がオニドコロに似ており、食用とする若芽には甘みがある。ハシリドコロも根茎がオニドコロに似ているが有毒植物で食べると錯乱して走り回るという。

<ところを名に持つ植物>
ヤマノイモ科:オニドコロ、ヒメドコロ、シマウチワドコロ、キクバドコロ、カエデドコロ、アケビドコロ、ウチワドコロ、イズドコロ、タチドコロ、ツクシタチドコロ.ユリ科」ヤマアマドコロ、アマドコロ、オオアマドコロ.ナス科:ハシリドコロ.

*深津正、「植物和名語源新考」、八坂書房、1995
*吉田金彦、「語源辞典植物編」、東京堂出版、2001

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ハシリドコロ 2020.4.11 白髭岳(奈良県)
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あぜ [あ行]

「あぜ」といえば田んぼの畦(畔)と相場は決まっている。アゼオトギリ、アゼガヤ、アゼスゲ、アゼガヤツリ、アゼテンツキ、アゼトウガラシ、アゼトウナ、アゼナ、アゼナルコ、アゼムシロ(ミゾカクシの別名)など、26種ほどリストアップされた。いずれも水田地帯の雑草でアゼムシロなどはその名の通りカーペット状に畦を埋め尽くす。と思ったら1種だけ田んぼにはいないものが紛れ込んでいた。アゼトウナである。アゼトウナは海岸の切り立った岩の割れ目に根をはる草である。この「あぜ」はいったい何なのか。ネットで検索してみると海岸の崩れた崖を意味する古語の「あず」あるいは「あざ」が転じたものという。ところが古語辞典には出てこない。いろいろ探して万葉集をあたってみたら「あず」で2首(14巻3539、3541番)、「あざ」で1首(12巻3046番)発見できた。
まずは14巻3539番。「あずの上に駒を繋ぎて危ほかど 人妻子ろを息に我がする」
その大意は万葉集ナビ(https://manyoshu-japan.com/)によれば、“崖の上に馬をつなぎとめるのが危なっかしいように、人妻のあの子を心にかけるのは危なっかしい(でも心にかけずにはいられない)”
次は3541番。「あずへから駒の行ごのす危はとも 人妻子ろをまゆかせらふも」
その大意は“崖の辺りを馬が行くのは危なっかしい。そのように人妻のあの子に近づくのは危なっかしいが、それでも一度は逢ってみたいものだ。”
「あず」と不倫はどちらも危険というわけだ。「あず」には「崩崖」という漢字をあてるようである。
最後に3046番。「さざなみの波越すあざに降る小雨 間も置きて我が思はなくに」
万葉集ナビではこの歌の「あざ」を田の畔としているが、万葉歳時記 一日一葉(http://blog.livedoor.jp/rh1-manyo/)では“さざなみの寄せる波打ち際に降る小雨が間を置いて降ったり止んだりするような、そんないい加減な気持ちであなたを思ってはいませんよ。”と訳している。他には「あざ」を琵琶湖にある地名と解釈する例もあるようだ。いずれにしても崖ではないようだ。
ここではアゼトウナを「崩崖唐菜」としたい。

アゼトウナ20211123和歌浦.jpg
アゼトウナ 2021.11.23 和歌山県和歌の浦(若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る 6巻919番 山部赤人)
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まつむし [ま行]

 マツムシソウ(松虫草)の名の由来に、松虫が鳴く頃に花が咲くからと説く書があるが、それでは秋の花はみんなマツムシソウになってしまう。この松虫は歌舞伎で巡礼の登場シーンなどに鳴らされる鉦のことである。松虫鉦は床に置いて叩いて使う伏鉦の一種で、その音が松虫の声に似ていることからこの名がついた。仏壇のお鈴(りん)を伏せた形、特に表面に槌目模様がある大徳寺りんなどは、花が終わったマツムシソウの半球状の実と似ている。ところが、実際の松虫鉦、少なくとも現在使われている松虫鉦は半球状ではなく平らなものである。昔は半球状のものがあったのだろうか。松虫の名を持つ植物はマツムシソウ科のマツムシソウとその変種のエゾマツムシソウ、タカネマツムシソウの3種である。蛇足となるが、現在の松虫と鈴虫の名称は入れ替わったもので、昔は逆であったそうだ。そういわれると松虫鉦の音色は鈴虫の声に似ているようにも思えてくる。鈴虫の名を持つ植物にはキツネノマゴ科のスズムシバナとラン科のスズムシソウの仲間があり、スズムシソウの花は鈴虫に似ている。スズムシバナはといえば鈴虫が鳴く頃に花が・・・。

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マツムシソウ 2021.9.25 和歌山県生石高原

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松虫(石川県立音楽堂にて)

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おがたま [あ行]

