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へび [は行]

 蛇を毛嫌いする人が多い。咬まれると命にかかわる毒蛇もいるので、生物として正しい反応だと思うが、蛇と名のつくもの、すべてに毒があると思うのは過剰反応である。ヘビイチゴ属のヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴの赤い実は、食べておいしいわけではないが毒があるわけでもない。蛇が食べるイチゴという意味と言われる。食用のイチゴはオランダイチゴ属で、シロバナヘビイチゴ(モリイチゴ)など同属の野生のイチゴの実はおいしいのだが、なぜかヘビが付く。キジムシロ属にもオヘビイチゴなどヘビが付くものがあるが、これらはそもそもイチゴのような赤い実を着けない。ヘビイチゴに花が似ているということだろう。
 ヘビイチゴ以外にヘビがつくものとしては、メシダ属のヘビノネゴザの仲間がある。「蛇の寝御座」の意味であり、輪生する葉が、ヘビがとぐろを巻くのに程よい形状という。もちろん、実際にとぐろを巻くわけがないが、このシダの茂るようなところにはヘビがたくさんいそうではある。同属のヘビホソバイヌワラビとヘビヤマイヌワラビは、それぞれヘビノネゴザとホソバイヌワラビ、ヤマイヌワラビの雑種なのでヘビを付けられたらしい。
 他にはメギ科の落葉低木のヘビノボラズの仲間がある。「蛇登らず」の意味であり、枝の鋭いトゲを見るとその由来がわかる。
 植物名には「蛇」を表すのに「ヘビ」の他に、ジャノヒゲのように「ジャ」を用いたものもある。また「ウワバミ」がウワバミソウに使われている。なお蛇のことを古語でクチナワといい、枕草子には、ヘビイチゴが「くちなはいちご」の名前で、「名おそろしきもの」として登場する。

<ヘビが名前につく植物>
バラ科ヘビイチゴ属:ヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴ オランダイチゴ属:シロバナノヘビイチゴ(モリイチゴ)、ベニバナヘビイチゴ、ヤクシマヘビイチゴ、エゾヘビイチゴ キジムシロ属:ヒメヘビイチゴ、オヘビイチゴ
メシダ科メシダ属:ヘビホソバイヌワラビ、キリシマヘビノネゴザ、ヘビヤマイヌワラビ、ミヤマヘビノネゴザ、ウスバヘビノネゴザ、ヘビノネゴザ、ヒロハヘビノネゴザ、
メギ科:ヒロハノヘビノボラズ、アカジクヘビノボラズ、マルバヘビノボラズ、ヘビノボラズ

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ヘビイチゴ 1999.5.3 茨城県つくば市

で(て) [た行]

 カエデ、ヤツデ、イノデの「で」は「手」の意味である。
 Acer(カエデ)属の総称のカエデは、切れ込みのある掌状の葉の形を、蛙の手に見立てた「かえるで」が転訛したものとされる。「モミジ(紅葉)」が、葉の色から付いた名前であるのに対して、葉の形に由来する名前である。環境庁のリスト(1988)では、Acer属55種中30種にカエデが付き、モミジが付くのは8種しかない。カエデの一種にミツデカエデというものがある。この「ミツデ」は「三つ手」で葉が三出複葉であることによる。「ミツデ」は、ほかに葉が3裂しているもの(ミツデウラボシ、リュウキュウミツデウラボシ)や、葉が地表に三出するもの(ミツデヘラシダ)などに使われている。
 ウコギ科の低木のヤツデは「八つ手」であり、文字通りとらえれば葉が8裂するということになるが、実際は奇数になるので7裂か9裂になる。ヤツデ、リュウキュウヤツデ、ムニンヤツデのほか、キク科に葉の形が似ているクサヤツデがある。
 オシダ科のイノデは「猪の手」の意味で、褐色の鱗片に覆われた芽生えの状態からきたものだろう。イノデという名の付くシダ類は50数種を数える。
 これらの他に「手」と解釈されるものに、コノテガシワの「コノテ」がある。ヒノキ科のコノテガシワは、中国原産だが古い時代に渡来した樹木で庭木としてよく使われている。このコノテは「児の手」の意味で、垂直に広がる枝葉を子供が手のひらを立てたところに見立てたといわれる。

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ヤツデ 2012.2.11 堺市

やま [や行]

  桃太郎の昔話では、おばあさんは川に洗濯に、おじいさんは山に柴刈にでかける、この山は地形的な山を意味しているわけではなく、畑(ノラ)や集落(ムラ)に隣接する雑木林(ヤマ)、今に言う里山である。植物の名前に付くヤマも概ね里山にあるという意味で、地形的な山を意味したい時には、ミヤマ(深山)、オクヤマ(奥山)という言い方をする場合が多いように思う。
  とはいえ「山」の付く植物はとても数が多い。単に「ヤマ」という音を含む植物は500を超え、そこから深山、奥山など意味の異なるもの、地名、山岳名などを除いても100弱の植物が残る。残されたものを眺めてみると、その中には「山にある」という意味だけではなく、栽培種に対し「野生の」という意味が感じられるものがある。栽培種にその名を奪われ、本来の名に山を付けて区別されたようだ。
  ヤマナシはこれを原種として現在の梨がつくられたとされる。ヤマガキは栽培されるカキノキ(柿)の変種に分類され、カキノキは奈良・平安時代に伝来したとされる。ヤマグワは養蚕のため中国から持ち込まれたマグワ(トウグワ)に対し、ヤマウルシは漆塗のために樹液を採取するウルシ(中国原産)に対し、付けられた名のようだ。ヤマモモ、ヤマブドウも同じような歴史があると思われる。
  ヤマザクラは日本に11種ある野生の桜のひとつだ。ソメイヨシノが普及する明治期まで、桜といえばこのヤマザクラのこと、しかし、この桜、江戸時代から山桜と呼ばれている。品種改良され里に植えられる里桜に対し、山に自生する桜の代表ということらしい。

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ヤマザクラ 2009.4.9 奈良県吉野山

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