 オガタマノキの「オガタマ」は、神道の「招霊」(おぎたま)が転化したものだという。神社に神様が常駐しているわけではないので、お祓いや祈祷は神霊を招き降ろす招霊(おぎたま)の儀が必要となる。そのために、神前に米や酒、玉串をお供えする。玉串にはサカキあるいはヒサカキの小枝を用いるのが一般的だがオガタマノキを用いるところもあるという。玉串は、天岩戸の神話で、岩戸に隠れた天照大神の気を引くため、木の枝に玉や鏡を飾り付けたのが由来と語られ、天鈿女命がこれを手にして岩戸の前で舞ったという。この木、古事記ではササとされているが、宮崎県高千穂町の天岩戸神社に伝わる神話では招霊の木となっている。神楽舞で手に持つ鈴はオガタマノキに実がなる様子を真似たものという。さらに、一円硬貨にデザインされた若木はオガタマノキだという説が巷に流れているが、これは都市伝説の類であろうか。

<オガタマを名前に含む植物>
オガタマノキ、ホソバオガタマノキ、ヒロハオガタマノキ、タイワンオガタマ、オオバナオガタマノキ、カラタネオガタマ(外来種)

オガタマノキ20120318堺市草部.jpg
オガタマノキ 2012. 3. 18 堺市草部

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たま [た行]

 「たま」という音を含む名前を持つ植物は50余種ある。その意の多くは「玉(珠、球)」であり、タマシダ(玉羊歯)の塊茎、タマアジサイ(玉紫陽花)の蕾など、植物体のどこかが丸い形を有していることが由来となっている。シラタマホシクサノの白玉、ミズタマソウの水玉など玉を含む熟語の例もあり、クスダマツメクサが薬玉なら1)、ネムロブシダマは附子玉つまり毒の玉である2)。モダマ(藻玉)は丸い種子が海藻とともに漂着するとかいう。
 丸くない「タマ」としては、地名に由来するものがあり、タマノカンアオイの「多摩」、オクタマゼンマイの「奥多摩」は産地を示す。黄色い花を咲かせるタマガワホトトギスの「玉川」は、ヤマブキの名所として知られる京都府井出町の玉川のことで、玉川の名を借りて黄花の意味を表現しているという3)。モモタマナは「玉菜」でキャベツのような葉っぱから、そしてオガタマノキは「招霊の木」で神道の招霊(おぎたま)が転化したものだという。

1)「やく」の記事参照.2)「ぶし」の記事参照.3) 牧野植物図鑑より.

<どこかが丸いのでタマ>
【玉】ジュズダマ、オニジュズダマ、タマシダ、ヤンバルタマシダ、イヌタマシダ、アイイヌタマシダ、タマカラマツ、タマアジサイ、タマツナギ、タマミズキ、ヒロハタマミズキ、ウスゲタマブキ、タマブキ、ハマタマボウキ、タマボウキ、タマコウガイゼキショウ、タマイ、タマミゾイチゴツナギ、タマミクリ、ホソバタマミクリ、タマツリスゲ、ヒロハノオオタマツリスゲ、オオタマツリスゲ、タマガヤツリ、クロタマガヤツリ、【玉咲】タマザキツヅラフジ、タマザキゴウカン、タマザキヤマビワソウ、タマザキエビネ、【玉葉】タマバシロヨメナ、【白玉】シラタマノキ、オオシラタマカズラ、シラタマカズラ、シラタマホシクサ、オオシラタマホシ、【水玉】ミズタマソウ、ヒロハミズタマソウ、【薬玉】クスダマツメクサ、【附子玉】クサネムロブシダマ、【藻玉】モダマ、ムニンモダマ
<どこも丸くないのにタマ>
【多摩】オクタマツリスゲ、オクタマゼンマイ、オクタマシダ、オクタマハギ、【玉川】タマガワホトトギス、【玉菜】モモタマナ、テリハモモタマナ、【招霊】オガタマノキ、ホソバオガタマノキ、ヒロハオガタマノキ、タイワンオガタマ、オオバナオガタマノキ

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ミズタマソウ 2012. 9. 1 赤目四十八滝
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てばこ [た行]

 手箱(てばこ)とは手回りの小道具や化粧道具などを入れておく箱のこと。浦島太郎の玉手箱は、玉(宝石)のような大事な物を入れる小箱か、それとも宝石のように飾られた美しい小箱のことか。どちらともとれるが、我々が博物館で目にする小箱は、みな螺鈿や蒔絵などの装飾が施された美しい工芸品である。手箱の名を持つ植物に、テバコモミジガサ、テバコマンテマ、テバコワラビがある。さぞ美しい姿の植物かと言えばさにあらず。名前の由来は最初の発見地の手箱山(高知県)にある。ならば、手箱山が美しき山かと言えば、普通に美しい山とは思うが、高知県地域観光課のサイトには「山容や山頂らしさに欠けるが、高知県側から見ると文箱をかざしたような端正な頂稜をもつ。」とあり、山らしくない平たい形がその由来のようである。

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テバコモミジガサ 2021. 8. 16 和歌山県護摩壇山

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ふく [は行]

 幸福の福に長寿の寿で福寿草(フクジュソウ)とは何とも縁起のいい名前だ。江戸の時代から正月の床飾り鉢植えとして販売されたこの花の使い道に相応しい名前を店主は付けたのだろう。元日草とも呼ばれたが縁起のいい名前の方が江戸っ子には人気があったに違いない。一説には「福告ぐ草」が転じたともいうが、苦しいダジャレのようだ。さて、この「福」の字義を名に持つ植物だが、ありそうでない。オタフクギボウシは「お多福」で葉が丸くてお多福面型。ダイフクチクは節間が大福餅のように膨れる竹。あとは地名由来で、福島県産のフクシマナライシダ、フクシマシャジン、福井県産のフクイカサスゲ、長崎県天草市天草町福連木のフクレギシダとフクレギクジャク、三重県菰野町の福王山に由来するというフクオウソウがある。沖縄の福木(フクギ)と福満木(フクマンギ)は当て字だろう。「福」は佳字なので地名や植物名の当て字とされたようである。
<福がある植物>
フクジュソウ(エダウチフクジュソウ)、ミチノクフクジュソウ、キタミフクジュソウ、シコクフクジュソウ

フクジュソウ20200307藤原岳.JPG
フクジュソウ 2020.3.7 藤原岳(三重県いなべ市)
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まん [ま行]

 植物名で数え歌を作るなら。♪葉っぱが一枚ヒトツバ(一つ葉)さん、二枚の葉っぱのフタバラン(二葉蘭)、三はおいしいミツバ(三つ葉)だよ、ヨツバムグラ(四つ葉葎)は四枚葉、五でおしまいキタゴヨウ(北五葉)。というわけでこれ以上葉っぱを数えるのは無理。ここからは数字ならよしとして、六:ムツオレグサ(六つ折れ草)、七:ナナカマド(七竈)、八:ヤツデ(八つ手)、九:クリンソウ(九輪草)、十:ジュウモンジシダ(十文字羊歯)。あとは飛び飛びで、十二:ジュウニヒトエ(十二単)、九十九:ツクモグサ(九十九草)、百:ヒャクジツコウ(百日紅、サルスベリの別名)、一気に飛んで、千:センブリ(千振)、そして最大の数は万でこれ以上は見つからない。万が付く植物には、マンネンスギ(万年杉)、マンネングサ(万年草)、マンリョウ(万両)、マンサク(万作)の仲間がいる。またオモトを万年青と書く。いつも青々と元気とか、いつも豊作、お金がいっぱいとか、いずれも縁起のいい植物である。
<万がつく植物>
マンネンスギ/コモチマンネングサ、ナナツガママンネングサ、ハママンネングサ、マツノハマンネングサ、メノマンネングサ、ミヤママンネングサ、オノマンネングサ、マルバマンネングサ、メキシコマンネングサ、ナガサキマンネングサ、ウンゼンマンネングサ、オオメノマンネングサ、ツルマンネングサ、サツママンネングサ、ヤハズマンネングサ、タカネマンネングサ、コゴメマンネングサ、ツシママンネングサ、セトウチマンネングサ、ヒメマンネングサ/マンリョウ、トガリバマンリョウ、ツルマンリョウ/マンサク、アテツマンサク、オオバマンサク、マルバマンサク、ウラジロマルバマンサク、ニシキマンサク、アカバナマンサク、トキワマンサク、ベニバナトキワマンサク

マンネンスギ20190617桧塚奥峰.jpg
マンネンスギ 2019.6.17 三重県桧塚奥峰

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ねなし [な行]

 根無し草とは水面を漂う浮草のことで、転じて生活の拠り所が定まらない人をも指すようになった。ただし、植物のウキクサには立派な根があり、根の本数が種の見分けのポイントともなっている。この場合「根無し」は根を地中に降ろさないという意味である。
 植物名に「根無し」を持つものにネナシカズラ(根無し葛)の仲間がある。彼らには地中に降ろす根はない、正確には発芽直後しかなく、寄主にたどり着けなければ死ぬこととなる。たどり着ければ寄生根という特殊な根を寄主に降ろす。この場合「根無し」は寄生するという意味である。
<本当に根の無い植物>
ネナシカズラ、ハマネナシカズラ、クシロネナシカズラ、アメリカネナシカズラ
アメリカネナシカズラ20191112石川河川公園SS.jpg
アメリカネナシカズラ 2019.11.12  羽曳野市石川河川公園
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